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前回のミーティングを思うと、ゼミ室に向かう足が重くなる。学生に任せようと主張した手前、…
ブラインドを上げると、麗らかな春の陽が研究室に差し込む。散り残った桜が、風にあおられ、…
研究室でメールをチェックしながら、家から持参したおにぎりと野菜ジュースで昼食を済ませる…
オフィスアワーの余韻を引きずり、東京方面行の山手線に揺られる。今夜は同業者の友人2人と…
キャンパスの木々に瑞々しい若葉が茂り、初夏の陽を受けて、地面に精緻な影を落としている。…
教壇に戻り、仕切り直すように声量を上げる。 「ここからが今日の内容です。今日のレジュメ…
レクサスのハンドルを握る鳴海学長は、コロナ禍で、感染症専門医として、厚生労働省の感染症部会に出席した経験を話してくれた。臨場感のある語りに引き込まれ、いくつも質問してしまった。 その話が一段落した頃、彼は助手席の私に顔を向け、目元をほころばせる。 「今日の講義、申し分のない出来でした」 彼の視線を感じ、全身がじりっと焼けるように熱を持つ。ムスク系の香水とかすかな体臭が混じり、魅惑的に香る。そこから意識をそらそうと、茜色に染まる山際に視線を逃がす。最後の命を燃やす夕
予想していなかった申し出に、視界がぐらつく。蛍光灯がやけにまぶしく感じ、寿司桶に残る握…
実家の敷地には、2階建ての住宅が2軒並ぶ。93歳になる父方の祖父が住む左側は、既に消灯して…
新宿の高層ビル群は霧にけぶっている。眺望を期待し、ホテル最上階のアフターヌーンティーを…
ホテルのバーは開店したばかりで、客はまばらだ。レンガ造りの壁が、抑制された暖色の照明に…
湿気を閉じ込めた厚い雲が、気まぐれのようにそれを放出し、降ったり止んだりが続く。遠くの…
梅雨の合間をぬい、龍さんと私は、赤城山の見える公園を散策している。昨夜降ったので、湿気…
驚いて彼を見上げると、彼は照れ隠しのように歩調を早めてしまう。枝をぬうように注ぐ木漏れ日が眩しく、彼の表情が見えない。全身が心臓になったように打ち始め、脳がじんと痺れる。遠くから聞こえる甲高い子供の声、雨上がりの草いきれ、ウォーキングシューズを通して伝わる地面の感触、口内が水分を失っていく感覚。思考が働かない代わりに、五感が総動員され、この瞬間を記憶しようとしている。 彼は私を振り返り、何もなかったように尋ねる。 「風花さんに、相談に乗ってほしいことがある。以前、大学と