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あなたにそれを書く資格はありますか?



私はこのタイトルを読むと、みぞおちの少し上の胸の奥がキュッと縮み上がるような息苦しさを感じます

ブログを書く人や雑誌・ウェブメディアなどに寄稿した経験がある人は、記事を書く際にこのタイトルの言葉と向き合うのではないでしょうか。

思えば、私もブログを書き始めてから6年間ずっと、そして、雑誌やウェブメディアなどで書かせていただくときもその都度、この言葉と向き合ってきました


私にこんなことを書く資格があるのだろうか?


例えば、本業以外の活動、いわゆる2枚目の名刺という概念を紹介したり、そのメリットなどをお伝えするとき。私よりも本業と2枚目の名刺を上手に両立できていて、そのどちらでも私より影響力を持つ公務員はきっといるはずです。

そうであるにも関わらず、月刊『ガバナンス』や『地方自治職員研修』で記事を書かせていただいたときは、書いているときも雑誌が発売されてからも、どこかで誰かが「あなたにこんなことを書く資格があるんですか?」と思っているに違いないという意識が頭の片隅を占めていました。

「家族も巻き込むようにすれば……」っていうけど、奥さんと娘さんたちが付き合ってくれてるだけで、あなたが何をしたんですか?

「2枚目の名刺の活動があるから、できるだけ残業しないように……」っていうけど、あなたはたまたま担当業務と職場の仲間に恵まれただけでしょ。

「2枚目の名刺で公務員のキャリアを……」っていうけど、あなたは人材開発の担当だった経験もなければ、専門の勉強もしてきていませんよね。


「自分でもできていないのに、専門家でもないのに、おまえが言うなよ


それはまるで呪いのよう。


書き手にとって、とても重い言葉です。

「おまえが言うなよ」「おまえに書く資格があるのかよ」と読み手に思われるかもしれない、そう考え始めると、本当に書きたいことが書けなくなることがあります。

私は、書き手がこの「おまいう」を気にして書く内容を制限してしまうこと「おまいう問題」と勝手に呼んでいます。


この「おまいう問題」の解決策は、「気にしないこと」です。


私やあなたが書いたものを読んで「おまいう」と思う読み手は、確かにいるかもしれません。でも、気にしないでいこー!


これはある側面では真理なのですが、「気にして書けない」という問題に対して「気にしない」という解決策を提示するのは、「運動を習慣化できない」という問題に「運動すればいいじゃん」とアドバイスするようなもの。


左右のこめかみを げんこつでグリグリされそうです。


私もこの「おまいう問題」に悩む当事者なので、グリグリされない解決策を私なりに考えた結論があります。

それは

それでも やっぱり あなた(私)にしか書けないものがある

ということです。


私が2枚目の名刺について書く場合を例に、説明しますね。

確かに、公務員の仕事で私より影響力を発揮して素晴らしい実績を持つ人はいるでしょう。
2枚目の名刺で私より地域に貢献している人もいるでしょう。
大学でパラレルキャリアなどについて研究したり、公務員の働き方について学んでいる人は、私より確かな論拠に支えられた考えをお持ちでしょう。

でも、それらは

仕事における影響力というモノサシ
地域への貢献度というモノサシ
専門性というモノサシ

という特定のモノサシのうえでの位置を比較しているにすぎません。


もちろん、あるテーマで書くときに、その人自身がそのテーマと関連するモノサシのうえで、他の人より優位な位置にいることは、その記事の価値にポジティブに影響します。


でも。

だからといって、それらの「強いモノサシ」のうえでの位置だけで、私たちや皆さんの書くものの価値が決まるわけではありません

私が公務員と2枚目の名刺の関係について書くとき、化学技師でありながら本来のキャリアからかけ離れた業務に携わって戸惑った経験だったり、内閣府/内閣官房に派遣されてキャリア官僚や地方から集まったほかの研修員に刺激を受けた経験だったり、娘たちと公園で一緒に虫捕りをした柔らかな時間の記憶だったり、たとえ文面に明確に現れなくても、書いたものは私が生きてきた様々な物語の影響を受けています


そんな風に自分自身の人生を背負って書くものは、似たようなテーマで書いているように見えても、指紋のように一人ひとり決して同じものにはならない、そう私は考えています。


だから

それでも やっぱり あなた(私)にしか書けないものがある

これはそういうことなのです。


繰り返しになりますが、「強いモノサシ」で優位な位置にいる人が書くものは、多くの人にとって説得力のあるものになります。そこには多くの人にとっての価値の大きさがあります。

しかし、「強いモノサシ」において大きい方の目盛りに立っていなくても、その人にしか書けないものなら、少ないかもしれないけれどそれに共感したり、そこから気付きを得たり、きっと価値を感じてくれる読み手がいます

読み手の立場で表現するなら、そういうことがもしかしたら「刺さった」ということなのかもしれません。


だから、

「おまいう問題」の解決策は、「気にしないこと」です。
私やあなたが書いたものを読んで「おまいう」と思う読み手は、確かにいるかもしれません。でも、気にしないでいこー!

これに代わる解決策は、

それでも やっぱり あなた(私)にしか書けないものがあるんだよ。
だから「モノサシ」での比較から降りましょう。

になります。



個人的な話題で恐縮ですが、『公務員の働き方デザイン』を書くにあたって、やはり「おまいう問題」と今一度向き合うことになりました。


しかもこの本は《自治体職員が楽しく働く秘訣を知るための本》というテーマです。こんなテーマで「おまいう問題」から逃れられるわけもなく、編集の方から企画をご相談いただいた2019年前半は、正直震える想いでした。

あなた、こんなこと書いてるけどさ……
 ・本当に仕事を楽しんでいるのかよ
 ・上司とうまくいかないときもあるんでしょ
 ・自分の知恵じゃなくて人から聞いた話でしょ
それでよくこんな本が出せるよね。

そんな「おまいう」の声が、原稿を書きながら毎日聞こえてきました


でも、原稿を半分ほど書き上げてみて、ある程度全体を俯瞰して読み直してみたときに、確かに「強いモノサシ」での優位性は小さいかもしれないけど、私にしか書けない空気感をまとった本なのかもしれないと思えたのです。


その頃から、私は、「モノサシ」での比較から降りることができました。
そして、そこからは書くのが怖くなくなりました。


「モノサシ」のうえに居ようが居まいが、「私は、私にしか書けないものしか書けない」、そして「それを価値あるものとして読んでくれる人がいる」と考えられるようになったからだと思います。


だから、どれだけ「おまいう」と思う人がいようとも、すべての「おまいう」を私は受け止めようと覚悟を決めました。

よっしゃこい!
受けて立つ!


だから、この記事を読んでくれている人が、もし本当は何かを書いて発信してみたいと思っているのに、この「おまいう問題」を前にして書き始められないなら、一度「モノサシ」から降りてみてほしいのです。

だって、あなたの書きたいというWillは、あなた自身にとってだけでなく、きっと私にも社会にも新しい価値をもたらせる資源なのだから。


もし降りるときに、誰かが手を添える必要があるなら、私も手を差し伸べる一人にならせてください。




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主に若手公務員を対象に「公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが、住民の幸せにつながる」という信念のもと、「自分の人生のハンドルは自分の手で握ろう」というメッセージを込めて書かせていただきました。

そのあたりのことは、こちらの記事でもお伝えしています。

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