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今、角川春樹と同じ匂いがする人 2022年2月4日

 早くも今年のベストワン書籍として紹介します。その本は
「最後の角川春樹」

 実際は、作年11月の刊行なので
 2021年のベストワンとすべきですが
 わたしが読み終えたのが先週。

 久しぶりに、読み終えたくない、ずっと読み続けていたい
 と思いながらページをめくっていました。

 映画史家の伊藤彰彦さんが
 角川春樹にのべ40時間にわたりインタビューし
 春樹の少年時代から80歳の現在までを
 詳細に追った評伝が本書です。

 学者肌の父親が興した学術書中心の角川書店を
 文庫と映画のメディアミックスという手法で
 センセーショナルに展開し、
 出版や映画業界の常識をひっくり返していった暴れん坊ぶりが
 詳細な資料と角川春樹の証言とともに繰り広げられ
 飽きることがありません。

 角川春樹は
 経営者、編集者、プロデューサー、映画監督、俳人
 という多彩な肩書を持つとともに、収監も経験。

 収監を経験した経営者という点で
 角川春樹と堀江貴文は共通していますが
 ほりえもんになくて角川春樹にあるものが
「詩情」です。

 経営者としてのセンスと能力に加え
 ロマンとか、感傷とか
 繊細で柔らかい感性で捉えた事象を言葉で表現する
 詩情を併せ持つ希少な経営者が角川春樹
 だと、わたしは思います
(収監中の彼の句は、特に胸に響くものがあります)。

 でも、経営者である以上に根っからの編集者
(本書でも、今村翔吾さんの直木賞受賞を言い当てていて
 震えました)。

「リスクがあることはわかっていましたが、
 世に知られていない才能を発掘し、その人が思ってもみなかった
 企画を提案し、新境地を拓かせる──
 それが編集者やプロデューサーの仕事の醍醐味なんですよ。
 それに既成の日本映画をブッ壊すには新しい才能を結集するしか
 ないと思っていました」

「テレビ局の作る映画は、オンエアしやすいように
 毒が抜かれています。私は毒にも薬にもならないものは作らない。
 それに、テレビ局は少しでもリスクを減らすために、
 ベストセラーや視聴率が高かったテレビドラマの映画化ばかりを
 企画しています。
『どうしても伝えたいテーマ』や、『是が非でも映画にしてみたい
 素材』があって、そのうえで『それをどう当てるのか』を考える
 私の手法とはまったく違っています」

 かつての角川書店の成功は
 冷静なマーケティングの裏付けがあり
「業界を変える」「本売る」という角川春樹の
 熱くぶれない意思の結果ということがよく分かりました。

 今、角川春樹と同じ匂いがするのが
 日本ハムの新庄剛志監督です。

 派手で突飛な言動がクローズアップされがちですが
「業界を変える」という強い意志と考え抜かれた手法
 野球という自分の専門分野に対する高い知見の裏付けに
 70年~80年代の角川春樹と同じものを感じます。

 本書について書きたいことはまだまだいっぱいありますが
 長くなりすぎるのでこの辺で。

 角川映画と角川文庫が一世を風靡した時代に少年少女だった
 わたしと同世代の読者には、懐かしくも刺激的な一冊。
 奇天烈な男の栄光と挫折を、ぜひ読んでみてください。


 伊藤 彰彦 著「最後の角川春樹 」

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 面白い本というのは広がりがあります。
 本書をきっかけに
「黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄」
 を読み返し、

 本書にあった
「向日葵と黒い帽子─向田邦子の青春・銀座・映画・恋」
 をメルカリで探し当てて読みました。

 映画「犬神家の一族」
 も久しぶりに観返したのですが
 角川春樹自身が刑事役で出演していて、思わず笑ってしまった。

#読書感想文

(2022年2月4日 VOL.3959 メールマガジン あとがきより)


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