マレーシアのイスラム教の他の宗教との関係
イントロダクション
こんにちは、こんばんは、おはようございます!Renta@マレーシアから国際関係論について考える人です!
これまで、マレーシアのイスラム教についてnoteを書いていきました。そろそろ、イスラム教と他の宗教の関係について書きたいなと思い、このタイトルとしています。
というわけで、今回のnoteのメリットは以下です!
マレーシアにどんな宗教があるのか、どんな民族がいるのか分かる
マレーシアの宗教間・民族間の関係がわかる
では早速始めていきます。
マレーシアの宗教と民族に関するデータ
今回は宗教の教義や哲学などの理念的な話ではなく、データに起こせる話です。だから、まずはマレーシアにどんな民族や宗教が存在しているか見てみましょう。
まずは民族です。
マレー系のところの「先住民」について補足します。いわゆるマレー系民族は、最初からマレー半島にいたわけではありません。元々は現代のインドネシアあたりにいて、マレー半島に移ってきました。だから、元からマレー半島にいた民族は先住民とされています。
また、マレーシアは昔から中華世界・インド世界と貿易していたので、中華系とインド系もそれなりに住んでいます。このあたりの歴史は以下のnoteにまとめています。また、マレーシアはポルトガルやイギリスによる植民地化を経験したのもあって、ヨーロッパ系の人たちも少数ですが住んでいるようです。
続きまして、宗教についてのデータです。
イスラム教(連邦の宗教)について補足します。マレーシアはイスラム教を「連邦の宗教」として定めています。具体的には、マレーシアのマレー系民族はイスラム教徒になることを求められます。また、マレーシアは連邦国家なので州政府があるのですが、この州政府はイスラム法にもとづいた統治を認められています。
宗教と民族の結びつきとしては、
マレー系とイスラム教
中華系と仏教・儒教・道教・キリスト教
インド系とヒンドゥー教
ヨーロッパ系とキリスト教
という風になります。マレー系とイスラム教の結びつき以外は例外があり得ます。
私的領域・公的領域・公共領域で考える
さて、マレーシアの宗教と民族の基礎データを見てきました。ここからは、その関係性を見ていきます。
まず大前提として各宗教の共通点を述べておきます。それは各民族の結びつきを高める者であるという点です。ここまで見てきたように、近代国家マレーシアには様々な宗教・民族があります。そして、各宗教はそれぞれの民族の生活を規定しています。具体的には祝祭や戒律によってです。身体的な共感覚は同胞感を育むので、民族内での結束が高まります。また、マレーシア外の同じ宗教徒とのつながりも強まります。
これを大前提として、私的領域・公的領域・公共領域に分けて考えてみましょう。各領域の説明は各節にて行います。
私的領域では相互不干渉
私的領域とは、営利活動・プライバシー・日常生活に関わる領域です。私生活とも言い換えることができると思います。上に述べたように、マレーシアには宗教と民族には密接な繋がりがあり、アイデンティティの構成要素になっていますので、各民族や宗教のメンバーは異民族・異宗教には相互不干渉という態度を取っています。
民族間・宗教間の緊張が高まるのは以下の2ケースです。
他宗教に干渉する意図はなくとも、同じ社会で生活している以上、他宗教の何らかの権益を侵害してしまう、もしくは脅威を与えてしまう場合
欧米的な世俗主義を掲げる勢力、あるいはイスラム教以外の宗教勢力が政府の非宗教化と全宗教の平等を求め、主にイスラム教徒と衝突する場合
これらは、公的領域と公共領域に繋がります。
公的領域では分業
さて、公的領域とは政府や法律に関するものです。マレーシアの公的領域ではイスラム教が支配的なところがあります。なぜなら、イスラム教は唯一その戒律(イスラム法)が、部分的とはいえマレーシアの統治に関わっているからです。主に憲法との関係では、以下の特徴が挙げられます。
イスラム法ではなく、憲法が最高法規である
イスラム法による統治機構と、世俗法による統治機構両方がある
州レベルでは、イスラム法に基づいた統治が可能である
マレーシアのイスラム教徒の大多数がマレー系である
上記の特徴に伴って、マレーシアにはイスラム教に関する行政機関がありますし、国際イスラーム大学というイスラム教に関する学位を取得できる大学があります。つまり、世俗的な官僚以外にイスラム教を究めることで政府機関で働く道が開かれているのです。
ただ、多民族国家である手前、世俗法的な憲法はイスラム法にちゃんと優位な立場にありますし、イスラム法とは別に世俗的な法律もしっかり制定・運用されています。
マレーシアは民主主義を採用していますので、上記のような状況は世論によって形成されるはずです。では、マレーシアに世論はどうなっているのでしょうか?これが公共領域に関わってきます。
公共領域では緊張がありつつ安定
公共領域は市民活動、NPO・NGO、地域住民、国民などに関わります。今回注目したいのは、市民活動や国民の部分です。つまりそれは世論形成です。
マレーシアの世論はざっくりマレー系と非マレー系で異なってきます。前者はマレーシアのイスラーム化を望み、後者は世俗化もしくは現状維持を望んでいます。
というのも、マレー系民族はマレーシアの人口の60%を占め、マレー系は全員イスラム教徒です。その一方でマレー系は他の民族に対して、経済的には差をつけ
られています。
そこで、人口の半分以上を占めるマレー系は政治的影響力を得ようと国家のイスラーム化に傾いていくという構造があります。
このような構造を頭に入れてマレーシアで暮らすと奇妙なことに気づきます。なぜなら、ここまで世論が割れていると都市が荒れそうなのに、ぱっと見は民族的な対立が噴出していないように見えるからです。
もちろんこれは、マレーシアが比較的裕福な国であることや、私が暮らしているのがそもそもリベラルな大学だったりクアラルンプールだったりするという側面はあると思います。
あえて、上記のような構造をもとにこの疑問に応えるならば、「与野党がうまいことガス抜きとして機能しているから」という答えになります。
次回noteで詳しく書こうと思いますが、マレーシアの与党はUMNOです。これはマレー系の政党です。次に注目されるべき野党としてPASがあります。この2つは両方ともマレーシアのイスラム化を志向しているのですが、程度が若干異なります。UMNOが穏健的でPASが急進的なのです。となると、マレー系の中でも過激な人達はPASを支持します。その結果、PASはある程度議席を得て支持者はそこそこ満足します。しかし、過激な人達ばかりではないので、与党はUMNOとなり漸進的なイスラム政策の模索がマレーシア全体の方針となります。だから、UMNOがイスラム化急進派と世俗派のバランスをうまく取っている面があるのです。
まとめ
今回はマレーシアのイスラム教-マレー系と他の宗教-民族の関係について述べてきました。結論としては、マレーシア内はそこまで荒れておらず、その背景として経済的豊かさやUMNOのバランス感覚があります。次回は公共領域にもっと着目して、マレーシア内の世論形成のダイナミズムを描きたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました!
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