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【小説】あと21日で新型コロナウイルスは終わります。

~一難去って、また一難?~

⚫⚫さんとは1週間後に妊婦健診の約束をしていたが、またいつ音信不通になったり、行方不明になったりするかわからない。

ほんとうなら毎日電話で所在確認をとりたいくらいだが、それだと色々疑われてしまう。

保健センターとは連絡を密にしていたが、⚫⚫さんとの連絡は今は必要最小限に留めるべきというのが、院長を始め⚫⚫クリニックの総意であった。

週の中程、検査結果が検査会社から届いた。ここで異常が見つかり、普通の母体管理や普通分娩が望めないとなると、さらに話が複雑になる。

“異常なし”に看護師たちは安堵しつつ、院長にもその結果を報告した。



トゥルルルル~♪

外来診療中、外線が鳴った。受付スタッフが電話をとり、少しして保留にすると、少し慌てた感じで看護師に声をかけた。

「今、内診中!」

声を掛けられた看護師はその受付スタッフをキッと睨みながら、冷たく言い放ったが、すぐに受付スタッフが見せたメモ紙に目をやった。

「ちょっと待ってて。」

その看護師もギリギリの判断を迫られた。

目の前に、内診台で両脚を開き、下半身を剥き出しにした別の患者さんがいて、しかも、医師が診察室中である。この場を離れることは絶対に許されない。(注)

「⬛⬛さん、この場にいるだけでいいから、いて!」

その看護師は、その受付スタッフに強い口調でそう指示した。気圧された受付スタッフは、

「は、はい!」

と返事をしたものの、内診を見るのは生まれて初めてでショックを受けていた。

「先生、×⚫☆♭の件で電話に出ます。受付スタッフが内診を見ています。」

看護師はドイツ語を使い、内診中の患者さんに⚫⚫さんのことだと知られないようにした。

その看護師は素早く電話の子機をとった。

「お待たせしました。⚫⚫さん? どうしたの?」

その看護師は、わざとゆっくりめに話した。

「えっ⁉ えっ⁉ そうなの? ちょっと待って! 院長に変わるから。今、他の患者さんの内診中なんだ。このまま、待てる? そうだったよね? 電話代かかるよね? 一旦切ってすぐこちらから掛けるから。」

看護師は電話を切ると、間髪入れずに⚫⚫さんに電話した。⚫⚫さんが電話に出ると、看護師は時間稼ぎをするために、「最近の体調はどうか?」「今日、検査結果が出たけれども、電話ではなく、次回来院時に伝える。」などと話し続けた。

「どうした?」

内診が終わり院長が話しかけてきた。内診を受けていた患者さんが内診台をおり、着替え終わるまでまだ少し時間があった。

「⚫⚫さんなんですけど、お産先を▲▲助産院にしたいって。」

「えっ⁉」

幾多の波も嵐も乗り越えてきた院長も絶句した。

ここで、“助産院”について軽く説明しよう。その名の通り、基本、助産師だけでお産する医療機関である。

【助産院のメリット】
✔一般的にお産費用が安い
✔一般的に産前産後の母乳指導が手厚い
✔一般的に育児の相談に乗ってくれる
など
【助産院のデメリット】
✅普通分娩の最中に帝王切開などの緊急手術が必要になった場合、病院に緊急搬送しなければならない
✅ケースワーカーなど福祉関係者が常駐していないのがほとんどである
など

恐らく⚫⚫さんは、出産費用が安く済む▲▲助産院を見つけ出してきたのであろう。

⚫⚫クリニックは、相手先の医療機関の紹介状を⚫⚫さんに渡して、あとは相手先の医療機関にすべて一任すればいいだけであったが、その相手が助産院になると、助産師たちが不憫でならなかった。

⚫⚫さんは、無事に子どもを産み育てるだけでなく、我々は上の子二人の所在も確認しなければならない。そのためにはケースワーカーだけでなく、場合によっては警察が介入することもあるだろう。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと21日。

これは、フィクションです。

(注) 内診中に患者と医師が二人っきりになったとき、その患者が「医師から性的なことをされた」とあとで訴えた場合、第三者となる目撃者がいないと、その患者の訴えが正しい場合、患者が不利になり、その患者の訴えが虚偽または勘違いの場合、医師が不利になるため。

◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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