偽解決―対処行動が問題を維持させる―
対処行動が問題を維持させることがありますよ、という話です。
前回の記事では、家族療法におけるシステムの考え方について書きました。
引き続き今回もシステムについてです。
簡単に前回のおさらいです。
家族療法では、家族全体を一つのシステムとして考えます。
家族を単にそれぞれの家族成員の集まりとは捉えません。
相互に作用し合って、数の総和以上の機能を持つと考えるのです。
家族内で問題があるとされる人をIPと呼んで、その人の問題の改善に注力するのではなく、家族システムの悪循環を変えるアプローチが必要という話でした。
しかしながら、システム内で何かを変えるのは言うほど簡単ではありません。
変えるのが難しい理由。
そして変わる時とはどういう時かについて説明します。
まずはこのことを知っておきましょう。
私たちは、問題が起きたときに対処しようとします。
実は、その対処行動が問題を維持させていることがあるのです。
「偽解決」と呼びます。
問題の改善のためにとっている行動が、問題を維持させるものになっているのです。
例で示します。
幼稚園へ上がった女児が母親との別れに激しく不安を感じて泣くため、母親は毎日幼稚園で一緒にいなければなりません。
幼稚園関係者も困り果てて、なんとかこの母子を離そうといろいろと試みますが、ことごとく失敗。
父親は仕事ばかりの人で、母親の大変さをわかってくれず、母親はいつも寂しさを感じている。
母親が努力して行っている対処行動は、偽解決となり悪循環を生んでいます。
なぜ偽解決の悪循環に陥りやすいのか。
それはシステムの持つ性質にあります。
システムというものは、問題が起こった時にシステム自体で解決しようとシステムを安定させようとします。
変化を起こして問題を改善しようとするのですが、それはシステムを安定する中での変化でしかないのです。
これを「第一次変化」と言います。
幼稚園児に対する母親の偽解決の対処行動が第一次変化によるものです。
結果として、問題を維持させる助けとなっているのです。
例に戻ります。
ところがある日、母親が娘を幼稚園に送って行けない日がありました。
そこで父親が会社へ行く途中に娘を送っていきました。
すると、娘は意外に落ち着いて登園することができたのです。
それ以降は、娘は泣かずに登園するようになったと。
たまたま母親が体調不良で休んだことが偽解決行動を休ませ、システム自体が新しい方向に再構成されたのです。
このようなシステム自体の変化を「第二次変化」と言います。
例では、偶然に起きた変化です。
ブリーフセラピー(短期療法)という心理療法があります。
この心理療法では、膠着した状況でどうすれば第二次変化を起こせるかと考えます。
そのためには状況を客観的にとらえて、偽解決行動で悪循環に陥っていないか、第一次変化に留まっていないかを考えます。
そして、悪循環を変えるためには何をすれば良いのかを考えるのです。
今回の話は家族療法以外のシーンでも当てまめることができます。
例えば、組織やチームにおけるシステム。
何か例はないかと考え、個人的なエピソードで恐縮ですが。
私は中学生の頃(ずいぶん昔だ)、水泳部の部長をしていまして、あの時の事がそうかなと思います。
部員のマネジメントに苦労していたのです。
というのも私はメンバーを引っ張っていくような強いリーダータイプではなかったので。
サボる部員たちがいても強く言えなかったのです。
気を使っても甘えられるし、ちょっと強く言っても動かないし。
まじめに練習している部員たちへの申し訳なさなどもありました。
日々、人間関係にエネルギーを吸い取られていたのです。
大会に向けて自分も練習しなければいけないので、部活終わってから親友と2人で市営のプールで練習してたな。
でもそんなことをしていると、大会前の許された練習時間がなくなっていく、まずいと吹っ切れたのです。
部員たちのことはこの際考えずにちゃんと部活の時間内で自分の練習に集中しました。
そうしたら、その姿を見て何を感じたのか、サボっていた部員たちが真剣に練習を始めたのです。
私がやっていた部員に気をつかうという対処行動は、偽解決でシステムには何も変化を生みませんでした。
むしろ悪循環でシステムを安定させるだけだったのです。
そこで、それを止めて別の行動をすることで変化が起きたのかなと今思います。
以上、個人的なエピソードも出してみました。
今回は、システムを意識した心理療法においてやっていることを書きました。
第二次変化が大事です!
最後までお読みいただきありがとうございました。
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小林いさむ|公認心理師
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