『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』を語りたい~君はマンガを読んで「至れる」か~
1 私と『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』との出会い
去る2024年12月25日のクリスマス、私は大いにドカ食いならぬマンガの大量購入を行った。VTuberのグッズなんかも合わせて合計3万円以上は使った気がする。何故そんな大量出費をしたかと言えば、クリスマス当日にnoteに一つの記事を投稿し、そこそこ「スキ」をもらえたことで私の中で「これで社会に一つの効用を生み出した。これは『立派な仕事をした』と言っても過言ではない。そんな自分にはご褒美をもらう権利がある。そして今日はおあつらえ向きにクリスマス。そうだ、爆買いをしよう」という思考プロセスである。普段であれば買い控えるマンガであったとしても、「今日はクリスマスだから!」という最強の免罪符を得てとにかく両手いっぱいにマンガを抱え込みながらレジへと向かう。後述する望月さんの言葉を借りれば、「『ある』のがいけない!」のである。そうして何軒かの本屋をはしごした中で買ったマンガの一つが『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』(以下『もちづきさん』)なのである。ちなみに、クリスマス当日に買って食べたローソンの592円の豚丼は実質3万円の味がしたと言っても過言ではなかった。この「実質3万円の豚丼理論」は同じくクリスマスに購入した『平成敗残兵すみれちゃん』(以下『すみれちゃん』)4巻で学んだライフハックである。
※『平成敗残兵すみれちゃん』4巻についての感想記事もnoteに投稿したので、そちらも読んでいただければ幸いである。「スキ」もしていただけると尚嬉しい。だがそれ以上に貴方に『平成敗残兵すみれちゃん』を4巻だけでも騙されたと思って読んでみて欲しい。
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『平成敗残兵すみれちゃん』4巻の勧め~2024年最後の「駈込(かけこ)み訴え」~|4浪U太郎
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閑話休題。帰宅後早速『もちづきさん』の読書に時間を充てようとしたのだが、他の購入した漫画を先に読み切ったり、年末に別のマンガ(上述の『すみれちゃん』)にハマったりと紆余曲折あって、『もちづきさん』を読むのは結局年明けの最初の日曜日である1月5日までかかってしまった。1月4日と5日はせっかくの土日だというのに急なバイトに駆り出されたりなかなか大変だったのだが、最後の最後に『もちづきさん』という怪作に出会えたことが僥倖であった。正月最後に私はマンガで「至る」ことが出来たのである。
今回の投稿は『もちづきさん』の面白さ・魅力について可能な限り語って行けたらと思っている。しばしお付き合いいただければ幸いである。
2 『もちづきさん』とは何か~その魅力・面白さに迫る~
『もちづきさん』とはどんなジャンルのマンガなのか。『もちづきさん』第1巻の単行本帯に付いている宣伝フレーズを借りれば「カロリー爆上げ禁断グルメギャグ☆」である。
話はいったん脇にそれることになるが、日本には古今東西のグルメマンガがたくさんある。パッと思いつくだけでも実写ドラマが何シーズンにも渡って放映され、今年には映画化までもされた『孤独のグルメ』を筆頭に、『クレヨンしんちゃん』や『カイジ』のスピンオフマンガも実質グルメ漫画の部類に入るだろう。『もちづきさん』と同じ女性が主人公のグルメ漫画であれば『女優めし』(原作:藤川よつ葉、漫画:うえののの、集英社ヤングジャンプコミックス)という女優業をやっている健康的な美女が健康的にグルメを堪能している漫画もある(『女優めし』で不摂生描写がないのは女優業故である)。他にも『美味しんぼ』や『ラーメン発見伝』、『食戟のソーマ』等々…挙げればキリが無い。
これだけグルメ漫画が飽和している中で、なぜ私の中で『もちづきさん』が煌めきを発していると思ったのか。それは、『もちづきさん』が劇中で食べてる食事内容だけでなくその作品自体の内容の面白さもハイメガマックスカロリー爆高のオモシロ漫画だからである。
『もちづきさん』の主人公である望月美琴さんは21歳の営業事務職の社会人である。社内では同僚の社員とのコミュニケーションも問題なくやりとりでき、昼休みに食べる弁当も自炊で作ったものを食べるという、パッと見は至って「普通の」OLさんである。しかし、食事が絡むと彼女は変貌する。会社の同僚からも「(始まった…食事前の精神統一(?))」と注目されるくらいには異様な光景であることがわかる。
そして問題の彼女の食事シーンである。通常のグルメマンガ・美食マンガであれば美味しそうな料理を美麗な画力で見せつけ、それを美味しそうに食べるキャラクターの表情やリアクション(場合によってはリアクション=お色気シーンになることもある)が魅せ場になるだろうが、『もちづきさん』においてはそういうセオリー通りにいくわけではない。そもそも食事に至るまでの彼女の思考が「オナカスイタ」「もう限界」「家までガマンできない」「おなかすいたおなかすいたおなかすいた!!」…などと作者の手書き文字で書かれていることが切迫している彼女の心情を表しており、食事を美味しくいただくよりも、如何に早く空腹を満たすかという本能的な欲求から来ているもので、他のグルメマンガでは味わえない狂気を感じ取れることだろう。そして、満を持してのカロリー爆弾とも言える食事シーンでの望月さんの台詞ときたら、「キタ枯渇した脳にキタ」とイケナイ薬物をキメたかのような台詞のオンパレードである。他にも「『ある』のがいけない‼!『ある』のがいけない‼‼」とパワーワードを生み出しまくっているのが読むのを止められない理由の一つでもある。
これらの描写は望月さんが平日の勤務のある日を描写したものであるが、休日であれば望月さんの食欲が収まるのかと言えばそんなことはない。もちろん、望月さんも休日くらいは素敵な一日を過ごそうと買い物に行ったり映画鑑賞したり勉強したりと充実した計画を練っているのだが、いざ実行に移すとなると結局ドカ食いに塗りつぶされていくのである。そうして最終的には月曜朝7時半を「日曜31時半」と定義することで日曜日の延長を図り朝食を豪勢にすることで素敵な休日を過ごしたとアリバイ作りに走るのである。『平成敗残兵すみれちゃん』4巻では「3万円の牛丼を食べたことにするライフハック」が紹介されていたが、創作上の「おもしれー女」というのは金銭や時間といった数字に関わる概念をいともたやすく簡単に歪めてみせるのが魅力的(!?)なのである。
そんな望月さんも1巻の健康診断の時点で体重増加という客観的事実に直面し、ダイエットを決意する。ただ運動したり簡単な食事改善だけではすぐに良い結果が反映されなかったため、最終手段として健康管理アプリを導入することになる。当初は健康管理アプリが悪霊のように望月さんに語りかけるという幻聴が聞こえるほどにアプリに従順になるという強迫観念に駆られていた望月さんであった。だが、やがて悟りを開いた望月さんはアプリをアンインストールし、「彼女(=健康アプリ)は何処かへ行ってしまったようだ…。ならば次は私が…理論を唱える番だ」と暴走を始める。そして彼女のイカレた理論は以下のように暴走を極める。
彼女のイカレた理論はまだまだ留まるところを知らない。ついでにコマ外の注意書きも説明責任は果たしたというアリバイ作りのためか、フォントの大きさもどんどん大きくなっていく。
さらにトドメは「カロリー1/2マヨネーズ」を視界に捉えた時である。彼女の脳には深刻なバグが生じているのか、1/2マヨネーズをかければかけるほどカロリーが減っていくという社会人にあるまじき算数の計算ミスをしているのである。カロリー計算も「3615kcal×1/2×1/2×1/2×1/2…」とおかしな数値を出している。『Dr.STONE』の石神千空君ならば「雑頭にも程があんだろ」とあきれるだろうし、『呪術廻戦』の五条先生ならば「算数のお勉強は大事ってことだよね」と煽るだろうし、『ジャンケットバンク』の真経津(まふつ)さんは「え?望月さん大丈夫?小学校卒業してる?マヨネーズをかけるからって1/2も掛けるわけじゃないんだよ。足されていくんだよ」とか平気で言いそうだし、また『ジャンケットバンク』の御手洗君は「ギャンブラーでもないのに何をやってるんだこの人は⁉」とドン引きするだろうし、同じく『ジャンケットバンク』の村雨先生は「貴方はカロリーを控えたほうがいい。まずはそのマヨネーズを止めろ」と冷静にマジレスするだろうし、引き続き『ジャンケットバンク』の獅子神さんならば「オメーは黙って座ってろ!代わりにオレがメシを作る!」と世話を焼いてくれるかもしれない。
このように、本来自炊をすることは割と褒められることの筈なのになぜか自炊すればするほど破滅へと突き進む望月さんが端から見ている分には面白いのである。
3 おわりに~私はカロリーの高いコンテンツが好き~
『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』という作品を読んで改めて私が知ったことは、私はカロリーが高めの作品が好きだと言うことである。私にとっての「カロリー」とは何か。それは単に食事に用いられるエネルキーの単位ではない。もっと概念的なものである。すなわち、コンテンツの持つ面白さやその面白さを支える技術や情熱・愛情といったものがふんだんに取り込まれているものを意味するのである。音楽で言えば静かなクラシック・コンサートよりもハードロック・ヘヴィメタルな音声が響き渡るライヴの方が好きだし、アニメで言えば何も考えずに楽しめる日常系のアニメやラブコメよりも、昭和的なノリの熱血アニメ(具体例を挙げると『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』、『プロメア』のようなノリの作品、あるいは『戦国BASARA』や『幕末Rock』といったもの)や色々考えさせられる哲学的なアニメ(『攻殻機動隊S.A.C』や『PSYCHO-PASS』、『ジョーカー・ゲーム』や『楽園追放』)の方が好きだったりする。
※誤解の無いように念のため書き記しておくが、前者で挙げたものが嫌いというわけではない。ただ、前者で挙げたもの以上に後者で挙げたものの方が圧倒的に大好きというだけである。
令和の日本は何かと社会的には深刻な課題の多い世の中ではあるが、ことエンタメ業界においては幅広いカロリーの高いコンテンツが多く存在し、またカロリーの高い新規コンテンツがどんどん供給されていく。そんな世の中で今日も生きていたいと思うのであった。
最後に一つ。『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』は1巻が出たばかりで今から読み始めても間に合うコンテンツである。もし肌に合わなくても損切りし易いとも言える。とにかく一度は読んでみる価値がある作品である。とにかく言いたいことは一つだけ。
「もちづきさんはいいぞ」。
読者の貴方が健康に良い(あるいは、時には不健康になる程のハイメガカロリーな)良質コンテンツに触れるきっかけになれたら良いと願っている。