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あの日の決断、もしやり直せたら。~『ミッドナイト・ライブラリー』~
こんにちは。桜小路いをりです。
先日、『ミッドナイト・ライブラリー』という小説を読み終えました。
やや重いテーマを扱っている物語ですが、清々しい読後感が印象的な1冊でした。
著者は、イギリスの小説家のマット・ヘイグさん、訳は浅倉卓弥さんです。
この物語の主人公は、ノーラという名の女性。
彼女は、仕事を失い、飼い猫を亡くし、話を聴いてくれる人も周りにおらず、人生に絶望しきって命を絶とうとしてしまいます。
目覚めたとき、ノーラの目の前にあったのは、無限に書棚が広がる不思議な図書館。
そこには、かつてノーラの心の拠り所になっていた、学校の図書館司書とそっくりな女性がおり、彼女は、その図書館について説明をしてくれます。
「この『真夜中の図書館』にある本は全て『あのとき自分が違う決断をしていたら、こうなっていたかもしれない』というあなたの人生が綴られている」と。
ノーラは、これまでの後悔を思い返し、自分の「あったかもしれない人生」が綴られた「本」を開くことで、そこに迷い込んでいきます。
ノーラの心に残る、後悔の数々。
あの日、あのまま結婚していたら。
あのままバンドを続けていたら。
あのままずっと水泳を続けて、オリンピックに出ていたら。
ある人生では、ノーラは水泳の選手になり、また別の人生ではバンドのボーカルになり、はたまた普通の主婦になっています。
そのどれもが「あり得たかもしれない現在」であり、「もとの人生には訪れなかった現在」です。
読み進めていくうちに、「もし私にも『真夜中の図書館』があったら、どんな人生を見てみたいだろう」と考えて、止まらなくなってしまいました。
私には、どんな後悔があるだろう。
どんな決断をしていたら、どんな現在があったのだろう。
そんなことを、思い起こさずにはいられませんでした。
ノーラが「自身が送っていたかもしれなかった人生」をのぞいていく様子を見ていく中で、おのずと自分自身に向き合わせてくれるような。
そんな1冊になっています。
印象的だったのは、ノーラの「あったかもしれない人生」が、緑色の表紙の本にそれぞれ綴られていて「真夜中の図書館」に収められていること。
それらの本は全て、微妙に異なる緑色をしているそうです。
しかも、人によっては、「あったかもしれない人生」が収められているものは、「図書館」や「本」ですらないこともある、とも、書かれています。
私の「あったかもしれない人生」が綴られている本は、どんな色をしていて、どんな図書館に収められているだろうかと、そんなことにも、ついつい考えを巡らせてしまいます。
私なら、ピンク色でしょうか。意表を突いて青色だったりして。(とりあえず「本」であることは決定です。場所は、図書館より本屋さんかな……)
やり直したいこと、もっとこうしていたら……と思うこと、もう取り戻しようもない後悔。
たとえ口に出すことはなくても、それらはきっと、生きていれば誰の心にも生じるものだと思います。
「こんなはずじゃなかった」と思うことも。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう」と思うことも。
でも、そんな「もしもこうだったら」という人生すら、自分のどこかに、ひとつひとつ本として収められているのだとしたら。
ほんの少しだけ、心が救われる気がします。
数々の「もしも」の中のどれかではなく、自分は、まさに「今」「ここ」を生きている、と思えるような。
本作は、そんな、当たり前だけれど忘れがちなことも、教えてくれる小説でした。
『ミッドナイト・ライブラリー』、ぜひお手に取ってみてください。
今回お借りした見出し画像は、月下美人の写真です。月下美人は、夜の間だけ咲くお花。「真夜中」から時間が動かない「真夜中の図書館」が、ひと晩だけ花を咲かせるその姿に重なったので、選ばせていただきました。月下美人のちょっと怖い花言葉と共に、この物語に通じる部分がある気がします。ちなみに、この本を読みながら私の頭の片隅に流れていたのは、ボカロPのピノキオピーさんのヒット曲「転生林檎」でした。
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