最近は小説も書かずに歌詞の和訳ばかりしています。
マック・デマルコ『Heart to Heart』の歌詞がとてもよく訳せたので、これはぜひこのテの音楽好きに読んでもらいたいと思い、私は音楽関連の情報発信をしているとあるレコード屋さんに売り込んだのです。そのレコード屋さんは自薦・他薦のインディーズバンドを募集していました。
ある知人にその話をすると、いきなりアピールしても何だこの人となって相手にされないから、おすすめのバンドを紹介しつつ、自分のことをさりげなく売り込んだらいい、その方が自然だから、とアドバイスをくれました。
だので、私は頃合いのバンドを引っ提げてメッセージを送ってみたのです。
直後、再びその知人に話しかけました。
「バンドの紹介募集って書いてあるのに、自分の文章紹介しろって言うの変だよねえ。おかしい人と思われて引かれちゃったかなあ」
「大丈夫だよ、音楽やってる人なんて頭のおかしい人が多いから、レコ屋も変な人から来る変な連絡に慣れてるよ」
という言葉に少しほっとするのでした。
私の書いたメールの文面は次のとおりです。
送ってみての結果はどうかと言われれば、もちろん無風です。何の頼りもありません。
これで大笑いしたのは先ほどの知人だけでした。
「バンドの紹介はそこそこに、とてもまとまった丁寧な文面なのに、常識人ぽいのに、読み進めると自分のことを褒め上げて、紹介してくれと言っている。しかも音楽でもないし。自己紹介のリンク先も変だし。こんなのまともに読んだら一発で変な人だって分かるよ。しいふう味(み)がすごいねえ。いやあ、本当に笑える。どうして君はこんなことしちゃうんだろうねえ。これからも君はこんなことをしでかすんだろうね。そう考えると楽しくてわくわくしてきたよ」
「何の反応もない片隅でね。このメール、すごくおもしろいのに。一見マトモそうで、よく読むととてもおかしいことが分かるようになってる。今回も無視されるんだよね。もう慣れてるけどさあ。どこに行ってもこんな扱い」
「この訳の素晴らしさを分かってほしいんだけどなあ」
「私もそう思う」
「歌詞和訳を本気でしてる人ってあんまりいないよね。自分も今まで誰かの曲の歌詞の訳を見る時って、情報として見るってのはあるけど。訳してる人はたまにいるよね。でもシーンがないんだよね。同じようなことをして競い合うとか、それを発信して応援してくれる人とか、そういうのがないと馴染みのないものって、なかなか盛り上がって行かないよね」
「シーンかあ。シーン作るの面倒くさいなあ」
「でもパンクだって最初はそうだったんだよ。一人の人から始まって、何人もの人が集まって大きな動きになったんだ」
私の地中生活はまだまだ長そう、這い上がれる感じがしない。