見出し画像

PLEVAIL歌詞解釈~Mimesisとポラリス、あと精神分析をひとつなぎにする試み~


1.イントロダクションと言い訳その1

こんにちは、こんばんは、おはようございます!今回はPLEVAILというアイドルの「Mimesis」と「ポラリス」という曲の歌詞を解釈してみようという試みです。

PLEVAILは東名阪を中心に活動をしているエモーショナル・ロックアイドルです。

Mimesis

ポラリス

このnoteではMimesisとポラリスのつながりを見出す解釈をします。それを精神分析の知見を参照しつつ示します。精神分析理論のたとえとして漫画ONE PIECEに時折言及します。

上記を受けてプリベイラー(PLEVAILのファン)の方々は以下の疑問が生じると思います(ここからが言い訳です)。

  1. Mimesisとつながっているのは月下美人なのではないか?

  2. Mimesisの考察に有効なアニメはONE PIECEではないのではないか?

1に関して、Mimesisと月下美人は明確につながりがあります。2曲ともあるアニメが題材になっているからです(これは先輩プリベイラーから聞きました)。2に関して、Mimesisの歌詞からループの構造やバッドエンドが読み取れます。このことは後ほど考察していきます。現状、ONE PIECEにループやバッドエンド要素は見られないので(そもそも完結してないので)、ONE PIECEは間違いなくMimesisの元ネタではないです。

ではなぜMimesisとポラリスをつなげ、ONE PIECEも交えて解釈するのか。それはMimesisで示されている苦しみが、自分の身の周りの問題に繋がっていると感じたからです。そして、その苦しみから脱出する道筋がポラリスにあると考えたからです。さらに、「Mimesis→ポラリス」のつながりを考える際にONE PIECE(もっと言うと頂上戦争編)が良い題材だったからです。

また、「PLEVAILがやっていることはこんなところにも及んでいる」ということを伝えたいからという動機もあります。調べものをする時間も含め、このnoteを書くのに2か月くらいかかりました。それだけの熱量を生み出すものがPLEVAILにはあることをどうしても形にして残したいのです。

ちなみに筆者はMimesisの元ネタのアニメが何なのか知りません。原作アニメのことはいったん脇に置いて、歌詞と自分の思考と知識で解釈を紡いでいます。また、ポラリスの解釈も「アコさんからルナさんへ向けた歌詞」という背景をいったん脇に置き、自分の思考や理論、またPERIPETYという作品の全体像という観点から解釈をします。

よって、このnoteで示す解釈の内容は原作アニメから見たMimesisの考察や、アコさんとルナさんの関係から見たポラリスの考察と異なったものになるでしょう。

個人的にはそれでいいと思っています。前述の通り、このnoteでやりたいのは「PLEVAILには人を突き動かす何かがある」ということをnoteの長さ・そこに注ぎ込まれた労力・ヒントが少ない中でそれが成されたという状況証拠によって示すことだからです(これは言い訳ではなくガチ)。

それでは始めます。

2.Mimesisのループ

Mimesisの歌詞はループ要素があると言われています。ループ性がある言葉が連打されている歌詞を以下に引用します。ループ性を示す言葉は太字にしました。

何度も同じ夢を見てmidnight 嘘だらけのflashback 繰り返しのaporia 永遠のループに迷って

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882824/lyrics?lang=ja

サビでは「色鮮やかな夢を愛を思い出して」とあります。明瞭ではないにせよ、過去にあったことを反復しようとする姿勢が読み取れなくもないです。

ではMimesisの歌詞の主人公がループをしているとして、それはどんなループなのでしょうか?論理的には(おそらく)2つの可能性が考えられます。外的なループと内的なループです。

外的なループはいわゆる「ループもの」のアニメのイメージです。サブカル辞典と言えば、ということでpixivから引用します。

作中で何らかの原因により、「時間の巻き戻り」または「以前体験したのと似た世界へのワープ」が発生し、同じ出来事が繰り返されてしまう、または主人公など特定のキャラクターが自ら能動的にそれを繰り返す(ループする)様を描いた作品。またはその世界観やテーマを中心に描いた作品のこと。

https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%82%82%E3%81%AE

外的なループという言葉で表現したいのは「身体が丸ごとループに入るので、ループの結果に介入できる」ということです。

逆に対となる内的ループは「ループの結果に介入することができない」ことを指します。端的に言えば、その人の心の中ではループしているが実際にはそうではないということです。

Mimesisの歌詞の主人公は内的なループと外的なループのどちらをしているのでしょうか?おそらく内的なループを行っていると考えられます。

このことを考えるため、サビの出だしの歌詞を見てみましょう。

I have no doubt I can fly, I have no doubt I can fly, and I will carry on

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882824/lyrics?lang=ja

もし主人公が外的なループを行っているとすれば、ある意味で何度も行動を起こしていることになります。なので「これから行動を起こすぞ」という感じの表明はしないと考えられます。むしろ「何回も繰り返したけど諦めない」という感じならあり得そうです。

実際の歌詞を見ると、I have no doubt I can flyと2回繰り返したあとに、I will carry onを来ます。
I have no doubt I can fly(絶対に飛べる)という言葉は強い確信を示しているように見えます。no doubtなので。

物事が繰り返し言及される時というのは、実はそれが現状では存在しないからだという見方もできます。例えば「大道廃れて仁義あり」という言葉があります。道徳が廃れたという状況があるからこそ、仁徳が大事だという主張がなされるということです。そのまま類推すればdoubtがあるからこそ、I have no doubtを繰り返している、と見ることができます。

その後のI will carry onについて、carry on自体は「断絶していたものを再開する」という意味があります。しかし主人公が外的ループを繰り返しているならばI have carried onもしくはI have been carrying onあたりが適切だと思われます。ここのhaveは「(ある時点から)ずっと~してきた」という意味を指します。外的ループを繰り返しているならば、主人公の時系列ではずっと何かをcarry onしているはずなので、haveを使った方が適切だと思われます。

ここで言いたいのは英文法が云々ではありません。Mimesisの歌詞がhave carried onではなくwill carry onということは、そこに意味があるはずだということです。それは実際にはcarry onできない現状があるからこそwill carry onで意志(will)のみを見せているのではないか、ということです。

もう一度、Mimesisの歌詞でもループ系の言葉が連打される箇所を見てみましょう。

何度も同じ夢を見てmidnight 嘘だらけのflashback 繰り返しのaporia 永遠のループに迷って

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882824/lyrics?lang=ja

まず、繰り返しているのは夢です。つまり現実の事態ではなく、人間の精神だけが体感するものです。次にflashbackが来ます。flashbackは昔にあったトラウマ的な出来事が記憶の中に唐突に回帰してくる現象を指します。これはある意味でトラウマ的な出来事が心の中でループしていると見ることができそうです。次のaporiaは「解決のできないこと。1つの問いに論理的に相反する2つの回答がある事態」を指します。aporiaがあると、意思決定をなすことは困難になります。何度もaporiaに出会ってしまうので、行動ができない。だからno doubtの言い聞かせて飛ぼうとする、という風にサビの出だしと結び付けられそうです。

Mimesisの内的ループ性はある程度示せたので、ここからはフラッシュバックという言葉に拘りたいと思います。

3.Mimesisとフラッシュバックと反復強迫

フラッシュバックに拘るのはそれが強い意味を持つからです。トラウマに関わっているのであまり気軽に使える言葉ではないと思います。だからこそ、Mimesisに入っているフラッシュバックについて考えてみます。

フラッシュバックは反復強迫の1つとされます(引用の太字は筆者による強調)。

反復強迫とは「悲惨で、苦痛でさえあるはずの過去の出来事を、人生のさまざまな段階でくり返しながら、自分ではその出来事を自分が作っているとは気づかず、また過去の体験と現在の状況とのかかわりにも気づかずに続けている強迫」のことです(アメリカ精神分析学会『精神分析辞典』)。臨床的には外傷後ストレス障害(PTSD)に見られるフラッシュバックや悪夢といった不快な症状、繰り返される自傷や大量服薬、過食・嘔吐、ギャンブル依存、買い物依存、DV、強迫症状、常同行為などがあります。

http://kawatani.sblo.jp/article/174760506.html

言い換えると、反復強迫とは「辛くて思い出したくもない過去(トラウマ)を、自分の意志に反して繰り返し突発的に思い出してしまうこと」です。Mimesisの主人公は何かトラウマがあり、それがフラッシュバックしているのだと考えられます。

このことをONE PIECEで見てみます。頂上戦争で兄エースを失ったルフィがアマゾン・リリーで戦争中のフラッシュバックを受けて暴れているような状態です(マンガをnoteに載せて良いか判断に迷うので、小説調に説明してくれている文章を引用します)。

ルフィは意識を取り戻したが、ジンベエの心配した通り、戻った意識はルフィに地獄を見せ続けた。

何をしても、ルフィの脳裏にはエースが死んだ時の映像と、エースの言葉が繰り返され続けた。

自分をかばって飛び込んでくるエース・・・、赤犬のマグマがエースの体を貫いた瞬間・・・、(ごめんなァルフィ・・・ちゃんと助けてもらえなくてよ・・)そう言って倒れこむエース、エースを抱くルフィの手にべったりとついたエースの血・・・。

どうやってもその血は手から拭えず、エースが殺される瞬間の映像が止まることはなかった。

ルフィは狂ったように叫びながら、残像から逃れようと走っても、どんなに体を痛めつけても、悲惨な記憶は消える気配もなく、何日も苦痛と苦悩の日々が過ぎていくだけだった。

https://blog.goo.ne.jp/munasecond/e/bbcab7ce223e7584b9a357b4553a8602


ところで、私たちはフラッシュバックを当たり前のように受け入れていますが、反復強迫には不可解な点があります。それは人間の本性の1つである「快を求め、不快を避ける」という性質に矛盾することです。反復強迫は不安を伴うので不快です。だから、上記の人間理解では反復強迫は起こらないはずです。

反復強迫を人間心理の問題としたのはフロイトという精神分析家(≒精神科医。厳密には異なる)です。そして、そのフロイトもそもそも人間を「快を求め、不快を避ける」ものとして捉えていました。

ならば、フロイトは反復強迫が起こる原因を何に求めたのか。それは「自己の自律性の回復」です。トラウマは本人にとってあまりにショッキングな出来事です。そんなトラウマを最終的に乗り越えるために、きっかけの出来事が記憶の中で再演されるのです。これが反復強迫だと捉えられます。

ただし、Mimesisの最後の歌詞がMeainglessで終わっている通り、トラウマの克服は難しいです。次節ではトラウマが起こる構造を突き止め、どうすれば解決の糸口が見えるのかをフロイトの継承者と批判者の議論を通して示します。そして次々節では、その解決策はポラリスにおいて示されていたことを論じます。最終的にMimesis
のループの脱出方法をポラリスに求めます。

4.トラウマ(反復強迫)の原因とその解決策

4.1ラカンと反復強迫の原因

フロイトの継承者の一人にラカンという精神分析家がいます。ラカンはトラウマを始めとする人間の心理を言語的側面から探究しました。

言語は「世界を分ける・区別する」という性質を持ちます。それを通して人間はモノ・コトに意味を与え、世界をうまく認識しているのです。逆に言えば、言語が違えば認識は異なります。

Mimesisに親しい例を挙げます。日本語話者は「蝶」と「蛾」の区別がありますがフランス語話者にはありません。フランス語ではpapillonという単語で、蝶と蛾の双方が表現されます。フランス語だとMimesisの歌詞の内容を説明するのは困難になります(厳密には蝶は昼のpapillon、蛾は夜のpapillonと呼ばれるそうです)。

言語の分ける機能をもう少し考えてみましょう。以下の画像をご覧ください


机があり、その上にパソコンが乗っている。そして本が収納されている、ということがわかると思います。しかしこれは、私たちが「パソコン」、「本」、「机」にそれぞれ名前をつけ、その言葉はそれぞれ別々の意味を持つと考えているから可能な認識です。太古の時代の人がタイムスリップしてこの画像を見たら本・パソコン・机は一体のものだと考えるかもしれません。そして、パソコンを持ち上げて机から離すと、本・パソコン・机が一体になったナニカを壊してしまったとパニックに陥るかもしれません。この古代人は「本」、「パソコン」、「机」という言葉とその意味を知らず、別々なものとして捉えていないからです。

このような古代人の挙動は私たちにとって無秩序なものに見えます。様々なものの区別がついていない子どものようにも見えます。

社会に適応するということは言語によって世界の様々なモノ・コトに意味と秩序を与えることを指します。人間は言語システムによって生きることができるのです。

ここからラカンは人間が社会に適応できないような状態(反復強迫を含む精神病)になるのは、言語システムがうまく機能しないからだと考えます。

上の古代人がそれぞれのモノの名前を知らずパニックに陥ったように、「言葉」とそれが示す「意味」、さらには「対象」との結びつきが壊れていることが精神病を招きます。つまり、自分を世界に対して意味づけることができなくなるのです(内的世界の崩壊)。

ラカンを前提にしてトラウマに戻ります。トラウマは何であれ強烈な出来事であることに間違いないと思います。そして、その強烈さはうまく言語化できないほどなのです。むしろ、すぐには言語システムに組み込むことができないほど強い体験をトラウマと呼ぶのだと考えられます。そして、言語システムに組み込むことができないがために、人間は不安に陥りパニックになります。

トラウマになったほどの体験は、定義上すぐには言語システムに回収できないため、繰り返し不安を伴って個人の記憶に回帰してきます。

上に引用したONE PIECEの場面で言えば、主人公ルフィは兄エースを失います。ルフィは兄エースをかなり精神的に頼りにしていたので、「エースの死」という対象だけがルフィの記憶の中で反復されます。あのシーンはエースの死後すぐなのもあり、それをうまく意味づけることができていません。

Mimesisの主人公に起きたであろうショッキングな出来事は、彼(女)の心の中で意味づけられていないと考えられます。だからトラウマになりいつまでもループをせざるを得ない、と考えることができます。

ラカンの理論はトラウマの原因の分析には有効ですが、トラウマ克服に向けた有効な解決策を見いだせずにいました。そこでラカンの弟子でありながら、ラカンを批判したガタリの理論を見てみます。

4.2ガタリと反復強迫の克服

ガタリはフロイトとラカンと同じく精神分析家でしたが、分析だけでなく実践を重視しました。自身が勤務する精神病院で患者と社会的活動を行ったのです。

ガタリはラカンと同じくトラウマの原因を言語システムの機能不全に求めます。

そこからさらに考察を深め、そもそも言語システム自体が「他者との関わり」の中で形成されてきたのではないかと捉えます。確かに言葉はそもそもコミュニケーションを行うためのものです。例えば幼児は大人から教えてもらいながら言葉を習得します。また、「名前はわからないけど共通して感知される物事」に、新たな言葉を与え意味を創出するということができます。

例として、「意識高い系」という言葉があります。おそらく昔からあった言葉ではないと思われます。しかし、社会での競争が進むにつれて、「実力の割に視座を高く持とうとする・自己啓発本をたくさん読む・人脈をアピールetc…」という人達が現れます。しかし既存の語彙では意味づけることができないので、「意識高い系」という言葉が創出されます。社会に新たな意味が加わり、「意識高い系」を集客するイベントが開かれたり、逆に「意識高い系」への反動から「スローライフ」が賞賛されたりします。

このように未知の出来事や現象でも、他者との関わりの中で再び言語システムに取り込むことができます。

ガタリの治療法は病院内にコミュニティを形成し、責任ある立場を患者に執行してもらうことを実践しました。このことがトラウマによって崩壊していた患者の自己理解に新たな意味を与えます。そこから精神を立て直すことができるのです。

再びONE PIECEの例を出します。「エースの死」を受け入れられなかったルフィは結局どうなったのか。引用が少し長いのと、有名なシーンではあるので知っている方は飛ばしちゃってください。端的に言うと、「エースの死」をめぐるフラッシュバックに苦しんでいたルフィは「自分には仲間がいる」ということに気づいてトラウマを(いったんは)克服するというシーンです。

ルフィは苦しすぎる現実に、心と体が追いつかずに苦悩にのたうちまわっていた。

心配するジンベエにくってかかり、自分の体をボロボロに痛め続けた。

「向こうへ行け!!一人にしてくれ!!!おれの体が!!!何をしようが勝手だろ!!!黙らないならブッ飛ばす!!!」

ジンベエは、暴れるルフィを岩に押さえつけて言った。

「もう何も見えんのか!!どんな壁も乗り越えられると思うておった”自信”!!疑うこともなかった己の”強さ”!!!されらを無情に打ち砕く手も足も出ぬ敵の数々・・・!!!この海での道標だった”兄”!!

無くしたものは多かろう、世界という巨大な壁を前に、次々と目の前を覆われておる!!!それでは一向に前は見えん!!

後悔と自責の闇に飲み込まれておる!!

今は辛かろうがルフィ、それらを押し殺せ!!失った物ばかり数えるな!!無いものは無い!!確認せい!!お前にまだ残っておるものは何じゃ!!!」

そこまで一気に言うと、ジンベエはルフィから手を離した。

崩れ落ちたルフィは、自分の指を折って、まだ自分に残っているものを一つ一つ探した。

ゾロ・・・ナミ・・・、ウソップ・・・、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック!!

自分に残っているものに気付いたルフィは、また泣いた。だけどその涙は兄を失った悲しみの涙とは違っていた。


「おれには・・・仲間がいる!!おれ達集合場所があるんだよ。・・・・行かなきゃ・・・・、あいつらに会いてェよォオ!!!」

仲間の存在を思い出したルフィを見て、ジンベエはやれやれと座り込んだ。これでとりあえずは一安心だ。

ジンベエは、インペルダウンでエースから弟の事を頼まれた時のことを思い出していた。

「ジンベエ、ティーチを追っていた航路で3年ぶりに弟に会ったんだ、一目会っておれは安心した。なぜだと思う?

おれがそこで見たのはよ・・・ジンベエ・・・・、もうおれの後ろをついて回るだけの昔のルフィじゃなかった!!あいつにはもぅ・・・頼もしい仲間達がいた。何があっても大丈夫さ。おれは安心したんだ」

エースは、サボから託された”想い”を、仲間達に託していた。

「できの悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ。おめェらもコイツにゃ手を焼くだろうが、よろしく頼むよ」

サボの想いはエースに引き継がれ、エースの想いは、仲間達に引き継がれていた。

ルフィは一人ではなかった。

https://blog.goo.ne.jp/munasecond/e/d53d7c352607b7770f957a7d29c62c90

ここで大事なのは

  • エースはルフィを心配していたこと(そしてそれがサボから託された想いであること)

  • そのことをルフィの仲間に伝え、想いを託していたこと

この要素を踏まえると、もしルフィが独りよがりに死んでしまえばエースの意志を裏切ることになります。ある意味で、ルフィはエースの意志に応える責任(responsibility)があるのです。

人間としてのエースが死んだとしてもその意志は受け継がれています。ルフィはそこから壊れた内的世界に意味を見出すことができます。それが「仲間がいるよ」のシーンをガタリから見てわかることです。

ここまで読んでくださった方は「Mimesisはたまに言及しているが、ポラリスどこ行った?」と思われたかもしれません。

次章ではガタリとONE PIECEを前提に、ポラリスがMimesisのループの脱出を示しているということを論じます。

5.ポラリスが示す希望

ポラリスでもMimesisとは違った形で、主人公の内的世界が壊れそうな描写がされています。

誰かを真似て過ごすのも 執拗に避けて生きてくのも
どれもが自分じゃないなら もう全てを捨ててしまおうか

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882839/lyrics?lang=ja

ここで起きていることはトラウマほど強い出来事とは言えないかもしれません。しかし、何をやっても自分が存在する価値や意義が分からないという状態に陥っています。これは「自分」という言葉が示すものを意味づけられていない状態ではないでしょうか。以下の歌詞も似たようなことを示していると考えられます。

多分”なんとなく生きる”のが嫌になるほど上手くなってた

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882839/lyrics?lang=ja

ポラリスの主人公は「なんとなく生きる」ことが上手いので、逆に「自分」が世界に持つ意味がよくわからない。だから「嫌になっている」のではと考えられます。つまり、Mimesisとは少し異なった形で負のループがポラリスでは繰り返されているのです。言い換えると、「自分を世界に意味付けできない」という危機です。

Mimesisのトラウマとは異なるかもしれませんが、「自分を世界に意味付けできない」という共通点があるので、ポラリスで見出された解決はMimesisの主人公にも適用できるはずです。

ポラリスで示された解決はどんなものでしょうか。ラスサビ前半の歌詞を見てみます。

君となぞる星の地図 明けていく空に
まだ残る道標が 新しい日々を照らすような

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882839/lyrics?lang=ja

「明けていく空」、「新しい日々」、「照らす」などポジティブな言葉が登場しています。そういえばMimesisにはmidnight(真夜中)という言葉が登場します。

真夜中から始まったアルバムが夜明けで終わる。ここに問題の解決(の兆し?)を読み取ることができそうです。

ラスサビ後半の歌詞は以下です。

手を取り合い辿る旅 君が居なくても
ずっと歩いていけるよ重ね合えたその手を 離さぬように

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882839/lyrics?lang=ja

「手を取り合い辿る旅」なのに「君が居なくてもずっと歩いていける」とはどういうことでしょうか。また、そう言った直後に「重ね合えたその手を離さぬように」とも言っています。この歌詞には「一緒にいるけど一緒にいないかもしれない」という両義的な状況が現れています。

この状況を読解するために、前章の話に寄り道します。前章でガタリとONE PIECEで見たように、人間は他者との関わりで意味を創出しながら生きています。このとき、他者から一方的に意味を贈与されることがあり得ます。前章のルフィのシーンはまさにそれです。

サボ→エース→ルフィの仲間という流れで、想いが託されてきました。それはジンベエを通してルフィに伝わります。「エースにとっても仲間にとってもルフィは大切な存在」という意味がルフィに伝わります。それによってルフィは自分の存在意義を再確認し、「仲間がいるよ」と気づくのです。加えて、作中でも時折言われているようにルフィは「エースの意志を継ぐ」という役割も持ち始めます。

ポラリスでも”君”はもう既にいないかもしれませんが、主人公は何かを受け取っています。「君がくれた光を絶やさぬように」や「朝を待つ空に白く滲んだ遊星の光が途切れそうな夢を今繋いだ」などです。

特に、以下の歌詞を見てみましょう。

自分の価値さえ知らなくて 溢れた涙に映る空

瞬く星のプリズムが映し出した光のスペクトラム

どんな羅針盤でも どんな地球儀でも
見つからなかった僕に今出会えた

https://linkco.re/BVsep8xM/songs/1882839/lyrics?lang=ja

「自分の価値さえ知らない」主人公はいまだに自分が世界に持つ意味を把握できていないと考えられます。そこに、空から光のスペクトラムが来ます。その後、「どんな羅針盤でもどんな地球儀でも見つからなかった僕に今出会えた」のです。

羅針盤や地球儀は航海の方向を示すのに役に立つものですね。また、ポラリスも北極星なので方角の把握に使用できます。また、自分が物理的に自分に出会うというのは意味が通りません。だから、ポラリス(光をくれた君)によって自分が目指すべき方向(実現する価値)が示されたと考えられます。

ラスサビ後半の両義性は、「物理的には”君”はいないかもしれないが、”君”が僕にくれた価値が僕の世界における意味をくれた。だから、”君”がくれたものを胸に生きていく」という風に考えることができます。

ここからMimesisに戻ると、Mimesisの主人公がどうすれば良いのか見えてきます。現状だと、1人で過去のトラウマを反復し続けています。しかし、既に言語システムが崩壊している主人公にトラウマを意味づけることは困難です。そこで重要なのは、Mimesisの歌詞内で起こったトラウマ的出来事と自分をうまく意味づけてくれる他者と出会うことです。Mimesisだけではそのループから抜け出す道筋は見えてきませんが、ポラリスから見ることで希望が見えてくると思います。

追記: PERIPETYが意味するもの

このnoteで解釈したMimesisとポラリスは両方PERIPETYというアルバムに入っています。PERIPETYは「運勢の突然で予想外の変化」を示します。このnoteの視点からタイトルが示すところを考えてみます。

まずCocoonとMimesisによってトラウマによるこの世界での意味の喪失から始まることが分かります。しかもこれは反復強迫的に繰り返すのでした。

アルバムが進む中で愛や夢を発見することもありますが、問題のあるなしに右往左往する・メランコリックになる・やはり答えは見つからない、という困難が繰り返されます。

この試行錯誤がどう決着するのか。ポラリスは”君”が「この世界に生きるこの私」に意味を与えてくれたから前向きに生きていけるようになる、というメッセージがあるのでした。意味の喪失に囚われていた主人公は、”君”と出会うことで「運勢の突然で予想外の変化」に至ることができた。このnoteの視点からPERIPETYを見ると、そんなストーリーが浮かんできます。

追記終わり

6.言い訳その2とアウトロ

そもそもなぜMimesisとポラリスをつなげようとしたのか。先輩プリベイラーにMimesisの悲観的なループ性を教えてもらった時、「もしかして希望がない…?いやでもPLEVAILはprevail(打ち勝つ)から来てるから希望がどこかにあるはずだ!それはポラリスだ!」と思ったことがきっかけです。

また、前述の通りPLEVAILには人間を突き動かす何かがあることを示す証拠としてこのnoteを描きました。なので、自分の解釈に対して「それはないやろ」と思う人がいてもそれはそれ、という気持ちです(おそらく制作者の意図とはズレたことをやっているので…)。

前章では最もらしいこと言っていますが、Mimesis→ポラリスのラインは

  • Mimesisがアルバムの1曲目だから問題提起で、ポラリスは最後だから結論(解決)を示しているのではないか?

  • また、Mimesisの最後の歌詞は「欠けた月が映し出すmeaningless」で、ちょっと語感を替えると「月が欠けてたら意味がない」→「月=Lunar=るな」→「るなが欠けてたら意味がない」→PERIPETYで近い意味の歌詞はポラリスかなあ→Mimesisのラストはポラリス読め(目で聴け)ってことね?!

みたいな理屈とダジャレから始まってます笑

とはいえ、その理屈を曲がりなりにでも成立させるためにフロイト-ラカン-ガタリを勉強しました。Mimesisとポラリスに彼らの理論を繋ぎ合わせるための構成も考える必要がありました。このnoteを作るのに、下調べから測ったら2か月くらいかかっていると思います。何回でも言いますが、「PLEVAILにはそれだけのものがある。PLEVAILがやっていることはこんなところにまで及んでいる」ということを示したく、このnoteを書きました。正直、解釈自体は変とかズレてると思われてもいいです(メンバーや運営チームを傷つけてなければ…たぶんこれは大丈夫だとは思うのですが…)。

PLEVAILから私に届いたものが何なのか。それこそまだ意味付けが済んでいません。PLEVAILとの出会いはいわばポジティブに強烈な出来事として今後も私に回帰してくると思います。このnoteはPLEVAILとの出会いを意味づける試みの1つです。PLEVAILの言葉で言い換えれば、PLEVAILとの旗を自分の中に旗を作る営みです。今回のnoteは今まで苦手としていた、「カルチャーへ自分の興味関心を適用し色々と思考する」というチャレンジの第1旗になりました。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

  • 千葉雅也『現代思想入門』

  • 金子淳人『「精神分析」と反「精神分析」-フロイト・ラカン: ドゥルーズ・ガタリ-』

  • 斎藤環『生き延びるためのラカン』

  • ジル・ドゥルーズ『ニーチェ』

  • 東浩紀『存在論的、郵便的-ジャック・デリダについて-』

  • 宮台真司『世界はそもそもデタラメである』

  • 柄谷行人『探究Ⅰ』『探究Ⅱ』

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集