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【ドラマで見る女性と時代】その1 お見合い相手は秘書課でGET『金曜日の恋人たちへ』(2000年)

 1985年に男女雇用機会均等法が成立し、それから10年以上が経過した頃。
 バリバリ働く男性中心の総合職と、内勤の穏やかな事務が主な女性中心の一般職に採用枠を分ける民間企業が多かった。
「 結婚したら、又は子供ができたら仕事はたぶん仕事は辞めるから 」
「 仕事は、お茶汲みとコピー取りと簡単な事務で充分だから 」
と、女性の希望や採用は一般職がまだまだ主流。
 バリキャリ思考の女性は、増えつつはあっても少数派。総合職で採用されても、現実には男尊女卑で理不尽な差別があちこちに残っていた。今の時代なら完全にセクハラと言われる仕打ちを受けるのは珍しくないし、逆に女であることを武器に出世を図る強者もいた。


 このドラマには、そんな時代に生きる20代後半の女性が登場する。

 まどか(藤原紀香さん)と香織(水野真紀さん)。二人は親友同士だ。

 まどかは、仕事熱心で負けず嫌い、チャレンジ精神旺盛なタイプ。
 会社の人員削減により秘書課に身を置くことになるが、もともとは営業の部署で仕事に精を出し走り回っていた。   
 彼女の能力を認め、好意も抱く男性・岸本(伊原剛志さん)から、一緒にイタリアで新しい事業を展開しようと誘いを受ける。


 一方の香織は、当初から秘書課の配属。
 秘書課の業務は、会社の重役達のお茶出しやスケジュール管理など。社葬があれば、課の女性社員達が強い責任感と使命感を持って取り仕切る。表には出ず内助の功に徹し、自分のお付きの重役に喜んでもらうのがやりがいの部署だ。
 そして、秘書課にいてイイ男、つまり昔でいう「 三高さんこう 」、高学歴・高収入・高身長の男をつかまえて独身とおさらばするのが女性の幸せな花道として描かれている。

 この二人のワークスタイルは、当時の女性達を対比的に抜粋したようなものだ。

 ドラマのメインテーマは、この親友同士が田辺春樹(高橋克典さん)という一人の影ある男をめぐり……というラブストーリー。
 まどかと田辺が惹かれ合いつつも、過去に田辺と関係があった香織も彼への気持ちを忘れられず、ことあるごとに「 ハルキぃ~ 」と哀し気に眼を潤ませながらまとわりつく。その姿に、親友思いのまどかは胸を痛め、自分の方が身を引こうとする。
 ドラマを最後まで観ていないので具体的な結末はわからない。ネットのネタバレによれば、最後は香織が身を引き田辺とまどかが結ばれる形に収まるらしい。


 ここで書きたいのは、ラブストーリーの内容より、この二人の様相を先日の再放送で見て、
「 古っ!! 」
となった部分について。

 そりゃあ20年前のドラマだから、あちこちに今の時代にそぐわない箇所があるのは仕方ないけど、恋の行方よりこの女性達の発言の方が気にかかって仕方ない。

 初回で、こんな会話が繰り広げられた。


香織
「仕事にばっかり夢中になってると、すぐにババアよ?
まどかだって、一生結婚しないつもりじゃないんでしょ?」

まどか
「ん-まぁそりゃそうだけど、私は仕事ができなくなったからって、結婚に逃げ込むのは嫌なの」

香織
「そんなこと言ってないで、結婚も、仕事も、効率よく器用にこなせばいいじゃない」

まどか
「そういうふうにできない性分なの!」

香織
「……ジャーン!(と得意気にお見合い写真を取り出す)」

まどか
「何それ?」

香織
「私なんてねぇ、もう見合いの相手、ゲットしたわよ!」

まどか
「早い!相変わらず!」

香織
「当然でしょ!何のために秘書課で働いてんのよ!
みてみて、東都とうと銀行の頭取の息子!」

まどか
「え、ピカピカの玉の輿!?」」

香織
「これで、独身ともお別れよ!(気合いを入れて両手を握り締めガッツポーズ)」

まどか
「……気合入ってるね(と引き気味)」

香織
「当り前でしょ!30過ぎたらもう条件なんてぐーっと落ちちゃうんだから!
こんなにいい男紹介してもらえるの、もう最後かもしれない」

まどか
「人生厳しいわね~……ん、ちょっと見せて?(お見合い写真を開く)
はぁ~ん、結構いい男じゃない!」

香織
「でしょぉ?頭取の息子(佐々木蔵之介さん)にしては結構マシな顔立ちでしょ?」

まどか
「うん、イケてるイケてる」

第一話より



 ─────そうなのだ。
 仕事を通じてイイ男を探す。30過ぎたら相手を見つけにくく、あげくの果てにはババア扱い。

 この当時、ドラマの中で30歳手前と思われる二人のお姉様方よりわたしは年下だけど、この展開は違和感なく理解できる。
 これが、今から約20年前の「 常識的 」な感覚なのだ。

 「 結婚、出産はなんとなくだけど30歳までに 」との価値観が、暗黙のうちに社会の中で合致していた。
 30歳になると「三十路みそじ」と揶揄するように陰で言われ、特に女性は独身でいると、周囲からどことなく痛々しい目で見られがち。
 三十路になれば恋愛も結婚も圧倒的に不利になる、という軽い恐怖にも似た先行イメージが、二十代以下の者達の中に間違いなく存在していた。

 
 実際にはそんなことはなく、30を過ぎてから結婚する友達も何人かいた。

 ただ、周囲の女性の結婚ピークは、わたしが26歳の時。冗談でも盛っているわけでもなく、10月から11月にかけての土日はほぼ毎週、同年代の誰かしらの結婚披露宴やら二次会のパーティーやらに出かけていた。ご祝儀や二次会の参加費用やお祝いのプレゼント代で月に十万近くがふっとんだ。

 また、当時確か33、34歳で結婚を決めた職場の先輩は、「 相手も同じくらいの歳だし、お互いもう歳だから結婚しようかという話になった 」とつぶやいていた。それくらいで、「 もう歳だし 」となるのだ。

 
 そんな時代から約20年。

 相手がいれば結婚してもいいかなとは何となく思うし、出会いたいのに出会えないという今時の子達。
 年齢を気にしながら職場でゲットすることに精を出さなくても、マッチングアプリというツールがある。
 どの程度うまくいくものかわからないけど、最初からある程度価値観が同じ人が見つかりそうなのは羨ましい。
 わたしが今の時代の10代、20代なら、絶対ダウンロードして「 HSPを理解してくれる人 」って条件に入れて使ってみる。何なら、一緒に庭を作るゲームとかも絶対やってる。

 でも、「 結婚は30歳までに 」が社会の共通認識とは言い難い。
 晩婚化のこのご時世、30代後半になり慌てて本格的な婚活を始める女子達を見れば、今は40歳が暗黙のリミット。

 また、「 結婚と仕事と効率よくこなせばいい 」という台詞。
 結婚しても仕事を続けるなら、確かに効率よくこなすに越したことはない。
 ただし、女性だけが効率よく両立してまで結婚しなければならない世の中ではなくなった。
 結婚しても仕事は辞めたくない、または経済的に辞められない。だから、家事をしてくれる、あるいはちゃんと分担してくれる相手の方がいい。


 そして、そもそも、結婚をしたくない子達もいる。

 先週の土曜日、銀座のカフェにいた時のこと。
 聞き耳を立てたのではないけど、隣の席の女子(おそらく20代)二人の会話が耳に入って来た。

 一方の子が語る。

「 結婚したくはないけど、今の彼氏とはずっと一緒にいたいんだよね 」


 彼氏がいる子だって、ずっと一緒にいたいから結婚する、とはならない。
 一緒にはいたいけど、結婚はしたくないのだ。


 また、別の機会だけど、「 仕事を頑張るつもりだから、結婚も出産もする気はありません 」、ときっぱり話す、同じく20代の女子に遭遇したこともある。




 大人の女性の多くが専業主婦だった頃からこのドラマまで、約20年。

 そして、ドラマからさらに約20年の今。

 政府がどうにかして若者に結婚・出産してもらわねばと躍起になっている。
 その結果が表れているはずのこの先約20年、女性達は果たしてどんな姿で生きてゆくのだろうか。


 


 





 
 





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紫葉梢《Shiba-Kozue》
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