キャラクター語り:ジャンヌ・ラ・ピュセル【小説:Tristan le Roux/赤髪のトリスタン】
アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)の未邦訳小説「Tristan le Roux/赤髪のトリスタン」を底本にしています。
総合目次:
神がかりのジャンヌ・ダルクと悪魔憑きのトリスタン・ル・ルー(Tristan le Roux/赤髪のトリスタン)
訳者あとがき:キャラクター語り
翻訳者だって「ひとりの読者」としてネタバレ感想書きたい!
そんな主旨で、好き勝手に語ります。
ここからは、各章の「登場人物紹介」ページの順番にならって、私が思ったことを書いていきます。
ジャンヌ・ラ・ピュセル(17歳)
ドンレミ村出身。信心深い農民の少女。
天使や聖人たちの「声」に導かれ、シノン城にいるシャルル七世に会いにきた。
イングランドに包囲されているオルレアンを解放し、王太子(シャルル七世)を正式に戴冠させようと張り切っている。髪を短く切り、少年のように男装している。
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ジャンヌ・ラ・ピュセルについて:ネタバレあり
日本語は一人称の種類が多いです。
俺、僕、おいら、私、わたし、わたくし、あたし、小生……。
漢字をカタカナやひらがなにするだけでも、ぐっとイメージが変わりますよね。
背景の説明がなくても、一人称だけでその人の生い立ちが透けて見えます。
本作のジャンヌは、典型的な聖女・聖人というより、「田舎で伸び伸びと育ち、純粋無垢で信心深く、度胸と勇気のある女の子」と設定しています。
だから、一人称は「あたし」がふさわしい。
なお、ジャンヌは「貧しい農民の娘」を自称していますが、農奴や貧農ではなく、裕福な豪農出身です。
最終章「捕らわれたジャンヌ(1)」の文末で、ジャンヌの身代金1万リーブルを円換算したこぼれ話を書きました。
王の会計士によると、当時のシャルル七世の個人資産はとても少なく、ポケットマネーで身代金全額をすぐに用立てることは難しいと推測できます。
その一方で、ジャンヌの父は、土地や家畜、共同で所有している城塞などの総資産を含めて数万リーブルの財産があったそうで(すみません、ソースが見つからない)、娘が火刑に処されたショックで亡くなりました。
「ジャンヌが死んだのは、シャルル七世あるいは味方・身内の誰かが身代金を払わなかったせい」という意見を聞きますが。
当時、戦場で殺されることはあっても、「捕虜として保護」されたからには、むやみに殺したりしません。敵方で人質生活を送っている人は珍しくないです。
フランス側(シャルル七世)としては、異端審問の名目でジャンヌが法廷に引きずり出されるまで「人質が処刑される」とは思わなかったのではないかと。
ちなみに、異端審問の最中、シャルル七世は教皇に謁見してジャンヌの審判を公会議(教会組織の上層部)にゆだねるように働きかけています。
何もしないで見殺しにした汚名を着せられてますが、そんなことはないのです。
ルーアンでの異端審問の証言によると、ある審問官がジャンヌにシャルル七世の動向を教えて、ジャンヌが「公会議とは何か?」と質問したこと、説明を聞いて「そこで裁きを受けたい」と希望したこと。
その後、審問官は「判決はもう決まっている。余計なことを喋るな」と脅迫されて命の危険を感じ、異端審問の任務から降りてルーアンを去ったいきさつが記録されています。(後半は、のちの復権裁判で明らかになる部分)
私は個人的にシャルル七世推しですからね!
よく言われる「シャルル七世がジャンヌを見殺しにした」説は、当時のイングランドの主張(陰謀)であり、ジャンヌは最期の瞬間まで「王様のせいではありません」と言い続けていたという事実をもっと拡散したい。
ジャンヌ火刑の件で、シャルル七世が悪者にされるのは理不尽。
責められるべきは、処刑を主導して証言を改竄したイングランドでしょうよ。
*
気づいたら、「キャラクター語り:ジャンヌ・ラ・ピュセル」でありながら、シャルル七世のことで熱くなってしまいました。
なお、次回は「キャラクター語り:シャルル七世」です。
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小説後半について
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