キャラクター語り:伯爵夫人【小説:Tristan le Roux/赤髪のトリスタン】
アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)の未邦訳小説「Tristan le Roux/赤髪のトリスタン」を底本にしています。
総合目次:
神がかりのジャンヌ・ダルクと悪魔憑きのトリスタン・ル・ルー(Tristan le Roux/赤髪のトリスタン)
訳者あとがき:キャラクター語り
翻訳者だって「ひとりの読者」としてネタバレ感想書きたい!
そんな主旨で、好き勝手に語ります。
ここからは、各章の「登場人物紹介」ページの順番にならって、私が思ったことを書いていきます。
伯爵夫人(40歳くらい)
オリヴィエの母。息子を深く愛し、トリスタンを不憫に思っている。
亡き夫は、オリヴィエが10歳のときにアジャンクールの戦いで戦死。
まだ充分に美しく、背が高く、透き通った蝋のように白い肌。かつては豊かだった黒髪に白髪が混ざって銀色に見える。善良な貴婦人。
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伯爵夫人について:ネタバレあり
トリスタンと伯爵夫人の関係は、作者アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)と父アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ)を思い起こさずにいられません。
ざっくり箇条書きで、父子の確執を紹介します。
同名の父アレクサンドル・デュマと、隣人で縫製工の母との間に生まれる。
出生届も出されず、両親不明の私生児として育つ。
7歳のときに父から認知され、父と同じ名をつけられる。
裕福な環境と最高の教育を与えられる。
バカロレアに失敗して学業を放棄、パリの社交会で退廃的に過ごす。
高級娼婦マリー・デュプレシスと相思相愛になるが、突然別れを切り出されて自暴自棄になる。
後日、息子の将来を心配した父が「息子と別れるように」とマリーに迫ったことを知るが、時すでに遅く、マリーはパトロンの一人と結婚して間もなく死去。
子供と引き離された母の苦悩や、青春期に受けた周囲からの偏見が、作風に大きく影響。
父のデュマ・ペールは『三銃士』『モンテ・クリスト伯』などで知られる著名な劇作家。歴史活劇など大衆向けの作風だったのに対し、息子は繊細で悲劇寄りな作風が特徴です。
代表作『椿姫』は、日本ではヴェルディ作のオペラの方が有名かも。
オペラ版ヒロインはヴィオレッタ(=すみれ)ですが、原作ではマルグリット・ゴーティエ。いつも椿を身につけているため椿姫と呼ばれています。
彼女と恋に落ちる青年の名は、アルマン・デュヴァル。
アレクサンドル・デュマとイニシャルが同じです。
デュマ・フィスの実体験を元にした悲劇的な恋愛小説が『椿姫』であり、その二年後に歴史小説『トリスタン・ル・ルー』を発表。
史実を元にした歴史活劇で、トリスタンやオリヴィエは架空のキャラクターです。
物語の構造自体は、父の作風を思い起こさせますが……。
デュマの複雑な生い立ちを知ると、トリスタンと伯爵夫人のいくつかのセリフは、実際にデュマ父子が交わしたのではないかと邪推したくなります。
例えば、下記の伯爵夫人のセリフなど。
いつも悲しそうだと伯爵夫人に指摘されて、「悲しみの原因を教えてくれたら慰めてあげる」と言われても、幼いトリスタンは何も言いません。
カルナック城に7歳で引き取られるまでの(デュマ・フィスが認知されたのと同じ年齢)みじめな生活と周囲の偏見、行き場のない悲しみ、のちに恵まれた環境と教育を与えられても感謝するどころか憎しみが深まるばかり——。
デュマ父子を念頭に『トリスタン・ル・ルー』を読み直すと、トリスタンの叫びは作者デュマ・フィスの屈折した思いの投影に思えてなりません。
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小説後半について
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【URL:神がかりのジャンヌ・ダルクと悪魔憑きのトリスタン・ル・ルー】
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