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書評:芥川龍之介『歯車』

うねりに至る数多の死兆

今回ご紹介するのは芥川龍之介『歯車 他二篇(玄鶴山房、或阿呆の一生)』。
私の読んだ岩波文庫版は三篇収録であるが、今回は『歯車』を取り扱いたいと思う。

芥川晩年の作品で、死を待つ日々の心情が端的に表現された作品だと言えよう。

主人公に、片目のみに歯車の幻覚が見える瞬間が時折訪れるようになった、という描写から物語は始まる。

作中の主人公の行動は至って日常の振る舞いであり、そこにストーリー上の展開があるわけではない。
しかし、今生きているこの現実に対し嫌悪感を感じる瞬間が徐々に徐々にと主人公を襲いかかる。

最初は単なる事物への違和感という点の点在だった嫌悪感が、次第に「何故このタイミングでこんなことが?」というような、ある種の間の悪さと言うか、如何にも自身と噛み合っていないというような事象が周囲で起こることが重なるようになっていく。

このような、自身とは噛み合ってくれない事物や事象は、一つ一つではわずかな死兆を予感させるに過ぎないにも関わらず、それら相互は正に歯車のごとく噛み合って、1つの大きなうねり、迫り来る死の統合体を成し、主人公を襲うようになっていくのだ。
その圧力も、まるで歯車がテコで力を何倍にも増すように、もはや抗い得ない運命を予感させるものとなる。

こうした状況における諦念と、相反する焦り、怯え、制作への没頭が混在する様に、死を前にする生の混乱が描かれた作品だと言えようか。

こうした作品を前に感想を述べるのは非常に難しいが、稀代の作家の感性・心理に迫ることができる作品ではないかと思われる。

読了難易度:★☆☆☆☆
描写の感性度:★★★★☆
簡潔なのが逆に迫力ある度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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