とっておきの京都手帖9 「ホイット! ホイット!」
<小暑/ 祇園祭の主役>
17日は、午前中に山鉾巡行があった。
鶏鉾のトラブルもありながらも、後続の山鉾たちが鶏鉾のすれすれの距離を互いに気遣い協力しながら抜けて行き、進行を続けられたことにも胸が熱くなった。
きっと、鶏鉾に起こったトラブルは他人事ではなかっただろう。
現代は、目まぐるしいほどの技術の革新で、いかようにも便利さと手軽さを追求できる。
しかし、はるか昔からの伝統を受け継ぎ、人力を要する祇園祭においては、先人たちの知恵と工夫、そしてあまりにも精巧な職人技に感服する。
祇園祭を毎年楽しみにする観客の一人として出来ることは、誰も怪我をすることがないようにと、ただただ一切の進行の無事を祈るばかりだ。
お稚児さん、禿さんの決定を今か今かと待ち、7月1日から17日の山鉾巡行、夜に行われた神輿渡御までを、伴走してきたような思いで見ていると、祭の熱気で流れる汗とともに、毎年違った表情のある祭の一コマ一コマに涙もあふれ出て来る。
「神幸祭」と呼ばれる前祭の神輿渡御が、17日の夕刻から行われた。
雅な音色に包まれる中スタート。
白馬に乗った「駒形稚児」(久世稚児、久世駒形稚児ともいう)は、神輿渡御の「中御座」神輿(素戔嗚尊)を先導する。
京都市南区久世にある綾戸国中神社からの奉仕で、駒形を稚児の胸の前にかけていることから、「駒形稚児」と呼ばれる。
八坂神社南楼門にて、神輿を担ぐ棒である轅を組み、神輿を安定させ、準備が整う。
そして西楼門前の石段下に3基の神輿が集まるのだ。
3基の神輿とは、
「中御座」と呼ばれる素戔嗚尊の神霊を祀る神輿、
「東御座」と呼ばれる櫛稲田姫命の神霊を祀る神輿、
「西御座」と呼ばれる八柱御子神(八柱御子命ともいう)の神霊を祀る神輿だ。
「東御座」の櫛稲田姫命は、素戔嗚尊の妻。
「西御座」の八柱御子神(八柱御子命ともいう)は、素戔嗚尊と櫛稲田姫命の8人の王子達。
王子と言えど、五男三女の神々だ。
この3基の神輿こそ、祇園祭の主役なのだ。
3基の神輿が、八坂神社から四条御旅所へ渡り、四条御旅所から八坂神社に還るまでを中心とした祇園祭。
行われる順番としては、
17日前祭の山鉾巡行で町を清め(露払い)、同日夜に神幸祭と呼ばれる神輿渡御(八坂神社〜四条御旅所)があり、
24日後祭の山鉾巡行で町を清め(露払い)、同日夜に還幸祭と呼ばれる神輿渡御(四条御旅所〜八坂神社)がある。
神輿渡御の前後には、細部に至るまで諸行事があり、その上ではじめて、祇園祭が進められていく。
さあ、いよいよ渡御の開始だ。
「ホイット!ホイット!」
八坂神社西楼門の石段下で、かけ声のもと、それぞれの神輿が担ぎ上げられる。
これを「差し上げ」という。
その後、時計回りに回転させる「差し回し」が行われる。
「まーわせっ!(まーわせっ!)」
要所でも行われる。
男衆の熱気が観衆にまで伝わる。
「ホイット!ホイット!」
観衆からの声も加勢し、祭が一体となる。
「中御座」と呼ばれ、素戔嗚尊を祀る六角屋根の神輿を担ぎ、奉仕するのは、「三条台若中」、通称「三若」、「三若神輿会」の方々。
「東御座」と呼ばれ、櫛稲田姫命を祀る四角屋根の神輿担ぎ、奉仕するのは、「四若神輿会」の方々。
「西御座」と呼ばれ、八柱御子神(八柱御子命ともいう)を祀る八角屋根の神輿を担ぎ、奉仕するのは、「錦神輿会」の方々だ。
皆様、テレビ等でも神輿渡御の様子をご覧になったかもしれない。
どこに行くにも「ホイット!ホイット!」。
伏見稲荷大社の「稲荷祭」や、松尾大社の「松尾祭」で神輿渡御の際にも聞こえてくる。
「ホイット」は「祝人」と書く。
手持ちの辞書を何冊か引いてみたところ、「祝人」としての記載はないが、「祝」について、「はふり」と読み、「かんぬし」「神官」の意味を持つとあった。
神社、神事に仕える人のことをいうのだろうか。
「祝人」と漢字で書き、読むだけで、こちらまで目出たさに目を細め小躍りしそうになるではないか。
この「ホイット」、よく聞いていると、そのかけ声の速さで神輿の動きが決まってくるようだ。
「ホイット」のかけ声を発するにも、担ぎ手(輿丁)の様子をよく見て、「ホイット」のリズムを工夫していると聞く。
たくさんの担ぎ手(輿丁)が入れ替わりながら進み、狭い通りや高さに配慮すべき箇所もあるため、幾重にも安全第一だ。
勢い良く進んでいる時には、神輿の轅(担ぐ棒)の、先に付いている「鳴鐶」が、「カシャンッ カシャンッ」とキレ良く鳴る。
担ぎ手(輿丁)達の熟練ぶりが窺える。
よく聞いていると、神輿によって、担ぎ手(輿丁)達のかけ声が違う。
ーーーー 次回へ続く ーーーー
7月の掲載は、「祇園祭」シリーズとしてお届けしたい。
<参考> 京都府HP
京都市情報館公式サイト
京都市歴史資料館
情報提供システム公式サイト
八坂神社公式サイト
京都新聞公式サイト
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