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相手を理解していることを暗に伝える「エピソード語り」

相談を受けているときなどに、相手のことを理解していることを示してあげられると、信頼関係を築きやすくなります。
 
傾聴場面では、ときどき相手の話を要約したり、気持ちを言い表してあげたりすることで理解を示しています。
 
しかしながら、上手にできればいいのですが、少しピントがずれたフィードバックをしてしまうこともあります。
あなたはこうなのですね、と推測を伝えて外してしまい、理解していない印象を与えることもあります。
 
そこで外れても失敗しない、なおかつ当たったらぐっと心をつかめる、相手に理解を示す方法を紹介します。
この方法を使うと、相手との信頼関係を築くスピードが早くなります。



それは、相手の状況と似ている例を語る、という方法です。
 
臨床経験の中で私が個人的に自然と身につけた方法です。
 
目の前の相手に推測で直接的に「あなたはこうなのですね」と言うと、外してしまうリスクがあります。
そこでその相手と状況が似ている他の人のエピソードをそれとなく話し始めるのです。
そうすると、相手に反応があり、「私もまったく同じなんです」といった言葉が返ってくることがあります。
 
例えば、
いつも仕事で疲れているという方の悩みに対して。
 
「私の知り合いのAさんも同じようにいつも仕事で疲れていると言っています。Aさん自身も言っているのですが、周りの人の評価をすごく気にするそうなのです。それで評価を下げたくない、期待に応えなければいけない、絶対に手を抜けない、という思いでいつも仕事をしているのだそうです。Aさん自身そういう自分の性格に悩んでいました」
 
すると、相手は自分に重ね合わせて、「私もAさんとまったく同じなんです」と、まるで自分のことを言い当てられたかのように受け取ります。
 
間接的にではありますが、自分のことをよく理解してもらえたという感じになるのです。
そして、直接的に伝えるよりもインパクトが大きく、信頼関係を築くスピードが早まるようなのです。
 
 
相手の状況と似ている例を語ることには2つメリットがあります。
 
1つ目は、外れても失敗しないことです。
相手のことを言ったわけではないので外れても、「そういう例もあるという話です」と、その話を終わらせればいいだけです。
 
2つ目は、ストーリー性があると聞き入れやすいことです。
ストーリー仕立てにすると、惹きつけられやすく、またイメージしやすくなります。
そして、自分に当てはまるところを探しやすくなります。
 
 
この方法を用いると、相手に一歩を踏み出すためのイメージを与えることもできます。
 
モラトリアムで今は自分が何をしたいのかもわらず過ごす青年がいるとします。
そして、その青年はいつか何か大きな体験をして自分の使命に目覚めるだろうと考えています。
 
そこでこのような例を語ってみます。
 
「同じように自分が何をしたいのか何をするべきかわからない青年Bさんがいました。その年は皆既日食が見られる年で、Bさんは東京から屋久島まで長い時間をかけて自転車で行きました。屋久島で皆既日食を見るためです。時間と労力をかけて奇跡的な瞬間に立ち会えれば、自分が変わるのではないかと考えたのです。皆既日食は見ることができました。しかし、それでBさんの身に何かが変わるということは結局ありませんでした。Bさんはその後も自分の使命を見つけられずに時を過ごしています」
 
この話を聞いてそのモラトリアムの青年は、「いつか何かが自分を変えてくれる」という幻想を捨てて、現実的な歩みを進めることになっていきました・・・という話。
 
これは例え話ですけれど、ストーリー性を持つ相手と似ている話を語ることで、一歩を踏み出すきっかけを与えることがあります。
 
 
 
今回は、相手を理解していることを暗に伝えるために相手の状況と似ているエピソードを語ってみるという話でした。
 
 
最後までお読みいただきありがとうございました。


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小林いさむ|公認心理師

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