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『適当』ラブコメ在宅業務

「先輩、在宅業務苦手って言ってたじゃないですか」
「はい。誘惑が多すぎて直ぐサボっちゃいますね」
「ラブコメアニメを垂れ流しにするの、おススメですよ」
 
《香川さん流『適当』ラブコメ在宅業務》
スマホに『適当な』ラブコメアニメを垂れ流しにする。これでスマホの自由を封じる。ラブコメアニメにはテンプレートがあり、展開の予測が容易、故に画面に注視する必要が無い。各々が契約してるVODから無作為に垂れ流すのがベスト。娯楽要素の強いアニメというカルチャーに触れサボり欲求を満たしつつ、まるでサイゼリヤにいるような集中度合いで業務に集中できる。香川さんが編み出したながらカルチャーの極致。らしい。
 
「『適当な』が大事ですよ。『凝った』やつだと気になっちゃうんで」
「その判断はどうすれば?」
「低評価、キャラが大体同じ顔、知らない声優、この三つを押さえておけば大丈夫です。タイトルに格助詞が二つ以上使われていたら間違いないです」
 
私は基本作品の冒頭から終盤まで見逃したくないタイプだ。ドラマの第一話を見逃したら二話以降見ないし、漫画は必ず一巻から揃える。折角だけど、向いてない…そう思った。
 
「先輩ラブコメアニメとか観たことあります?」
「ハチクロとか、のだめとか…ぐらいですかね」
「多分私の言う『適当な』ラブコメアニメって、先輩放っておくと一生観ないと思うんです。私の言う適当は『手抜き』って意味じゃなくて『丁度いい』って意味です。適当なアニメは適当な前提の上で適当に視聴する、それが適当なアニメの適当な視聴方法だと私は思います」
「確かに…」
 
途中、勢いに丸め込まれた気がする。「でも『適当』って、才能が無い人には、とても難しいことなんです」と言いたかったが、今その言葉を優しげに微笑む香川さんに伝えるのは、適当じゃない気がした。

私は適当な笑顔で香川さんにお礼を言った。私の適当が香川さんにとっても適当であったらいいのに。人と人の適当が重なるのは、とても幸福なことだと思う。そう思いながら、三時間悩んだ末に『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を観始めた。

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