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あらためて、民俗芸能に触れてみて

芸能は、言ってしまうと遊びの分野だ。
なくても、生命の維持に絶対的致命傷にはならない、そういう意味で。

しかし、世界には多様な芸能が存在する。
観ている人々の心の琴線を弾き、時には言葉にならないメッセージを送る。


ご縁があって、京都の民俗芸能を拝見させていただく機会に恵まれた。

・宮津市の宮津おどり

・宇治市の宇治田楽

・京都市北区の原谷弁財天の太鼓、獅子舞

・福知山市の福知山音頭と踊り

・京丹波町の和知太鼓




どの演目が、ということではなく、ふと思ったことがある。

『あの動き、あの音に、何の意味があるのか』


もちろん、それぞれの音、動作が意味するものはあるのだろう。
気になったのは、その表現されていることや伝えたいことそのものではない。


そもそも、何故これらの芸が生まれたのか。

先人達が、舞の所作、唄声や言葉、太鼓や笛の音色を表現し始めたのは、何故だったのか。
そして、ここまで受け継がれてきたその熱量の根源は、何なのか。

それこそ、食べなければ死ぬ、子孫が絶えるという命や種の保存レベルの行為ではない。精神面の補助でしかないはずなのに。


拝見した芸に限ることではない。
地球上の様々な場所で生まれた民俗芸能すべてについて、である。





今回の芸能大会でテーマは、「夢」


各団体の「夢」についてのストーリーが語られ、実現したいという想いを込めた演技が披露される。
それが順次進んでゆき、最後は全団体が登場して夢への願いが競演する大円団のハーモニーが生まれる。
そんな構成でイベントは進行していった。

「夢」として語られる内容は、各団体の中の誰かが日常の中で向き合う具体的なものである。


『誰でも笑顔でいられる居場所を作りたい』

『若い者へと芸を受け継ぎつつ、
まだまだ一緒に舞っていたい』

『お父さんと一緒に太鼓を叩きたい』

『空手で日本一を目指しながら
地元の誇りを持って尺八も奏でたい』

『夫婦の出会いの場となった誇らしい太鼓を世界へ発信し、羽ばたかせたい』


────メモを取ってはいないので、朧げな記憶で端的にこう書いてしまうと熱情がいささか欠けて見えてしまうかもしれないが……
こんな意味のことが、もっと高尚な言葉で語られていた。





どの演者さんも、とてもいい表情をしておられた。

そして、ひとつひとつの発祥をよく知らずとも、どの芸能も間違いなくわたしの心に響き、届いた。

見ているだけで心が和み、
気がつけば笑顔で唄のかけ声を唱和したくなる踊り

思わず客席で体を動かしてしまい、
いつまでも身をまかせたくなるお囃子の拍子


腹の底まで轟き、
邪心をすべて力強くねじ伏せる雷鳴のごとき太鼓の音

見入ってしまうほどに、
くるくるひらひらと美しく返される手のひら

時には撫でるように、
時には切り刻むようにばちを振るい、
身体全体で魂を打ち込むかのような打撃


何故、それぞれの芸能が生まれたのか。

各地によって実情は当然異なる。

漁師を労うため

収穫を祝うため

邪気を払い神様に奉納するため

作業の中で生まれたかけ声

討伐の士気を鼓舞するため


────その土地の人々の営みや活動の中、何らかのきっかかで産声をあげた動き、言葉、音。
それは、人々の心や想い、つまり魂が、目に見える形になって世に現われたと言ってもいいのではないだろうか。
表現されたものが、観る者、共にある者の心を悦ばせ、癒し、時には支えや拠り所となる。
そうして、暮らしと時を重ねてゆくうちに、芸としての形が築かれ、磨かれ、引き継がれてきた。

その土地の根付いた魂として、守り、受け継いでゆく。
伝統を受け継ぐとはそういうことで、先人達あってこその現在であることを思えば、先人達の魂がこもった芸能もまた、敬意を払うべきで、絶やしてはならない大切なものだ。

そんな誇り高き伝統芸能を、もっと伝えたい、広げたい、未来へと繋げたい。
そんな夢に否定的な人は、どうかしている。



芸能とは遊びだと冒頭で書いた。
確かに、生物学的な生命活動に必須とまで言い切れないだろう。

しかし、人だからこそ、芸能は産み出せた。
人の根源の素晴らしい能力に関わるものである。

想いを乗せ表現できる道具は、間違いなく便利になり進化した。
だからこそ、魂の中から湧き出てくるものが何か、どう伝えるのか、安易なあまり暴走してはいないかと、人の心、人の在り方があらゆる局面で問われている。



もしも10年前のわたしが伝統芸能に触れても、上手だなあ、凄いなぁという程度の感想しか持てなかっただろう。

今、出会えて、気持ちがあらたまり、魂が磨かれたこともまた、非常に貴重な体験となった。


自分の土地を愛し、敬い、そして誇りを持って芸能を披露する。
そんな活動に貢献できる壇上の方々が、眩しかった。

讃頌と、今後の保存と益々のご発展への祈りをこめて、わたしなりに精いっぱいの盛大な拍手を送り続けた。




祇園甲部歌舞練場にて
(奥の建物は博物館)


会場の歌舞練場


桟敷席と花道


舞台の一部と天井


二階席と天井

 

スクリーンには
町のイメージ画
(終演後)








ここまで御覧くださった皆様、
貴重なお時間ありがとうございました!


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紫葉梢《Shiba-Kozue》
より良い日々の路銀にさせていただきます。いつかあなたにお還しします😌