【フランス パティスリーウィーク2023】カリッカリ!ザックザク!な新食感。超クリスピーなシュー皮と、このエクレア専用に開発した〈濃厚バニラ&ミルククリーム〉とのマリアージュ
シェフの進藤です。
今日ご紹介するのは進藤洋菓子店オリジナルの〈エクレア〉です!完全新作。
その名も〈エクレール クロッカン〉
皆さんご存知の洋菓子〈エクレア〉。実は、本当の発音は〈エクレール〉。フランス語です。意味は〈稲妻〉。名前の由来を調べると、細長い形状が食べ易く〈稲妻〉の様に瞬時に食べ終わってしまうから、とか、オーブン内で膨らんだ際にできるシュー皮の裂け目が、ギザギザの〈稲妻〉模様に見えるから等々、諸説いろいろあるようで…。
しかし何故、この夏に向けて新作の〈エクレア〉なのかというと、まずは【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク】という、パティスリー参加型イベントの説明を。
【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク】とは、2021年から始まった〈フランス菓子〉をテーマとしたグルメイベントの名称。そのイベント内容は、各回毎に共通の〈テーマ=お題のお菓子〉が主催者から発表され、参加する各店舗がその〈お題のお菓子〉にオリジナリティーを加えたアレンジ作品(商品)を発表し、それを決められた期間(約1か月間)店頭販売するというもの。事務局から頂いた情報によると、過去、記念すべき第1回目は東京圏のパティスリー 64店が参加し、テーマは「パリ・ブレスト」でした。なのでお客様はその期間、その店その店で考えられた〈趣の異なるパリブレスト〉を味わえたという事。第2回、昨年のテーマは「ミルフィーユ」。初回に比べて大幅増の12都市166店が参加。メディアにも取り上げられ大変話題になったと説明がありました。
もうお分かりの方もおられると思いますが、今年の第3回目から当店も参加させて頂く事になり、そして今年発表された〈テーマ=お題のお菓子〉が、先程述べた〈エクレア〉なのです。因みに、今年の参加店舗は全国220店越え! 開催期間は6月30日から7月30日までとなります。なので、上記写真にある当店のエクレアも、販売開始は6月30日からとなりますので。
〈エクレア〉とは、フランス菓子の〈パータ シュー〉いわゆるシュー生地を使ったお菓子の1つで、そのシュー生地を細長い棒状に焼成し、中の空洞にカスタードクリームやコーヒークリーム等を注入してから、仕上げとして上面に“フォンダン”と呼ばれる糖衣をかけた〈フランス菓子〉の事。
これまでずっとフランス菓子を作ってきた進藤ならば、これまで何千何百と〈エクレア〉を作ってきました!と言いたいところですが、実は私の〈パティシエ人生約30年〉を振り返っても〈エクレア〉作りにはあまり縁がなく…。何故なら、皆さんもご存知の通り日本では〈エクレア〉より、同じシュー生地を使ったお菓子〈シュークリーム〉の方が圧倒的に人気なのです。それにより、日本ではエクレアを扱うお店が圧倒的に少なく、それが〈作る機会が無い〉要因に。逆に、26才の頃初めてフランスに行って驚いた事の1つが、フランスのケーキショップやパン屋さんには必ずと言っていい程〈エクレア〉が置いてあり、逆に〈シュークリーム〉はどこを探しても見当たらない事。フランスには〈シュークリーム〉が無いんです!フランス菓子なのに。これは私の勝手な推測ですが、フランス人は〈食べ歩きが大好き〉なので、その食べ歩きに適した〈エクレア〉が生存競争に勝利し、如何せん食べづらい〈シュークリーム〉はいつの間にやら淘汰されてしまった?なんて思ったり。 もしかしたら〈エクレア〉の不戦勝で、競争すら無かったのかもしれませんが(笑)。
因みに、フランスでの修業中に僅かですが〈シュークリーム〉を作る機会がありました。でもそれは〈シュークリーム〉として販売する物ではなく、小さい形状の〈プチシュー〉をたくさん作り、飴を接着剤代わりにして積み上げる〈クロカンブッシュ(フランス版ウェディングケーキ)〉の為のパーツとして作った物。そのクロカンブッシュについては、また後日にでも。
なので、日本では毎日の仕事として作る事が叶わなかった〈エクレア〉ですが、フランスでの修業を目指した2度目の渡仏に当たり、「流石にフランスでは作る事になるよね」と密かに期待していました。ですがその期待とは裏腹に、実際に働き始めたパリの〈シュクレ カカオ〉では、エクレア作りは完全にシェフだけが行う仕事で…。いつまで経っても、その仕事が私に回ってくる事はありませんでした。
「本当にエクレアに縁が無いなぁ」
と半ば諦めかけていた頃、事件が起こります。ある日の朝、シェフとマダムが大喧嘩。その余波で、シェフがその日の仕事をボイコットして。〈奥様とケンカして、オーナーシェフが職場を放棄する〉なんて、日本ではそんなバカな話はあり得ませんが、〈ストライキ大国フランス〉ではあるんです(笑)。その為、その日から職場ではシェフが不在に。1日で終了?と思っていたシェフのストライキも、2日経っても3日経っても終わる気配が無く…。そのうち、シェフの抱えていた商品に支障が出始めて。その内の1つが、先程述べた〈エクレア〉で、ついには、そのエクレアに使用するシュー皮のストックが無くなってしまうという事態に。当時私は30才。その時その職場に在籍していたフランス人パティシエ・パティシエールは皆私より若く、ベテランが不在な時期だった為、その状況に「どうする?どうする?どうしよう…」となってしまいました。
ようやくここで、私の出番です。
これまでいつくもの職場を転々とし、様々なシチュエーションに対応してきた私は、フランスの地でも〈いつなん時、他の人の仕事を振られてもいいように〉しっかりと準備していましたから。自分がやってみたいと思っている仕事なら尚更。シェフのベルティエ氏が日頃〈エクレア〉を仕込む姿を遠目から眺め、どの口金を使い、どの大きさに絞り、どんな感じで焼成するのかetc…をチラチラと観察していたんです。忘れそうな事はノートに書き留めたりして。今の若い人達には、こういった盗み見行為は〈気持ち悪く〉感じるかもですが、私が駆け出しの頃は先輩が優しく丁寧に仕事を教えてくれるなんて事は少なく、〈仕事は盗め〉が当たり前の世界。その結果、良くも悪くも体に染み付いたそういった〈他者を観察する習慣〉が、色んな場所で私の出世を助けてくれたのは紛れもない事実で。
「じゃ、仕方がないからオレが作るよ」
と立候補し、シェフのレシピを見ながら待望の〈エクレア〉を仕込み始めました。もちろん皆は興味津々。既にその頃の私はパティシエ歴約10年でホテルのシェフ経験もあり、それを皆に伝えてはいましたが、如何せんフランス人は疑り深く、更に、アジア人は何故か容姿で大幅に若く見られてしまう事も手伝って、全員が不安げで(笑)。
シューやエクレアは確かに難しいんです。何故なら、シュー生地作りはちょっとした匙加減や温度コントロール等が難しく、絞りにおいてもテクニックとスピードが必要。最後の焼成も、幾つか温度帯を変えながらになるので難しい。結局、最初から最後まで難しいお菓子なので、製菓学校教員時代、私が担当していた教員採用試験の実地課題を〈シュー生地〉にしていた事も。ですが私にとって〈シュー生地〉は、これまでに場所は違えども何百回と仕込んできた物なので、生地作りや絞りの〈絶対に外せないポイント〉は心得ており、結果、問題なく、そして淀みなく〈エクレア〉の皮は見事完成。普段シェフが作る物と遜色ない出来映えに、ビックリしている彼らのリアクションが面白くて。皆が口々に誉めてくれる中、同僚で当時二十歳のクリストフが「凄いなヒサシは。コムアンシェフに作るね!」と言ってくれて。〈コムアンシェフ〉の直訳は〈シェフみたいに〉なので、「シェフみたいに上手に作るね」なんて言ってくれたのが嬉しくて。後日談として、ある日ふとその言葉をフランス語辞典で調べてみると〈コムアンシェフ〉は、実は【いとも簡単に、余裕で】という意味だった事を知り、また更に嬉しくなりました。
結局、その2~3日後にシェフがようやく職場に戻ってきました。そして〈エクレア〉を見るなり「これは誰が作ったんだ?」と。前に進み出て「私が作りました」と答えると、ニヤッと笑いながら「そうか、ヒサシか。悪くないな。次もお前にまかせるよ」との事。それ以降、エクレア作りは私の仕事になりました。
思いを強く持ち、しっかりと準備をしておけば、いつか願いは叶うようです(笑)。
これが、思い出深い、私唯一の〈エクレア〉に関するエピソード。
いつもの通り、話が大きく逸れてしまったので本筋に戻します(笑)。
ようやく、進藤洋菓子店オリジナル〈エクレア〉のご説明に。まずこのお話を頂いた時、商品開発の進め方には2パターンあると思いました。1つは、焼き上がったエクレア皮をカットして上下2つにし、中と外の両方にクリームを絞ってから、フルーツ・チョコ等をモリモリ飾り、まるで〈高級ケーキの様なエクレア〉を作る。勿論価格は↑。もう1つは、スタンダードなエクレアの様に、気軽に持って食べ歩く事ができる〈シンプルスタイル〉。でいて、オリジナルなエクレア。こちらの価格は↓。どちらに進むか悩んだ末に、私が出した答えは〈シンプルスタイル〉の方。フランスから帰国してからは、以前にも増して何事も〈シンプル イズ ベスト〉だという思いが強くて。更に、シンプルな方が個性を出すのが難しいので〈選択に悩んだら、常に難しい方をチョイス〉の信条に従い、あえてこっちに(笑)。あと、エクレアは元々気軽に食べる〈おやつ菓子〉なので、あまりに凝って高い値段をつけたくなかったのも理由の1つです。
ではまず、シュー皮のこだわりポイントについて。それはやはり〈クリスピー感〉。この記事のタイトル通り、ザックザク・カリッカリな仕上がりに。実はこの、シュー生地の上のカリッカリなクッキー生地は、残念ながら自分自身で開発したレシピではありません。当店を運営するに当たり、オープン当初から〈全てにおいて、出来るだけ自作のレシピで!〉という縛りを設けてはいますが、中にはこれまでに人から貰った素晴らしいレシピもチラホラ。
ことクッキーシューのレシピに関しては、駆け出しの頃から〈最高のクッキーシュー〉を作りたい!と願い、事ある毎にシューに被せるクッキー生地開発に挑戦していて。チュイル生地・メレンゲ生地・マカロン生地等、思いつく限りありとあらゆるカリカリ生地を乗せ、試行錯誤を繰り返してきました。ですが「これだっ!」という物に辿り着けず…。そんなある日、フランスで一緒に働いたW君のお店を訪問した時の事。そこで出してくれた、彼自慢のクッキーシューが見事に私の理想とする食感で。私は彼よりも歳が上なのですが、恥も外聞もなくすぐに「できれば、レシピを教えてくれない?」とお願いしていて。勿論断られても仕方がないところ、あっさり「ヒサシならいいよ」と。仕事帰りにパリの公園で2人、真っ青な空を見上げながらビールを飲んだ間柄。異国の地で育んだ友情は強いですね。今では、そのレシピは当店のシュークリームに使われ、そして今回の〈エクレール クロッカン〉へと。
本当に、驚く程〈ザックザク・カリッカリ〉な食感なので、是非とも1度は食べて頂きたい。1食の価値は十分にあると思います!
そして、その最高のクッキーシュー皮にあわせるクリーム。これがまた問題で。
少し話が逸れますが、実は、当店の大人気商品〈シュークリーム〉は新型コロナ問題が始まった約3年前からずっと、現在も販売を中止しています。それは当店の〈シュークリーム〉の特性と販売方法が密接に関係していて。当店の〈シュークリーム〉の最大の特徴は、〈シュー皮のカリカリ〉を最大限に楽しんで貰う事。その為、必然として注文が入ってからクリームを注入するスタイルに。何故なら、カスタードクリームが注入されたその瞬間から〈カスタードが持つ水分の、シュー皮へ移行〉がスタートし、その自然の法則によって、残念ながらその後約2時間位しか、ザックザク・カリッカリの乾燥状態を保つ事が出来ないんです。なので販売時に〈今から2時間以内に食べて頂ければ、驚く程カリカリとして美味しいので是非!〉とお声がけしていました。ですが、その新型コロナの問題が出た当初、世間のパニック状態もあり、クリームを注入する為にお待ち頂く数分間の〈お客様の店内滞留〉が問題となり、店員とお客様の〈感染予防の観点〉からやむを得ず販売を休止する事になり、現在に至ります。
この事を踏まえ、この度の新商品〈エクレール クロッカン〉の発売に当たっては、〈事前にクリームを注入していても、カリカリを持続するクリーム〉の開発に着手。
実は、企業の商品開発をしていた時、クライアントからのご要望で一番多かったのが、その時の私と同様に、ケーキ全部やその1パーツを〈ずっと乾燥状態(カリカリやサクサク)に保って欲しい〉というもので。ですが、それは思う程簡単ではないんです。特に生菓子・ケーキ等は含有している水分量が多いので、尚更。なぜなら、この地球上の〈自然の摂理〉として〈水分は、有る所から無い所へ移動する〉という不可侵なルールが有り、いくらカリカリに焼き上げた物でも、①湿度の高い環境に置けば自然と湿気る②水分を含んだ物に密着していれば水分移行で湿気る。なので、クリスピーに焼き上げたシュー皮でも、水分を含んだカスタードクリームを注入すれば、ほんの2~3時間でフニャフニャに。
そこで、私がまず考えたのがバタークリーム。バターは冷蔵で固体になるため、皮に密着していても水分を移す事ができません。なので、まずは当店のタルトに使用している〈進藤オリジナルの極上バタークリーム〉をそのまま注入して試食。やはり、新商品の開発はそれ程簡単では無く、湿気りは解消されたものの、スタッフから「バター感が強すぎて美味しくない」との指摘が。〈産みの苦しみ〉はいつもの事なので、気を取り直し、これまでの経験・知識を目一杯動員して、そこから何度も何度も試作を重ね、5月末、遂に“美味しさ”と“水分移行ブロック”を両立する〈素晴らしいクリーム〉が完成しました!
その名も〈濃厚バニラ&ミルククリーム〉
特筆すべきそのクリームの特徴は、①水分移行を防ぐ目的で、クリームを適度に固める食材にホワイトチョコとバターを併用②牛乳だけでなく練乳や生クリームも贅沢に配合し、芳醇なミルク感を演出③ブルボンバニラとバニラエッセンスの二刀流で、日本人好みなバニラ香を表現。
結果、クリスピーなシュー皮とバニラ&ミルキーなクリームの〈絶品マリアージュ〉が完成。食感に至っても、ある程度時間が経っても〈ザクザク・カリカリ〉を損なう事が無くなりました。気になった方は、是非とも期間内にご来店頂き、真偽をご自身でお確かめ頂きたいと切に願います。
最後にもう一度繰り返しておきます。【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク2023】今年の開催期間は6月30日から7月30日までとなります。宜しくお願い致します。〈パティスリーウィークホームページ〉では、今年の参加店約220店全てが検索できるので、是非ともご利用下さい。
ようやく説明も終わりにします(笑)。いくら書いても〈百聞は一食にしかず〉ですよね。なので、この7月は参加店巡りをして、色んなパティスリーの十人十色なエクレアを召し上がってみては如何ですか?
では、今日の〈エクレア〉も〈違いの分かる大人向き〉。そして、いつも通り〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。
あ、1つ正直な告白を。これだけ研究に研究を重ねた商品なので、冷蔵庫から出してすぐに食べても十分に美味しい設計ですが、やはり食べる前に10~15分程常温に放置して頂くと、クリームが適度に柔らかく滑らかになり、更に美味しく召し上がる事ができます(笑)。美味しさを追求される方は是非お試し下さい!
追伸。『note創作大賞2023』エッセイ部門にエントリーしている、下記の投稿。お陰様で現在約700名もの方に読んで頂いております。ありがとうございます。中々上手に書けていると思います(笑)。もし、まだの方がいれば是非。既にお読みになった方はもう1度(笑)。私がフランスで体験した色んな出来事を、1万字の中に詰め込みました。読んで面白ければ〈スキ〉〈フォロー〉を頂けると幸甚です。宜しくお願い致します。
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