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そこで待ってて、迎えに行くから

………やっぱり。
あの場所に、
あなたの姿が見えなくなっていたら。

絶対後悔、一生後悔。

───── 一度そんな想像をしたら
居ても立ってもいられなくて。

ノーメイクやむ無し、
ちょうどいい上着を探す間も惜しんで、寒空の下へと何も羽織らず飛び出した。


昨日はゆっくり歩いて行った。
今日は自転車すっ飛ばす。

待って、待ってて、
まだそこにいて。
お願い、
昨日出会ったばっかりだけど。



一日中、考えていた。

ついさっきまで、

《あんなに素敵なあなたに、
わたしは釣り合わない》

でも、今は違う。

《あなたに似合う、
わたしになる、
なりたいわたしになるんだ》

って、悲鳴のように心が叫ぶ。


待って、待ってて、
まだそこにいて。
誰のものにもならないで。






─────という気分で、昨日見かけたコートを買いに走りました。

散歩で通りかかった、
前から気になっていたセレクトショップ。
敷居が高くて入りにくい。
店内に見えるコートが気になりつつも、いっつも素通りばっかりでした。

それが、昨日、ふっと思い切って入ってみた。
するとすると、中にいたのは、小柄で細身で美人でチャーミングな笑顔の、何とも可愛らしいマダムな店長。


コートが気になってて、と話すと

「どうぞどうぞ、羽織ってみるだけでも」
「他のお洋服もいろいろ見てね」
「遊びに来るだけのお客さんもいっぱいいるのよ」
「もともとは青山でお店出してたの」

と気さくにたくさんお話してくれる。
そりゃあお仕事だし、話術に年季もお入りでしょうけど、こちらが楽しくなっちゃう接客スタイル。
それに、ブラウンの木材と生成り色を基調とした素敵すぎるシェルフやハンガーラックがわたし好みで、ショップのインテリアも居心地良すぎた。

魂と土地のそりが合わず、うん十年住んでても馴染めない街だけど、こうしてたまにマイパワースポットみたいな
ショップや店員さんに出会えるとすごく嬉しい。
魂がにこにこするのがわかる。


そうしてマダムと遊んでいながら目に入ってしまった、最初に気になってた物とは別の、あるコート。

残り、最後の1点。
95000円のお品を、
35000円までディスカウント。

もうね、二度と会えないようなデザインで。
袖のフレア具合も、可愛いシルバーのボタンも、高めに絞った腰回りも。
綺麗なベージュで、春先まで使えそう。


試着したら、肩のラインがすごく綺麗に決まって、くるりと回るとひらりと裾が躍る。
自分で言うけど、すらりとカッコいいわたしが出来上がった。
……もうすぐ京都に行く日なんだけど、これ着て京都を歩きたくて堪んなくなった。

『ヤバいのに出会っちまった』
本能がささやいた。

まぁ、でも、ちょっと変わったデザインだから、普段使いは微妙っちゃ微妙。
それに、ウールで軽くてあったかいけど、冬の京都にこれどうなん?寒そうじゃない?
って気もしなくもなくて。


悩む前に買っちまえ。
悩むから、買う・買わないが余計わからなくなる。

そういうのが風の時代の開運行動かもしれない。


とはいえ、お買い得とはいえ、
勢いで買う値段じゃないよな…
と着回しを熟考したりして。

結局、買うかどうかはお持ち帰りの案件となった。

ショップのマダムお姉さまも、あれこれイイ事ばかり言って強引に売ることもなく、「よ~く考えてね!」と言ってくれた。



で、今日になり。
もちろん朝からあのコートが頭から離れない。

クローゼットを整頓しつつ、

『どうせ買うなら、やっぱりもっと無難なデザインの方が……』

『京都以外にアレ着て出かけるようなところもないし……』

『服は高級でおしゃれだけど、他の服が野暮ったいからアンバランスかも』

『京都はこないだ買ったダウンでよくない?
あったかそうだし』

とぐるぐるぐるぐる考えていた。

売り切れてしまった場面を想像してみた。
以前から、買い物に悩むとよくやる手法。

売り切れなどで手に入らなくなったら、わたしはどう思うのか?と。

まあ別に、買わなくてもいいか……と
ボルテージが下がる時もあれば、
もし売れ残っていたらご縁があるってことで買おう!と感じることも。


それが、あのコートは違った。
何だか落ち着かなくなって、
『この用事を片付けてから買いに行こう!』
じゃなくて、
『売り切れたら嫌だ!』という気持ちでいっぱいになった。

着回しなんてどうにかなる、
っていうかどうにかする。
量産店のバーゲン品の誰もが着ているコートじゃなくて、
アレを着たかっこいいわたしで京都を歩きたい。
着ていく所がないんじゃなくて、
アレを着たわたしに似合う所にたくさん行こう。

こんなふうに思うのは、
完全に欲しいってこと。
心の底から欲しいのだ。


そう気が付いて、自転車を走らせてショップに向かった。

お店に入るなり、
「コート買いに来ました!」
と勇んでマダムに告げた。

彼女はにっこり笑った。

「良かったわ。
昨日のあの後、別の方がいらしてね、
すごく気に入ったけど一晩悩んでくるわって帰っていったのよ」


そうなのか。
ああ、………………良かった。


そうして手に入れたコートは、
わたしの部屋にかかっている。

────嬉しい。

このコートを見ているだけで、
魂がにこにこする。

しかも、京都で着る予定のワンピに合わせたらぴったりだ。

京都ももちろん楽しみだけど、
このコートを着るのもすごく楽しみ。




大寒の空
……というほど、
今年は寒くないけど……





ここまで御覧くださった皆様、
貴重なお時間ありがとうございました!



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紫葉梢《Shiba-Kozue》
より良い日々の路銀にさせていただきます。いつかあなたにお還しします😌