敵意帰属バイアスとは?日常に潜む「誤解」の心理
私たちは日常生活で、他人の意図を瞬時に判断しながらコミュニケーションをとっています。
しかし、この判断が認知バイアスによって間違っていることも少なくありません。
その一つが、敵意帰属バイアス(Hostile Attribution Bias)です。
これは、他人の行動を「敵意がある」と誤解してしまう認知の偏りを指します。
このバイアスがどのように私たちの行動や人間関係、さらには犯罪行動にまで影響を及ぼすのかを探ってみたいと思います。
1. 敵意帰属バイアスとは?
敵意帰属バイアスは、曖昧な状況で他人の行動を過剰に敵意的と解釈する傾向のことです。
例えば、職場であいさつを返してもらえなかったとき、「わざと無視された」と感じてしまうケースが挙げられます。
相手には悪意がなくても、そう解釈してしまうことで誤解や対立が生じることがあります。
敵意的に解釈することで、相手に対して防御的、または攻撃的な態度をとりやすくなり、人間関係が悪化する原因になることがあります。
自分が攻撃的な態度をとることで、相手も防御的になり、本当に敵意的な行動が返ってくるという悪循環を生む可能性があります。
主な原因
過去の経験:過去に他者から敵意的な行動を受けた経験やトラウマが影響していることがあります。
社会的スキルの欠如:他人の意図を適切に解釈する能力が十分に発達していない場合、敵意帰属バイアスが起こりやすいとされています。
2. 児童における敵意帰属バイアスの研究
敵意帰属バイアスは、特に子どもたちの攻撃行動に関する研究で注目されています。
心理学者Kenneth Dodgeは、社会情報処理モデルを提唱し、敵意帰属バイアスが攻撃的な行動の引き金となることを明らかにしました。
実験例:曖昧な状況での解釈
ある研究では、子どもたちに「遊び中に他の子どもがブロックを壊した」という曖昧な状況を提示しました。
攻撃的な傾向の強い子どもほど、「相手がわざと壊した」と解釈する傾向が強いことが確認されています。
影響と結果
このような誤解に基づく敵意は、子ども同士のケンカやいじめにつながりやすいとされています。
また、家庭環境や虐待経験も、敵意帰属バイアスを強める要因として挙げられます。
暴力的な環境で育った子どもは、他者を信頼する能力が低下し、他人の意図を否定的に解釈する傾向が強くなります。
3. 犯罪との関連性
敵意帰属バイアスは、犯罪行動とも深く関連しています。
このバイアスが強い人は、他人の行動を敵意的に解釈することで攻撃的な行動や報復行動を取りやすくなるのです。
暴力犯罪との関係
例えば、暴力事件では加害者が「相手に侮辱された」と感じて攻撃に及ぶケースがよく見られます。
実際には相手が意図せずに取った行動であっても、敵意的に解釈されることで暴力が正当化されるのです。
再犯リスク
矯正施設での研究によると、敵意帰属バイアスが高い受刑者ほど再犯率が高いことが示されています。
このため、矯正プログラムでは敵意帰属バイアスを修正する介入が行われています。
4. 日常生活での影響:職場の例
敵意帰属バイアスは、日常の人間関係でも問題を引き起こします。
特に職場では、誤解による対立が生じやすく、組織全体のパフォーマンスに悪影響を与えることがあります。
職場での例
ある職場で、Aさんが提出した提案書を上司が無表情で受け取りました。
それを見たAさんは、「上司は提案書を気に入らなかった」と思い込み、不安や不満を募らせます。
その結果、Aさんは上司と距離を置くようになり、業務連携が悪化しました。
実際には、上司は他の業務で頭がいっぱいで、特に悪意はなかったのです。
私も働く人のメンタルヘルス相談を受けていますが、この手の敵意帰属バイアスによる思い込みをよく伺います。
原因と対策
職場での敵意帰属バイアスは、過去の経験やストレスが原因となることが多いです。
これを防ぐには、以下の方法が役立ちます。
他者の行動を直接確認する:「先ほどの提案書についてどう思われましたか?」と聞く。
感情をコントロールする:深呼吸をして冷静になる。
ポジティブに解釈する習慣を持つ:「上司は忙しかっただけ」と考える。
5. 敵意帰属バイアスを改善するには
敵意帰属バイアスを減らすには、自分の思考パターンを見直すことが重要です。
認知行動療法(CBT)
敵意帰属バイアスを修正するための有効な方法として、認知行動療法が挙げられます。
自分の認知の歪みを分析し、他者の意図を適切に解釈するスキルを身につけます。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
他者の意図を正確に理解し、適切に対応するためのスキルを身につけることができます。
グループワークやロールプレイなどを通じて、他者の立場を想像する訓練が効果的です。
6. まとめ
敵意帰属バイアスは、子どもの攻撃行動から職場での人間関係の悪化、さらには犯罪行動にまで影響を及ぼします。
しかし、このようなバイアスがあることを意識して対処することが可能です。
まずは、自分の考え方の癖に気づき、誤解を避けるための行動を実践してみましょう。
敵意帰属バイアスを防ぐことは、自分自身だけでなく、周囲の人々との関係をより良いものにする第一歩です。
日常の中で「相手に悪意はないかもしれない」と考える習慣を持ち、誤解からくる対立を減らしていきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【お問い合わせ・心理相談】
■小林へのお問い合わせはこちら
小林へのお問い合わせやお仕事依頼など。
■心理相談のお申し込みはこちら
心理相談についてのお問い合わせやお申し込み。
小林いさむ|公認心理師