舞い上がる心の底の澱渋く デキャンタージュがまだへたくそで 何を見てどうなら良いのか分からねど 神妙な顔でグラスを回す 社交場で見知った顔を見つけたような 安心感よピノ・ノワール
いぬの鼓動 ことんことんと温かく 小さな夜汽車は眠りに向かう ゴミ置き場 並んだふたつのスーツケース 互いの旅を語り合う夜
大水槽 煌めく魚群に美味しそうと 微笑むあなたが妻で良かった 落鮎はほのかに西瓜の香りして 夏の終わりをじっと見つめる 生き死にも喰う喰われるも受け入れて あるがままなる その静かな眼
この曲はあの日の君と聴いた曲 違う名字を持ってた頃の 左手はいつでも繋げる準備して 右手で持てるバッグを探す 用途欄「デート」を選んでちょっと照れる 久しぶりの外食TableCheck
ささくれた心に応急薬として 何度も塗り込む not my day 平日に列をなしてた欲望は 週末になると行方不明で みぞおちのあたりに腕を突っ込んで 疲れを全部引きずり出したい あの日からあなたの好きな何もかも わたし以外に向かう気がして 苦手なの 猫も蜜柑も紫も 嫌な記憶を連れてくるから
日焼け肌の少しざらつく薄皮の 下に隠した瑞々しさよ 秋ですか もう秋ですよ、と ひそひそと 顔を寄せれば微かな芳香 しゃりりでも ほっくりでもなく 適切な擬音を探し また梨を喰む
さっきまで気になる髪色あったのに 美容師に告げる「いつも通りで…」 鏡越しの自分が好きじゃない時は おそらく全部前髪のせい 絶景とご当地グルメの色彩に はらりはらりと降る髪束よ 首筋に流れる泡の気配して 横たわる身体少しくねらす 明日こそ切りに行こうと決意した 翌朝に限ってベストバランス
お気に入りの厚手の服を取り出し 汗ばむ肌に また仕舞い込む 猛暑日を告げるテレビの横に立ち 胸張り我を見る扇風機 二桁が見えた気がして外を見て 再度見返す来月の暦 画面越し上着を羽織る人を見て 意外と日本は広いのだと知る 飲み過ぎて終電逃してくだを巻く 夏の背を撫で始発を待つ
人生の無数の分岐のどこかでは 名前も知らないあなたとわたし 躓いた石にも意味があったから どんな道でも行ける気がする 前世とか来世とか何故か信じてる 魂の定義もあやふやなのに これまでに出会った人にひとりずつ 謝って回りたい そんな日がある 今ここであなたと生きていることが それが全てでそれだけでいい
古傷も抱えた不安も紐解けば 鏡だったね よく似たふたり わたしの半身はあなたでできていて 残りの自分を愛せずにいる 皮膚が邪魔なのです 全て融け合って キメラになってしまえばいいのに 湯けむりの薄暗闇の温もりに あの時キスもすれば良かった 不確かな己の価値をすぐ傍の 寝息が埋める 嵐の夜に
浮遊して我らの銀河が砂粒になる頃 溶けて眠りに落ちる 夢の中だけで良く知る街並みの あの先にだけいつも行けない なるほどと思った瞬間目が覚めて なるほどの理由掴めず笑う 横跳びなら進むとネットで知ったから 追われる夢を期待し眠る 落下して飛び起きる直前まで確かに ベッドの底は抜けていたのに
あなたとの日々は日常的すぎて どこにいても思い出の場所だよ 連絡も寄越さずどこか遠い地で 元気にしてる だけならいいのに 待ち合わせしてないけれど あの場所に行けばあなたに会える気がして きみのこと声から忘れてゆくならば 一緒に動画を撮ればよかった 写真でも記憶でも笑顔しかなくて あのとき気づけなくてごめんね