タラント
角田光代さんの作品です。
最初はね、ちょっとタルいんです。角田さんのはそういうのが多い気がする。
なんでかなって思ったら登場人物が自分と似てるからなんですな。自分自身の否定したい部分、目を背けたい部分がそっくり。
映画とかでね、スカッとするシーンってあるじゃないですか?
権力を振りかざしたしょぼい奴に命令されたり罵られたりして、「ここで一発かましてくれ」と心で願ってたら、スターは本当にそこで帽子を叩きつけてその場を去ったり相手をぶん殴ったりしてくれて溜飲を下げる。みたいな。
でもそんなこと現実では起こりませんよね。いや、起こす人はまあ中にはいるんでしょうけど、多くの人は、少なくとも私はしない。できない。
映画を観てる時は「俺だったらやるのに」と思って観てるけど、いざ実際にそんな場面に出くわしたら九分九厘しないでしょう。だからこそ、物語の中ではしてほしいんだ。「無責任」に応援している。
それを、角田さんの小説は、やっぱりしない。だから溜飲が下がらない。自分のことを言われてるようで先を読み続けるのがつらい。
一例として、この小説の中では登場人物が韓国語を勉強しようと思うんだけどなかなか踏ん切りがつかない。というエピソードがあります。
本当にいやなところを突いてくるというか、この「韓国語」という辺りもいやらしいでしょ?
まさにこういう奴はね、私自身がそうだから分かるんだけど、韓国語辺りを狙ってくるよ。か手話。
そういう冷淡な目が、読む者をたじろがせる。キツい。「なんで分かったんすか?すんません」てなる。
だから最初は進まない。でも読み進めていくうちに「分かる分かる。ふむふむ。で?で?」ってページを繰るのが焦れったくなるほど、その先が気になってくる。
この人はどうなるんだろう?私と似た選択をまたするのか?それとも一歩を踏み出すのか?踏み出すとしたらどういうふうに?それは俺にとってのヒントにもなる?って。
ま、本の人物の選択を参考にしてるという時点で、私はきっとまたしないのだろうな。