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有馬温泉らしいSDGsとカーボンフリーの浴場考

そもそもの話・・・

九州の宿で事件発生

九州福岡の宿で浴槽は年に2回しかお湯を入れ替えていない。基準値の何千倍ものレジオネラ菌が検出されて、塩素殺菌をしていなかったという報道がされて、大変な騒ぎになった。

有馬温泉にも複数の新聞社から取材依頼があったが「今回は勘弁してほしい」と言って、その理由を説明した。

浴槽におけるレジオネラ属菌(単純にレジオネラ菌ではなく60種類ほどあるので属菌というのが正しい。以下の文章では略してレジ菌と呼ぶ)対策が非常に難しい。また温泉の泉質によっても対策が異なる。そして温泉水を殺菌する事に抵抗する温泉愛好家が多いという事もある。

だからそれをちょっとの取材で説明できないし、それらをすべて報道してもらえないからというと、記者は納得してくれた。

有馬でのレジ菌事件が発生した

一部でも報じられたが、昨年有馬温泉のかんぽの宿(今は無い)を利用したお客様が、レジ菌による肺炎で亡くなった事がある。

最初に言っておきますが、温泉の浴槽ではなく、水道水を沸かした普通の浴槽での話。

事件発生後、行政が関係者を集めて講習会を有馬で開いた。
そこで、かんぽの宿での浴槽管理の状況が語られたが、さすが郵政が運営していただけに定められた必要な事はちゃんとやっていた。

ではなぜ?発生したか! 今までの知識で循環回路にバイオフィルムが形成されていたんだなと思った。だが循環回路内のバイオフィルム除去は容易ではない。
事件後に浴槽からレジ菌を完全に無くす為に循環回路内を含めて3回も行ったそうだ。

通常の次亜塩素などによる殺菌ではバイオフィルム内のレジ菌を殺菌すことはできない。

では循環回路などに存在するバイオフィルムを除去するにはどうするかというと、ひとつは過酸化水素を使用する。擦り傷が出来た時などオキシドールという薬品があった。塗ると泡が立つ消毒剤。あれだ。

この過酸化水素の濃い液体を浴槽に入れて循環回路使って浴槽から循環回路内を回すと、白い泡が大量に発生する。その後、中和して流すのだが、すごい手間と時間とコストがかかる。
つまり日常循環回路内を清掃することは現実的でない。
出来ないと言っても過言ではない!

説明者に質問した。「だったら何故 事故は起こったのか?」

「塩素濃度測定の機器が正常でも、機器が間違っているかもしれないと思って対応するべきだ。」と講師は言うのだけど、あまりにもバカげている話だと思った。

そこで「車を走らせていてスピードメータの数値が間違っているかもしれないと思って走ると社会が混乱するするでしょう!」と講師を突き詰めた。

60歳以上の男性がレジオネラ肺炎を発症する!

神戸市の保健所から依頼されている講師は返答に困って「60歳以上の男子が危ない!」と言った。
「女性はレジオネラ肺炎を発症しない!」とも言った。

レジオネラ肺炎は男女平等ではないのか!?

国立感染症研究所

さらに興味のある人は国立感染症研究所のサイトを上部でリンクしているのでご覧ください。

レジオネラ症はもともとアメリカで空調機の水冷式の室外機が原因で発症したように、加湿器など温泉以外でも発症する。
だから最近、噴水は見かけなくなったでしょう?

神戸市の浴場管理指針

レジ菌対策として各地域の保健所が指針を定めている。

神戸市の浴場管理指針を見ると、循環回路を設けている浴槽は、週に1回以上の浴槽水の入れ替え、定期的な残留塩素の検査と記録が義務付けられている。
もしくは循環回路のない浴槽は、毎日の浴槽水の入れ替えること。

となると、温泉の浴槽は循環回路を設けなくて、毎日浴槽水を入れ替えればよいのだ。

ただ・・・レジ菌が検出されないように清潔に保ち、必要であれば殺菌しなければならない。いずれにしても責任は宿側に課せられる。

湧き出た有馬の湯は100.5℃。泉源から御所坊の貯湯槽までは約85℃ぐらいになり、館内に設けている貯湯槽には60℃~70℃ぐらいの温泉がある。
清掃後、温泉だけで浴槽を満たすと適温になるまで相当の時間がかかる。

だから「加水しない」という言葉は使わないようにして、浴場を夜間使用中止にして、浴槽水を抜いて、浴槽を清掃後、温度を下げる為に水を加えて適温にして朝の営業再開までに満たせばよい。あとは温泉だけを利用して現在の様に適温を保てば良い。

出来ないことはないと思った。

そこで白湯の浴槽を蒸し風呂にしたら良いのではないかと考えたのだ。

白湯はどうする?

有馬では白湯という言い方をする浴槽がある。有馬の温泉は特に塩分濃度が濃い為に、海水浴後シャワーを浴びなければ身体がかゆくなるでしょう?
あのような状態になるので、昔から白湯と言って水を沸かした普通の浴槽を有馬温泉の多くの宿は設けている。

かんぽの宿も、この白湯でレジ菌の事故が起きた。御所坊も白湯があるので同様の事が起こる可能性は十分ある。

60歳以上の男性は「入浴不可!」というしかないのか!?

温泉地の未来のために・・・

有馬温泉・御所坊らしい蒸し風呂考

蒸し風呂は古典的な入浴方法だし、有馬の太閤の湯殿館にも400年前の蒸し風呂が再現されている。

御所坊の庭園貸切風呂の偲豊庵の建設の際に参考にした、松江の不昧公の湯殿付き茶室管田庵の湯殿も蒸し風呂だ。

だから蒸し風呂の歴史や文化についてはいくらでも語れるのが、それについては別の機会に設けようと思う。

まず神戸市の保健所に蒸し風呂の衛生基準について問い合わせをした。

「60℃以上の温度で提供するので、殺菌などの衛生基準はない」というので白湯のレジ菌対策として進めようと考えた。

どこの蒸し風呂が参考になるか!?

いろいろ調べた結果、群馬県のみなかみの辰巳館さんの蒸し風呂を見せてもらう事にした。

山下清のタイル画、ペンキ画の大浴場
大浴場の隅に蒸し風呂エリアが設けられていた。
床がスノコで座るスペースが設けられていた。

みなかみの温泉の温度は有馬ほど高くないので、蒸し風呂に注ぐ温泉の温度と湯量の重要な部分を教えてもらった。

SDGsとカーボンフリーを考慮して

御所泉源に隣接している弊社の施設(湯屋松風)の溝に、貴重な有馬の温泉が溢れることがある。

泉源の配湯槽から弊社の敷地内に設置している温泉タンクに注がれているが、温泉タンクがいっぱいになると溝にあふれ出る。
温泉は井戸水と同じ扱いで、浴槽に入れない限り雨水の扱いなのです。

湯屋松風の貸切風呂の一つ(白湯浴槽)

この白湯浴槽を使って蒸し風呂の実験をしようと考えたのです。

スタイロフォームで囲ってみた。

断熱材のスタイロフォームで浴槽と天井を囲んだのです。

底にはスノコ

内部はこのように粗目のスノコを貼りました。
排水に筒をつけて、この筒の長さを変える事で水位の調節ができる。

スタイロフォームなので簡単に穴をあける事が出来るので、温泉の浴槽からパイプをつなぎ、源泉を注ぎました。

温度が高いと85度ぐらいになるので危険です。60℃ぐらいにする必要がある。温度の微調節をどうするかなどの課題は残っていますが、蒸し風呂として使えそうです。

もちろんお客様に提供する本番の蒸し風呂は、内部をどうするか?
外部をどうすれば素敵になるかなど、蒸し風呂だけでなく浴場全体を改修する必要があります。

しかしレジオネラ菌対策として、高温の有馬の温泉の特徴を活かした蒸し風呂と、実際入浴する温泉の浴槽を備えた浴場は、有馬唯一になると思います。

そしてうまくいけば、御所坊の関係の白湯の浴槽はすべて蒸し風呂にしようと考えています。

そして、入浴する温泉は循環回路を設けずに、毎日潅水する。

白湯は蒸し風呂で高温の湯を使うので殺菌不要。さらに温泉水を使用するのでボイラーの湯を使わない。SDGsだ!

そして殺菌剤などの化学物質を使わない温泉が出来ます!

そんなことを言うか!?

前例のないことをしようとすると行政はうるさい。
有馬の温泉には硫化水素と炭酸ガスが含まれている。

「蒸し風呂で、硫化水素や炭酸ガスで、人が死なないことを証明しろ!」というのです。

硫化水素は硫黄とよく間違えられますが、玉子の腐ったような臭いにおいが硫黄のようにします。
有馬の温泉は火山性でないので硫黄は含まれていません。

太閤の湯殿館で炭酸ガスによる事故が起こった時に、温泉学の西村進先生は、有馬の湯には人が死ぬような硫化水素は含まれていない。と言っていました。そして炭酸ガスは高温の温泉が湧出した瞬間に空気中に放出されます。

保健所職員立ち合いで実証実験

保健所立会いの下、有毒ガスの検査をしましたが、まったく検出されませんでした。

・・・でもいくつか注文を付けられました。

換気扇を設ける。
温度計を取り付ける。
非常通報装置を付ける。
という一般的なサウナに必要なものを取り付ける必要があるとのこと。

実働に向けて

白湯の浴槽のかまちに壁を立て、見通しが悪いならばペアガラスで解放感を出したらよいか!?
ぐらいの実験に近い状態で実際にお客様に入ってもらって評価を得て、次の展開につなげたいと考えていましたが、「防水をやり直したら」というので、天井を残してタイル部分を撤去して防水をやり直す事にしました。

頭の中で工事個所の必要なものを考え巡らせていると、蒸し風呂を既存の温泉浴槽に作って、白湯の方に温泉を入れた方が良いのではないかと思いつきました。

さっそく「レイアウトできる?」と設計士に伝えて作成してもらいました。

蒸し風呂を出て冷たいシャワーを浴びれるように、蒸し風呂部分は3方向を壁にして、脱衣場は2人同時に髪を乾かせるようにしないといけないなあ。

温泉の浴場の部分を蒸し風呂改造中!

洗いやすい温泉浴槽は?

温泉浴槽内に循環装置を設けない。現在もありませんので、毎日潅水すれば問題はない。
しかし大浴場の改修の事を視野に入れて清掃をしやすいようにしたい。

現在の温泉の浴槽を見て頂くとわかるのですが、隅の方が茶色くなっている。そこに汚れが溜まるとい事だと思います。

温泉を使用しているとこのようになります。
角の部分の汚れが多いので丸くしようと思います。

そこで、いったんタイルを剥がして、モルタルを塗り、角の部分を丸くすることで洗浄の際に流しやすいように加工する。

浴槽内の角を洗いやすいように丸くしたのですが、まだ乾いていないので曲線が見えにくい。

加工した浴槽をプールのようにコーティングしたいのです。
まず最初に業者を探したのですが、耐熱性やピンフォールが出来て剥離するのではないかという懸念がありリタイヤされました。

ステンレスにしても有馬の温泉では錆びてしまう。

ある業者に実験のプレートをつくってもらいました。
これを温泉に浸けて・・・

約1ケ月後に引き上げてみると・・・・・

あっと驚くような状態になっていました。

結局、モルタル仕上げだけにしておくしかないと考えています。

付加価値の創造

今回はボイラーを使わないので、ガスを使用しない。カーボンフリーの取り組みに寄与すると考えています。

そして今回は、壁のタイルに凝ろうと思っています。

有馬の温泉のストーリーを組み込みたい。

そこでモザイクタイルの作家さんに声をかけ、制作を依頼しています。

製作途中
このように原画に近いタイルを敷き詰めていきます。

さあどのようなものが出来上がる楽しみです。
今回はタイルの納期などに時間がかかってしまい、年末年始に間に合うかどうかわかりませんが、仕方がありません。

次の浴場の改修時は、そのことを考慮して行おうと考えています。



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金井啓修
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