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美しく危うい青春の恋、そして…◇『禁じられた約束』

 子どものころに「こんな大人がいてほしい」と願ったような大人に、いまの自分は、なることができているだろうか。いろんな言い訳をして、自分のことは棚に上げ、子どもや年下に「こんな人でいてほしい」を押しつけてはいないだろうか?
 ストーリーとは直接関係ないけれど、ロバート・ウェストール『禁じられた約束』を読んで、そんな問いが残りました。

 ロバート・ウェストール『禁じられた約束』

 第二次世界大戦が始まる直前のイギリス。14歳のボブは、同級生の病弱な少女ヴァレリーと、ひょんなことから親しくなった。父親同士の職場が同じで、話し相手になってやってほしいと頼まれたのだ。やがて戦争が始まり、彼らの身辺にも徐々にその影が忍び寄るなかで、ふたりは町や海辺を散歩しながら、恋心を育んでいく。
 ある日、そう長くは生きられないという彼女にせがまれて、ボブはある約束をした。
「もしわたしが迷子になったら、きっと見つけて」
 その約束が、思わぬ事態を招くとも知らず――。


 ヴァレリーが肉体を失ったあと、なおも心を癒やしてあげようとボブが献身的に自分をささげていく展開は、ホラー色もありながら、美しく純粋です。
 でも、そのままでいいはずがない。生者にはこの世でまだできること、やるべきことがあるのだから。
 ヴァレリーの父親が、娘を溺愛しているにもかかわらず、ボブに語りかける言葉が秀逸でした。

「きみは、このひどい世の中をわたっていくには気立てがよすぎる」妙なことに、ちっともほめているような口調ではなかった。それから、モンクトン氏は少しやさしい口調でつづけた。「いいか、相手が必要としているものを与えるんだ。ほしがっているものじゃなく、な。ほしがっているものを与え始めると、相手はしまいにはきみの皮をはいでブーツを作ろうとするぞ。そして、皮の質が悪いと文句を言うんだ」

ロバート・ウェストール『禁じられた約束』


 こういうことを言える大人がそばにいてくれるなら、幸せな子ども時代だなと思いました。

 そして、わたし自身はこういうことを言ってあげられる大人になっているだろうか? とも。

 第二次世界大戦が始まり、戦場に行った若者の死がすぐ身近にある時代、ボブは恋愛の行く末に死と向き合い、同時に自分の生と向き合います。
 いまの時代を生きる子どもにも、大人にも読んでほしい作品でした。


◇見出しのイラストは、みんなのフォトギャラリーから
mioartyさんの作品を使わせていただきました。
ありがとうございます。


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真帆しおん*MAHO Shion
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