「日本主義」とは何か
「日本主義」とは、おおよそ、思想や制度、方針その他諸般において、日本の独自性を重視するものである。
ただし、「日本主義」は、特定個人の思想ではなく、日本民族の歴史とともに発展したものである。そのため、これを説くものの個性により、「日本主義」の内容は多少異なる。
よって、以下では、「日本主義」発展の経過を追いながら、複数の人物・団体の立場や思考について概観する。
「日本主義」の萌芽
維新後、「欧化熱」流行(詳細下記記事)
明治十一、藤井惟勉の祖先崇拝論の高唱
十二、田中知邦の神道の鼓吹
西村茂樹其の他の基督教思想を排し儒教を根拠とする道徳論
⇒欧化熱より醒めて我国固有の精神文化の価値を認め、反抗の気勢を上げたもの
二十一、政教社結成(三宅雄二郎、志賀重昂、杉浦重剛、菊地熊太郎、島地黙雷ら論壇)
機関雑誌「日本人(後に、日本及日本人)」
趣意書「当代ノ日本ハ創業ノ日本ナリ。然レバ其経営スル処転タ錯綜湊合セリト雖モ、今ヤ眼前ニ切迫スル最重最大ノ問題ハ蓋シ日本人民ノ意匠ト日本国土ニ存在スル万般ノ囲外物トニ恰好スル宗教,教育,美術,政治,生産ノ制度ヲ選択シ以テ日本人民ガ現在未来ノ嚮背ヲ裁断スルニ在ル哉」
→日本に適した制度を選択すべき
日清戦争・三国干渉
清国の弱体が明らかに→英米仏独露、支那に野心、露国は満州~朝鮮まで
→この国難にあたり、国民主義的精神が旺盛に
「日本主義」の出現
三十頃、高山樗牛、井上哲次郎、湯本武比古、木村鷹太郎ら「日本主義」唱導
⇒彼等は実際運動として大日本協会創立、大なる効果を挙げ得ずほどなく衰滅
日本主義=日本国民本来の特性に基づいて、建国時の計画・抱負・理想の実現を目指す道徳的原理
人種や土地が違えば、発達方法も違う
→世界を画一的に規律することはできない(ある種の文化相対主義)
国民の意識・自覚に基づいた発達目指すべき
日本主義は、この(日本国民の)意識・自覚に基づいたもの
日本主義においては、
・常に軍備を充実させ、国民の団結を強固にする
・一方、それをむやみに誇示し、排外的になるものではない
・友好国と共に平和を維持し、人類が友情で結ばれることを期待する
「日本主義」の勃興
昭和三~五、日本共産党勢力強大
進歩的青年の多くは影響下にあり、プロレタリア革命の日近きを確信する有様
⇒三千年来培われた日本精神国家主義思想は自ら国民の一部に擡頭しつつあり
欧州大戦直後~
啓蒙運動あったが、政治の動向に影響は与えられず
満州事変~
国民一般に日本主義、国家主義思想旺盛、政治的一大勢力となり、不穏事件頻発
この時期の日本主義、国家主義思想は、以前の保守的反動的傾向に反し積極的革新的傾向
目標は日本的立場による資本主義制度排撃に概ね一致
日本の特殊性を認めざる唯物的共産主義(こちらも資本主義排撃)と対立
天野辰夫
下中弥三郎
日本主義に関する諸団体
猶存社
満川亀太郎、大川周明ら、マルクス主義を排斥し、日本主義による国家改造を計画
綱領
・革命日本の建設
・日本国民の思想的充実
・日本国民の合理的組織
・民族解放運動
・道義的対外政策の遂行
・改造運動の連結
・戦闘的同志の精神的鍛錬
精神的復古的日本主義でなく国際情勢を達観し大亜細亜建設を主張
同時にその遂行上必要とする国内改造を計画
大学寮
大正十頃~ 小尾晴敏・安岡正篤ら「社会教育研究所」設立
当時流行のデモクラシーの風潮に対し、伝統日本主義を青年に吹き込む
牧野伸顕(当時宮内大臣)、関谷貞三郎(同次官)、荒木貞夫ら諸将軍その他少壮士官が出入り
十一頃、大川周明、同人となり日本主義の講義受け持つ
猶存社解散以後、この所内に居を移す
小尾は地方を講演して廻り、大川が事実上の主宰に
→大学寮と改名
満川亀太郎、安岡正篤と日本主義の鼓吹
十四年六月、西田税が軍職退き、来る
→彼を通じ、陸軍士官学校の候補生、青年将校連も出入り
藤井斉(海軍将校)はじめ、彼を通じ古賀清志(五一五関係者)らが冬期休暇中出入り
十四年、宮内庁より建物取り払いを要求され廃止
大日本生産党
「大日本主義を以て国家の経綸を行う」
「日本主義の立場に立つ国民運動…天皇信仰の基礎に立ち民族本位の立場に立つべきもの…反資本主義は、この立場より帰結せらるる結論であって西欧社会主義の主張と其の理論根拠の本質を異にする」
日本精神と日本主義
・日本精神=抽象的なもの
・日本主義=日本精神から発しその時代の道徳、政治、経済等に表現せられるもの
緋田工
熱意=日本精神
表現、内容竝形態=日本主義運動
津久井竜雄
平和の時には民族が結合するため必要
変革の時には相剋の程度緩和し、少ない犠牲で大きな変革する役割
日本主義は日本精神のような抽象的なものと違い、具体的主張政策有するため、万人に同意はされない
純正日本主義(精神派)と国家社会主義(理論派)
・純正日本主義
民族共同態の血族的事実に準拠して理想国家を構図
神話を愛し基礎とする
諸精神を主とし理論は第二
日本精神の作興、国体明徴を高唱
直観的会得、古典、行事等に淵源求める
・国家社会主義
社会科学の理論的根拠より国家を単位として理想社会志向
科学に求め神話基礎としない
ただし自ら国家社会主義を標榜する者は稀
・共通点
日本精神の振起による現在社会諸機構の再検討、再組織
精神派の主張
安岡正篤
日本主義の真意は「日本の国民的国家的生活行為の総ての根柢にしっかりと日本独自の創造性を体認せしめようとするもの」
「日本独自の創造性―所謂日本精神は之を記述説明しようとしても畢竟水中の月をとらえるに等しい」→在外の日本人から触発受け悔悟するほかない
説明されない所に独自性
生半可な知識で主張される標語(「あだなる『ことあげ』」)をもっとも憎んだ
→理論闘争や軽薄な批評でこの世の中が何とかなると思うと大間違い
日本主義の「主義」=『義を主とす』
義=実際行為、世に当たって決定すべき具体的行為
「日本的に行動すること」≠理論・言語・文章
行動は叡知でなければならず、人生観や世界観含んでいなければならない
中谷武世
「日本主義とは一つの人生観であり世界観…。単なる観念ではなく血と意識との通った生活原理」
体系づけられた国民意識であり民族感情
解説・分析・批判・検討されるものでなく、主張・共感・直観・内省せらるべきもの
端的に言えば日本本位主義、日本第一主義、日本至上主義
国際政治、政治生活経済生活、文化生活等の一切の部面を通じて、終始『日本』に立脚して呼吸し、意識し、思念すること
思惟、学問の世界に於ても或る真理或る理想に日本を当てはめることであはなく、常に日本そのものを原理とすること
国体観念の明徴、かむながらの道の実現説き、歴史的回顧、民族的自省
右翼革新運動の根本義=「かむながらの大道」「神国日本の実現」
梅本寛一
→現在の問題や風潮に応じた一時的な感情のみで国家の改革を目指すことは違う
松永材
⇒自称日本主義者(理論派)の主張も、結局外来思想の域を出ず、日本的でない
天野辰夫
一切の第一前提は「我」とは何であるかと云う問題を根本的に解決すること
従来の「我」は、人類又は個人→誤り。
⇒日本人は、天祖である伊弉諾尊・伊弉冉尊の子孫
血脈を通じて、日本列島誕生当時の使命を背負っている
使命=世界の完成、諸民族の救済
(筆者注:おそらく「葦原中国のことむけ」、「天孫降臨」、「神武東征」もその延長にある。)
理論派の主張
精神派は一種独善的境地に彷徨しているとの批判
小栗慶太郎
津久井竜雄
雑誌「国家社会主義」昭和七年二月号より
日本主義者の国家社会主義排撃は片腹痛い
真の日本主義は結局国家社会主義
日本主義者も資本主義は悪いといい国家経済機構の建て直しを必要とされる
しかし、代替制度を社会主義と称することを嫌い、日本主義でなければと誤魔化す
日本主義は一つの精神主義で、国家経済制度ではあり得ない
我々は資本主義経済制度の変革を必要としているのであって、日本精神の変革を要求するのではない。
資本主義日本を社会主義日本に置き換えることが真に日本精神を資本主義の冒涜から救出すること
復古的日本主義について
欧米の文化・思想に随喜した日本が当面した行詰りを打破り、新しき日本を目指す日本主義運動が、何故古き日本に指導原理を求めるのか
土方成美
例:伊太利民族の統一運動、ビスマルクの独逸民族建設運動、伊太利ファシズム革命、明治維新に於ける本居宣長
白柳秀湖
国家が内部の変革必要として促されて居る時には、同時に国際上の死活問題が、外部から迫っていることを通則とする
大化の改新、明治維新、昭和維新
この際の反動復古思想は、新しい理念が打ち建てられるまでの過渡期に於ける清掃作用
参考資料
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