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青春

こんにちは、今日もお疲れ様です。結城りんねです。



「福毛」って知ってますか?
身体のどこかに不自然に一本生えてくる白い毛のことなんですけど。

小さい頃からこの福毛がよく生えるんです。自慢じゃないですけどね。

生える場所は肩だったり顔だったり肘だったりと実にさまざまで、毎度僕の想像を超えてきます。

気づいたらいる。それも結構長さがあったりする。

まあ不気味なんですよ。

そこで今日は1番思い出深い福毛の話を。

中学生の時です。さて、どこに生えたでしょう。

そうです。顔です。
そんで顔のどこなんだって話なんですが、これがちょっと説明しづらい。

左側のエラ?みたいなところです。耳の下というか。

そこから10センチぐらいの長さの白い毛が適度にちぢれて、緩やかにカーブを描いて生えていたんですね。

ちょっと想像してみてください。その様を。

なかなかにインパクトがあるじゃないですか。

そして当時僕はぴちぴちの中学生。思春期真っ只中です。

こんなの生やしたまま堂々と学校生活を送れるほど、精神は成熟していませんでした。

そこでこんなのとっとと引っこ抜いてしまおうと。

意を決して左手で福毛をそっと掴みました。

しかし、途端に強い不安が襲ってきたんです。

「ひょっとしてこれ抜いたらやばいやつなんちゃうか」と。

その考えを無視できなくなった僕は、長男の特権を使って緊急家族会議を開きます。

議題は「福毛の取り扱いについて」。

その会議ではインターネットでの情報収集も行いつつ慎重に議論が進められました。

そして最終的に、

「自然に抜けるのを待った方が良さげである」

といった方向で議論がまとまりました。

これはつまり、僕の意思にかかわらず何らかの物理的な力が加わって抜ける事態を回避せよといった意味合いでした。

そこから僕の徹底的な福毛保護生活がスタートしたわけです。

福毛を保護しながら生活するというのは精神的にも肉体的にもかなりタフなことでした。

学校へ行けば、同級生が無邪気に「なんか毛がついてるよ」と安易に福毛の命を摘み取ろうとします。

その手を瞬時に払いのけ、「これ生えてるから」と毅然とした態度を取る必要があるのです。

夜寝るときには左側を下にしないように気を付け、顔面の左側に不気味な白い毛を生やしたクラスメートをクスクスと笑う女子からの視線にも耐えなければなりませんでした。

そういった苦労を乗り越え、僕は中学2年生まで福毛を守り続けました。

そんなある日、僕は散髪のため美容院に行くことになりました。

当時は母に切ってもらうことが多かったので、実に久々の美容院でした。

散髪はスムーズに進み、それは素晴らしいひとときになるはずでした。

カットが終盤に差し掛かり、施術はバリカンを使った首当たりのムダ毛処理の段階に入っていました。

そのときです。

ついに美容師さんはヤツの存在に気づいてしまいます。

美容師さんは左手の指先で福毛をぴんと伸ばし、あからさまに怪訝な表情を浮かべているところでした。

これは処理していいものなのか判断しかねているようにも見えます。

その様子を僕は鏡越しに見ながら強く祈りました。

やめてくれ!それはムダ毛じゃないんだ。あきらかに他の毛とは放つオーラが違うだろ!
それが生き残っている理由を考えてくれ!想像してくれ!
年頃の男の子がそんな不気味な毛を顔面にわざわざ生やしたままにしている理由を!

そんな祈りもむなしく、美容師さんは右手に持っていたバリカンで福毛を根元から刈り取ってしまったのです。

実にあっけない最後でした。

僕が声を出す間もなく彼は散っていったのです。

彼が刈り取られる瞬間、彼の死守に奮闘した日々が走馬灯のように駆け巡りました。

美容師さんは決して悪くない。何も悪くない。誰も悪くないのだ。

いつかはこんな日が来ると、どこかでわかってたはずだ。

逆にここまで残ってたことが奇跡なんだ。



ていうか、自然に抜けたかどうかの判断って難しくない?

ある朝福毛がなくなってたとして、自然に抜けたかどうかわかんなくね?

何らかの物理的な力によって抜けたとしてもそれに気づかなかったら実質自然に抜けたことになるよね?

てことは今起こったこと見なかったことにすれば、セーフじゃね?
喜ぶべき自然抜毛じゃね?

いけるいける。うん、そういうことにしよ。







きっと僕のこの切なさや悔しさは、僕以外のだれにも正確にとらえることはできないだろうと思います。

でも、自分の身を守るために自分の身を挺して福毛を守るという、いささか本末転倒のように思えるこの生活を、僕は「青春」と呼びたいと思います。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


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結城りんね
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