【詩】硝子市民
僕らは
硝子の身体を持った
清潔な市民です
朧げな青い光を出して
夜の街をさまよいます
顔の半分は隠したまま
素敵な衣装を見せ合います
退屈な夜には
銀河のへりに心を飛ばします
オレンジ色の惑星に
黒い河が流れています
砂漠に埋もれた多目的競技場は
市民のささやかな娯楽のかけら
遠くの星から友達が訪れました
そっと触れてみます
かすかな振動を感じます
あなたは清潔な泡の中にいて
鼻唄をうたっている
あなたの息が金属の粉のように
僕の部屋に拡がっていく
僕らはハンモックに揺られ
月光の変化を鑑賞します
時おり黄色い煙が月面を覆います
もう30年間も
紛争が続いているのです
虫の音に似たノイズの中を
ハンモックは心地よく揺れます
僕らを心地よい眠りに誘います
もうすぐ日付の変わる時刻
耳をすませば
祈りの歌が聞こえます
声帯のない子どもたちが
うつむいて地面をなでています
街の教会の鐘が鳴り
神様が路頭の死者たちを攫っていきます
僕らが眠っている間に
一人ずつ攫っていきます
市長がメガホンで呼びかけています
体ガ砕ケテシマワナイヨウニ
カソケキ声デノ会話ヲ要請シマス
青い夜が続きます
学校の半分は透きとおり
子どもたちは
息を止めて生きています
気配だけが校舎をただよいます
日が沈むと
硝子の市民たちは
こっそりと散歩に出かけます
お腹から光を出して
空に舞い上がります
嫌なことは忘れ
いろんな模様を描きます
尻尾を触れ合わせて交信します
星の光は 七色に分散し
僕らの背中に映ります
風が少し強いですが
適度な気流は僕らを清潔に保ちます
市民たちは思い切って飛び
いろんな光を身体に通します
油断すると砕けてしまう
仲間の顔が青ざめて見え
体があらかた消えてしまいました
市長の声が夜空にエコーします
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