キャラクター語り:マリー・ダンジュー【小説:Tristan le Roux/赤髪のトリスタン】
アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)の未邦訳小説「Tristan le Roux/赤髪のトリスタン」を底本にしています。
総合目次:
神がかりのジャンヌ・ダルクと悪魔憑きのトリスタン・ル・ルー(Tristan le Roux/赤髪のトリスタン)
訳者あとがき:キャラクター語り
翻訳者だって「ひとりの読者」としてネタバレ感想書きたい!
そんな主旨で、好き勝手に語ります。
ここからは、各章の「登場人物紹介」ページの順番にならって、私が思ったことを書いていきます。
マリー・ダンジュー(24歳)
フランス王妃。シャルル七世の妻。
聡明で慈悲深く、厳かな美しさが輝いている。
シャルル七世を深く愛しているが、愛ゆえに野心と誇りに満ちていて、女性の心よりも王妃の矜持を優先している。
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マリー・ダンジューについて:ネタバレあり
あまり知られていませんが、歴史家から高く評価されている王妃です。
高潔な姫君で、理想的な王妃。
生涯にわたって夫を深く愛し、時には涙もろい性格のシャルル七世を支えた。
婚約していた少年少女時代から二人は友情を育んでいた。
二人が結婚したのは、シャルル七世が19歳でマリーが17歳のときですが、さかのぼること九年前——10歳と8歳で婚約。
このとき、シャルルはマリーの実家アンジュー公爵家に引き取られて、マリーの兄弟とともに養育されます。
二人とも「大人になったら結婚する」のは当然と思っていたでしょうし、幼少期から「異性の幼なじみ」として友情を育み、もしかしたら結婚当初から熟年夫婦みたいな関係だったかもしれません。
シャルル七世は14歳で王太子になるまで王位継承とは無縁と見なされていて、身分もポンティユ伯爵でした。本来ならマリー・ダンジューは伯爵夫人に収まるはずだったのにフランス王妃に……!
マリーが、シャルル七世の運命に「神の意志」を感じるのはこういう経緯があってこそ。
なお、王妃になるからと言って浮かれるタイプではありません。
当初、アニエス・ソレルが控えめなシャルル七世を「謙虚な神学生」のような人と思っているのに対して、マリーが「偉大な王になっていただく、その資質がある」と断言するのも、幼少期からずっとシャルル七世を見つめてきたから。
うわべの性格だけでなく、複雑な生い立ちと魂の深い部分を知っているから……なのでしょう。
アニエスもマリーも「シャルル推し」だけど、やや解釈違い。
マリーのアドバンテージは、付き合いが長くてお互いを知り尽くしていること。
*
小説や翻訳とは別の趣味でホロスコープ(西洋占星術)を読むのですが、シャルル七世とマリー・ダンジューの相性はとても良好です。
本音を語り合い、素顔を見せられる。お互いにすごく居心地のいい相手。
ただし、マリーが情熱的な感情を抱いているのに、シャルル七世は恋愛や情熱を示す星がまったくない!
シャルルはマリーを大事に思っているけれど、信頼できる異性の幼なじみで良きパートナーとして見ているようです。
おそらく、マリーはお互いの想いに温度差があると気づいている。
でも、人の感情は理屈では動かせない。
*
マリー・ダンジューが、シャルル七世とアニエス・ソレルの仲を認めるまでの心境を考えてみました。
実の両親から愛されず、不遇だったシャルルが初めて恋をした。
相手のアニエスは身も心も美しい人で、本心からシャルルを愛し、マリーのことも気遣っている。
聡明で慈悲深いマリーは、シャルルがやっと見つけた幸福を取り上げたくなかったのかもしれない。
アニエスが嫌な人だったら憎むこともできたのに、そうではなかった。
マリーが認めなかったらアニエスは身を引くだろうけど、それでは誰も幸せになれない。シャルルの悲嘆はさらに増し、何よりマリー自身がとてもみじめになる。
マリーが心に仕舞い込んだ気持ちを思うと、切なくて泣きたくなってしまいます。
高潔な姫君で、理想的な王妃、そして泣きたくなるくらい愛の深い人……!
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小説後半について
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