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伊豆天城山でハイキング-14

険しい岩肌が見えてきた。

爬虫類の皮膚のように繊細なのに凹凸があって、まるで岩の滝みたい。その迫力につい目を奪われてしまう。

釜滝はその正面にあった。

幅2m、高さ22mの細く流れ落ちる滝だ。


水量もそこそこで高さがあるせいか滝つぼへと到達した水はしぶきとなって離れた場所で見ている私たちにまで届く。


マイナスイオンの大盤振る舞いやぁ~。


動きを絶やさないサファイアブルーの滝つぼに今にも吸い込まれてしまいそう。
水には色がないのにこんなにも多色でその存在を示されて、それを当たり前のように受け入れられる人間、世界って不思議。


この先に猿田淵があるけど最初の予定は変更されず「行かない」というままなので来た道を引き返す。

初めて通る道は好奇心に満ち溢れて長く感じるけど引き返す時には短く感じる。
ずっと舗装された道、普通のスニーカーで問題なかったな。

小石を川に浮かぶ岩に投げ入れる大石成就まで戻ると「やる」、「やらない」の行きと全く同じ会話が始まった。

「入っちゃうよ」

「願い叶っちゃうよ」

そればかり繰り返して言うれんが、結果、やることになった。

一投目:岩を通り過ぎて川に落ちる

二投目:手前で川に落ちる

三投目:今まで一番、岩に近づいたけど乗ることはなかった

残念、有言実行・・・・・・ならず。

そんなれんを見て「リベンジっ!」と名乗りを上げるものは誰もいない。

良かったね。見事、石が岩の上に乗って願いが叶ってしまったら否応なくここにまた戻って来ないといけないんだから、そのプレッシャーから解放されたことを良しとしよう。


駐車場まで戻ってくるとお土産屋さんの前で二人の男性が話していて、一人が去って行った。残された一人はお店のスタッフのようで私たちの方へとやってきて手に持っていた飴玉を渡してきた。

まずはささに、そしてなぜだか渋々私に。

渡された飴は生暖かった。素手で握っていた飴を手渡しされるなんてコロナも終焉を迎えてきた証拠だろう。

「これ僕が作っているんです。ゴマを飴で包んだもので」

口に入れてみると表面は柔らかくすられた胡麻の味が広がる。

「おいしい」

ささも同意見だ。

「後で買いに来ます」

その言葉は彼女の本音か試食から逃げる言い訳だったのかわからない。だけどその男性はすぐに言って来た。

「その頃にはお店が閉まっちゃうかも」

今、買ってください。

買おうとしているこの瞬間を逃しません。

彼のその思いが伝わってきて、私の買う気はどっと失せた。

苦手です、ゴリ押しを匂わせる売り手さん。

彼の後ろには袋に入った飴たちが並んでいる。

うわぁ、量が多いって。

味は確かにおいしいから小袋なら買ってもいいと思ったけど、この量は無理。

たぁは田舎風のお菓子や食べ物を食べないから、もし買ってしまったら私一人で食べることになる。元々、甘いものをたくさん食べないし一袋買ってしまうと食べ切らずに捨てることになってしまうかもしれない。

大好きな漬物もそれが原因で買うことが出来ず、ささが買うのを見ていつも羨ましく思うんだ。

商品の上には試食箱があり、ゴマの他にも落花生ともう一つの味があった。買う気を示したささは全ての味を試食する。

「全種類買ってもすぐに食べ切りますよ」

だから売り手目線のそういう言葉いらないって。

彼は飴職人さんで自分の商品を宣伝するためにわざわざお店の前に立っているんだろうけど、言葉の一つ一つが逆効果になることを知ってほしい。

ささは胡麻の飴一袋を手にした。

気が付くとららが傍にいてわさび海苔とガーリックポテトチップスを彼女に勧めていた。

「はーい、どれでも買ってくださいね」

店のおばちゃんが表に出てきて言う。

だから止めてくれ、余計な言葉のオンパレード。

何かいいものはないかと探していたけどこれがとどめとなって私は商品選びを止めた。

残念ながら片田舎のお土産屋さんではよくある光景だ。

お客がお金にしか見えていないのかな。

ささは胡麻飴とららが食べたいお菓子を購入した。

「なんかごめんね」

試食を勧められたのは二人。本人が欲しかったこともあるだろうけど彼女は私の代わりに買ったようなものだ。

「大丈夫、大丈夫」

味には間違いないから、家族でおいしくいただいてね。



主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう



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