![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166994459/rectangle_large_type_2_83b2038541c735908b6ef6ffcf090f2a.png?width=1200)
筒井康隆「旅のラゴス」
今回紹介する「旅のラゴス」は、先に紹介した「虚航船団」と同じ作家が書いたものとは到底信じられません。
それ程に作風、文体が違うのですが、それでいてどちらも文句の付けようがない位に素晴らしいのだから、困ってしまいます。
「旅のラゴス」は、主人公ラゴスが架空の世界を旅するファンタジーです。
旅先で様々な出来事が起こるのですが、それらが一々面白いのです。
ただ本を読んでいただけのラゴスがいつの間にか王に祭り上げられたエピソードなど、痛快極まりないです。
しかも、ラゴスは、王の地位(と妻子)をあっさりと放り出して、再び旅に出るのです。
波瀾万丈な展開に、読み手はグイグイと物語の世界に引き込まれます。
「旅のラゴス」は、そのように抜群に面白い物語が、連作短編という形式のもと、平易な言葉で描かれています。
ラゴスの一生涯を追った物語は、内容的には大長編として仕上げることも出来ただろうと思います。
ところが、筒井はそれを敢えて連作短編の形式で物語り、すっきりと仕上げました。
旅立ちの場面で突然の終幕を迎えるエンディングも、作品の雰囲気によく合っていると思います。
抜群に面白い物語を淡々と記すことで、このように優れた作品が完成したのだと感じます。
それにしても、「虚航船団」のような「怪作」を書く筒井が、これ程に綺麗なファンタジーを書くとは、本当に驚きです。
一つのスタイルを極めることは、とても大変なことのはずです。
ところが、筒井はこれ程に異なる文体を自由自在に使い分けるのですから、常人ではありません。
この人は「文体の魔術師」だと思います。
「虚航船団」は、はまる人ははまるものの、駄目な人は徹底的に駄目な、読み手を選ぶ作品だと思います。
一方「旅のラゴス」は、子供から大人まで誰にでもお勧め出来る、読み手を選ばない作品です。
ただし、「旅のラゴス」に筒井の本質が表れているかと言うと、何とも言えないところです。
作品ごとに作風が一変するところ、カメレオンのようなところにこそ、筒井康隆という人の本質はあるのかもしれません。