FF16にちりばめられたオマージュとメタファー③ベイグラントストーリー|FF16メタ考察
※FFXVIとFF等過去作のネタバレと邪推を多分に含みますのでご注意ください
前回はFFタクティクスについて考察をしましたが、同じく松野作品であるベイグラントストーリーとFFXVIとの関連性について考察してみようと思います。
↓前回の記事はこちら
まずはベイグラントストーリーの概要から。
ベイグラントストーリーとは
ベイグラントストーリー(VAGRANT STORY)は元スクウェア・エニックス(発売当時はスクウェア所属)の松野泰己さんディレクションのもと開発され、2000年(平成12年)に発売されたRPG・アドベンチャーゲームです。
スクウェア社にて過去制作されたどのシリーズにも属さないオリジナル作品として開発されましたが、松野さんをはじめ、FFタクティクスのスタッフが数多く関わっているとあってファンからの注目度はかなり高い作品でした。
また、FFタクティクスとの関連性を想起させる名称が登場することなどから、イヴァリース関連作品と共通する世界の作品とみなされることもありましたが、後々松野さんはそれを否定しています。
ベイグラントストーリーのあらすじはこちら↓
ベイグラント(VAGRANT)とは、放浪者を意味しており、直訳すると放浪者の物語。プレイヤーは物語の最後にこのタイトルの意味を知ることとなります。
PS2リリース直前に開発・発売されたということもあり、PS1とは思えないグラフィックスや印象的なイベントシーンの演出、舞台となる魔都レアモンデの暗く不気味な雰囲気、主人公や登場人物に纏わる時に物悲しく残酷で謎めいたストーリーなど、学生時代の当時にリアルタイムでプレイした自分にとっては、少し恐ろしくもありながらついついプレイをしたくなる、不思議な魅力を感じる作品でした。
作風は全く違う作品にはなりますが、怪物が彷徨う人気のない迷宮をギミックを解きながら進んでいく、というこのプレイフィールは個人的には上田文人さんの処女作ICOに近い感覚だったように感じます。
一方で、ゲームシステム面でいうと「リスク」と呼ばれるパラメータがたまると、命中率や回避率が下がったり受けるダメージが増加するといったバトルシステムや、3Dを活かしたダンジョン内でのパズルゲーム要素など独自のゲーム性はあるものの、キャラクターの成長が限定的であり、後半に進めば進むほど多種多様な装備やグリモアと呼ばれる魔導書で覚える魔法を強化し駆使しないと雑魚敵にすら勝てなくなる死にゲー的レベルデザインや、宗教や神話を絡めた硬派でダークなストーリーや世界設定など、現代においてソウルライクと呼ばれるゲームの走りとなるような作品だったと思います。
歴代のスクウェア作品の攻略本アルティマニア(ULTIMANIA)の制作者、山下章さんはベイグラントストーリーのアルティマニアのなかでこのように語られています。
山下さんも触れられている通り、ゲーム性だけでなく、FFタクティクスと同様に吉田明彦さんによってデザインされた登場キャラクター達や、皆川さんによる背景美術など、グラフィック面も当時の他のゲームソフトにはない圧倒的な美しさやリアリティーを感じるものでした。
FFXVIの発売当初にユーザの間で話題となった夜などのシーンでの画面の暗さですが、このベイグラントストーリーの特徴である仄暗さのあるライティングや背景美術を意識したものだったのではないでしょうか。
本作の魅力についてはゲーム夜話さんが詳細に解説されているので、こちらも是非。
作品の舞台 魔都レアモンデの由来
ベイグラントストーリーの舞台となる魔都レアモンデは古の魔導師メレンカンプが建てたとされる架空の都市です。街の中央にはシンボルである大聖堂があり、街のあちこちに古代キルティア時代の文字が刻まれています。(キルティアという時代設定はFFTAで登場しているほか、FF12の世界で信仰されている宗教としてキルティア教が登場)
ワインとライムストーンの産地として有名な土地でしたが、25年前に発生した大地震で多数の犠牲者が出て以降、廃墟となり以来魔都と呼ばれるように。この時の地震で生じたクレバスと渦潮によって外界から隔離され、地下通路は迷宮となってしまった…という設定です。
このレアモンデのモデルとなったのは世界遺産として知られる南フランスのサンテミリオンという都市であるそうです。
ボルドーワインで有名な産地のひとつであり、20世紀まで採石作業も活発であったそうで、地下の採石場が使われなくなった後は、迷路のような通路や部屋の一部をワインセラーとして使うようになったとのこと。また、町の中央にはモノリス教会という教会があり、その地下にはカタコンベと呼ばれる地下墓地が存在するそうです。
ベイグラントストーリーの物語の冒頭、ワイン貯蔵庫からプレイが開始されるのはこれが由来であり、レアモンデの地下迷宮もこのサンテミリオンの地下採石場跡や地下墓地が元ネタとなっています。
FFXVIをプレイした方であればお分かりになるかと思いますが、クライヴの青年期に入った序盤に訪れるロストウィングもワインの名産地として登場しており、おそらくこれをオマージュしているのだと思われます。
「キャメロットの伝説」と「聖女と使徒」
ベイグラントストーリーには武器や防具に装着できる秘石というバフアイテムが存在しており、そのなかで古代キルティア時代に人工的に精製されたとされる、伝説の都キャメロットの騎士に纏わる名前が付けられたものが登場します。
これらの名称は前回の記事でも触れた百年戦争が起きていた中世イギリスで生まれたアーサー王物語に登場するブリテン島の王、アーサー王とその王に仕える円卓の騎士と呼ばれた者たちの名前に因んだものとなっています。
円卓の騎士は英語でKnights of the Round Table。FFVIIで初登場し、以降歴代FF作品で度々登場する召喚獣ナイツオブラウンドの元ネタです。
このうちランスロットやトリスタンなど一部の騎士の名前は、松野さんが過去手掛けられた伝説のオウガバトルやタクティクスオウガで登場するキャラクターに用いられており、ベイグラントストーリーにおいてはそうした過去作のオマージュとして用いられていたのかと思われます。
そして、キャメロットとはこのアーサー王物語で語られている、ブリテン島にあったとされるアーサー王の王国ログレスの都(史実上実在したかは不明)の名称です。
このキャメロットという名前はクライヴが叔父のバイロンと再会する際に演じる御伽噺「聖女と使徒」にも登場人物の名前として登場しています。FFXVIで屈指の感動的なシーンでした。(TGS2024のPC版発売記念 出演声優トークステージでクライヴ役の内田夕夜さんも一番収録が大変だったと語られています)
ここにも、歴代の松野作品で用いられてきた要素を引き継ごうとする制作陣のリスペクトと遊び心を感じました。
ちなみに、英語版では「遠からん者は音に聞け 近くば寄って目にも見よ」の口上にあたるセリフはなく、日本語版オリジナルとなっています。
FFXVIに関する考察で有名な限界トルガルさんも触れられていますが、この口上は平家物語の「弓流」という逸話に登場するものだそうです。
「弓流」は平安時代末期の源平合戦における有名な逸話のひとつだそうで、元暦2年(1185年)に源義経率いる源氏軍が平氏軍の本拠地であった讃岐の国(現在の香川県)屋島を攻めた、屋島の戦いの一幕を描いたものです。
この戦いで、平氏軍が船で海上に逃げ込み激しい矢戦を仕掛けてきた際、源氏軍の那須与一が、平氏軍の船上の扇の的を見事に矢で打ち抜いたという逸話「扇の的」も有名であり、歴代のFF作品の武器として登場する与一の弓もこれを基にしています。
では、なぜ制作陣は弓流の口上を引用したのか。
弓流で源氏方で源義経とともに登場するのが、武蔵坊弁慶。義経の部下であり、薙刀をはじめとした多数の武器を使いこなす日本の伝説上の僧兵です。
FFXVIでは登場しませんが、FFVで初登場して以降、歴代のFF作品で登場するギルガメッシュは名前の由来は古代メソポタミアの作品である『ギルガメシュ叙事詩』に因んだものですが、「武器マニアで、勝った相手から武器を奪うことが至上の喜び」「初登場の舞台がビッグブリッジ(橋の上)」である点や歌舞伎風のデザインから武蔵坊弁慶を連想させるキャラクターです。
そして、ギルガメッシュと縁の深い武器こそが歴代FFで最強の剣の一つとして登場するエクスカリバーです。この剣はアーサー王物語に登場する、アーサー王が持つとされる剣です。
ギルガメッシュが初登場したFFVでは、主人公達と戦うときに使ったエクスカリバーだと思っていた剣が偽物のエクスカリパーだったためにエクスデスから役立たずと呼ばれ次元の間へ送られてしまったり…
FFVIIIでは本物のエクスカリバーを使いこなす召喚獣として登場します。
情報量が多いのでまとめると、つまり、エクスカリバーを通してアーサー王物語と繋がりを持つギルガメッシュ、そのモチーフのひとつとなった武蔵坊弁慶の登場する平家物語の口上を引用するという超ハイコンテクストなイースターエッグを制作陣はこの一幕に組み込んだのではないでしょうか。
主人公アシュレイとクライヴの共通点
ベイグラントストーリーの主人公、アシュレイ・ライオットは物語の舞台であるバレンディア王国という国家の治安維持騎士団(VKP)に所属する「リスクブレイカー」と呼ばれるエリートエージェントであり、カルト教団メレンカンプの指導者シドニー・ロスタロットを捕捉する命を受け、シドニーを追って魔都レアモンデに足を踏み入れることとなります。
物語のなかで描かれるアシュレイの行く末とクライヴとの関連性を感じた点がいくつかあるので、後述します。
飛竜ワイバーンとの戦い
物語の冒頭、アシュレイはシドニーが召喚したワイバーンと戦うことになります。FFタクティクスの記事でもクライヴとワイバーンの関係性について触れましたが、ここでもワイバーンが登場してきました。
クライヴがワイバーンと名付けられた理由は、歴代の松野作品のプレイヤーであれば分かる小ネタとしてこの点にも関係づけられたものであるのかもしれません。
組織に暗殺の任を背負わされる存在
物語の終盤で、アシュレイはVKPに記憶を改ざんされており、元々は暗殺や破壊工作を任務とする特殊部隊の一員であったことが判明します。
クライヴも洗脳はされていないものの、ザンブレク皇国のベアラー兵として暗殺部隊でドミナントの暗殺任務を強いられており、アシュレイと同じく暗殺の任を背負わされることとなっています。
シドニーの狙いとアルテマの狙い
アシュレイのターゲットであるシドニーは物語を通して謎めいた存在であり、伝説上にしか存在しないはずの魔法の力を使い、アシュレイを何故か「試すかのよう」に、生かさず殺さず様々な試練を与えます。
その狙いは、アシュレイにレアモンデの持つ“魔”を感染させ、レアモンデの魔の力を継ぐ“後継者”に相応しい存在とすることでした。元々はレアモンデの力を使い、死の病から自身の父バルドルバ侯爵を救おうとしていたようですが、侯爵は自身の命よりも、寵愛するもう一人の息子ジョシュアをレアモンデの魔の力から守るためその力を消滅させることを望み、シドニーはそれを叶えようとしたのでした。
その目的や結末は異なりますが、目的達成のためアシュレイを迷宮の奥へ導くことで魔の力を感染させレアモンデの”後継者”としようとしていたシドニーと、ドミナント達の力をクライヴに喰らわせることで新たな世界の創世と一族の復活のための器(ミュトス)として完成させようと暗躍していたアルテマの企てに、僕は近しいものを感じました。
アシュレイとクライヴの最後
そして物語の最後、アシュレイはシドニーの目的を知ったうえで、シドニーから魔の力を奪い魔人となった聖印騎士団団長ギルデンスターンを倒し、レアモンデの"魔"の器としてその力を継承します。
その結果、レアモンデとその地に縛り付けられていた死者の魂は"魔"の力から解き放たれ、崩壊・消滅することとなります。
力を継承したアシュレイはシドニーの魂とともにバルドルバ侯爵のもとを訪れたのち、放浪者(VAGRANT)となり消息不明となります。
一方、クライヴはアルテマの狙いである新たな世界の創生(=現世の消滅)を防ぐため、最後のマザークリスタル オリジンでの最終決戦にてアルテマを倒し、現世の法則を変え得るほどの強力な理の力を継承、ロゴスと呼ばれる存在となります。
クライヴはその力を使い、アルテマの作ったベアラーやドミナント、クリスタルや魔法といった理を消滅させます。力の源であったアルテマを失い、オリジンは崩壊します。
力を使い果たしたクライヴは、流れ着いた岸辺でアルテマの作った理がなくなったことを確かめたのち、ジルへの言葉を残し消息不明となります。
結末はやや異なるものの、元凶である存在を滅ぼし、器としてその力を継承し消息を絶つというこのふたりの主人公の辿る最後にも共通性を感じました。
バイロン・バルドルバとジョシュア・バルドルバ
上述したシドニーの父バルドルバ侯爵のフルネームはアルドゥス・バイロン・バルドルバ。FFXVIに登場したクライヴの叔父バイロン・ロズフィールドと同じ名を持つキャラクターとなっています。
そして、物語の冒頭で父バルドルバ侯爵のもとからシドニーに誘拐されることとなる侯爵のもうひとりの息子の名はジョシュア・バルドルバ。バイロン・ロズフィールドとは親子ではなく叔父・甥の関係となっていますが、こちらもクライヴの弟であるジョシュア・ロズフィールドと同じ名を持つキャラクターとして登場しています。
前回の記事でもFFタクティクスとの繋がりをご紹介しましたが、これを踏まえるとジョシュアはベイグラントストーリーとも繋がりを持つキャラクターであり、やはり松野作品ファンにとっては関連性を強く感じさせるオマージュとなっています。
幻の新作とベイグラントストーリー2
ヴァリスゼアの記事でもご紹介していますが、FF14の立て直し以前に吉田直樹さん、高井さん、皆川さん、前廣さん、吉田明彦さんの5人で当時ベイグラントストーリーの系譜を継ぐ完全新作を企画されていたそうです。
結果としては新生前のFF14の炎上により開発を引き継ぐことになり当時は幻となってしまったそうで、のちに吉田直樹さんと松野さんの対談の記事でおふたりは下記のように語っています。
幻の新作の企画への名残惜しさを感じる吉田さんのコメントですが、リターン・トゥ・イヴァリースに続く松野さんとのコラボレーションとして、FFXIVのパッチ5.Xシリーズ「漆黒のヴィランズ」の武器強化コンテンツ「セイブ・ザ・クイーン」が制作され、そのパッチ5.25のエピソードにもともとベイグラントストーリーの続編のために松野さんが温めていた企画が組み込まれることとなり、この吉田さんの願いは一部叶うこととなったそうです。
このFFXIVへの実装に続いて、FFタクティクス同様に松野さんの系譜であるベイグラントストーリーの要素を、前廣さんをはじめとした制作陣はFFXVIの世界観設定や物語、キャラクター設定に込めたのではないかと思いました。
前廣さんはメディアのインタビューで下記のように語られています。
僕個人としては、ベイグラントストーリーをリアルタイムでプレイはしていたものの、プレイしてから時間が経っていたということもあり、初見でFFXVIをプレイした時はこれらのオマージュを全く気づかなかったのですが、非常に思い入れのある作品だったのでFFVと同様に考察を進めるなかで気づいたこの一連のオマージュは嬉しいものでした。
続いてはタクティクスオウガとの関連性についてとりまとめます。