自然派コスメができるまで(11)懐深いイネ科の大御所感、インド原産ハーブのレモングラス
コロナ・サバイバルからニューノーマル時代へ、新時代の価値観を反映した製品づくりを目指し、未来にふさわしいと思える製品開発に邁進しております、Shield72°プロダクツチーム、開発担当の白木海月-shirokikurage-と申します。
わたしたちが手掛ける製品の第1弾ナチュラル・スキンケア。昨年10月にデビューしたオーガニックアロマ スキンケアシリーズ Shield72°の開発ストーリーを綴っています。
五角形の銀の盾、ロゴマークに込めた思いを香りで表現するべく、ふたつのShieldをイメージした、やさしい白と、さっぱりの黒が完成しました。
テーマは「シュッと魔法のひと吹き、透明なShieldでまもるような」。
安心感と清浄感につつまれるやさしい白の香りはローズマリー、ゼラニウム、オレンジスウィートのブレンドで、即効浄化力で広がりと解放感をもたらす黒の香りはローズマリー、ラベンダー、レモングラスで、それぞれ製品化となりました。
合成香料は一切使用せずオーガニックアロマ100%のナチュラルスキンケア、精油の底力を存分に堪能できる香りの化粧水と乳液です。
さて、今回は調香シリーズ最終話。
前記事までに紹介したローズマリー、ゼラニウム、スウィートオレンジ、ラベンダーにつづき、トリを飾る最後の精油、レモングラスのものがたりです。
レモングラスは、すでにマッチング済みの黒の香りブレンド、ローズマリーとラベンダーに合わせる形で、配合比率を考えました。
が、しかし、このレモングラスに決定するまでが、試作をかさねた思索の連続で、かなりの時間を費やすことになったのです。
というのもラベンダーとローズマリー、この組み合わせはマッチングなんて言葉では足りないくらい、相性抜群なのです。
もうふたりだけの世界で完成されちゃってるというか、入りこむ隙がないというか、この世界観を崩さずに仲間を増やすとしたら、相当な手練れ、もしくは懐の深さが必要で、明確に個性は際立ってるけど、ちゃんとマリアージュしてくれる柔軟性が必要です。
ローズマリーとラベンダーの組み合わせときたら、トマトにバジルがいるように、はちみつにシナモンがいるように、梅に鶯、松に鶴、唐獅子牡丹、竹に虎。まさに王道のなかの王道マッチングです。
もしも王道ランキングがあったら、まちがいなく上位に食い込むであろう組み合わせ。
道産子チームメンバーがはじめて体験した大阪の猛暑は、ローズマリーウォータにラベンダー精油を入れたスプレーで乗りきりました。
生まれて初めて味わう、汗腺から噴き出す自分の汗の量におののき、「自分の汗で溺れるんちゃうかー」と、覚えたてのへたくそ関西弁はろれつがまわらず、目はうつろになり、もう…息をするだけで、精いっぱいです…となったときに、ラベンダー入りのローズマリー水をシュッとひとふき。
爽やかな芳香で視界がひろがり、すぅっと頭も胸も軽くなり、と同時にべたべたの皮膚にまとわりついていた大量の汗による重い鎖を断ち切ってくれるような解放感。
「最上やねー」
「最上級やねー」
このあたりから、ローズマリーとラベンダーの組み合わせを最上級リリースとか、解法魔法最上級レシピなんて呼ぶようになったかなぁ、と記憶しています。
「解放魔法レシピでいくなら、組み合わせはミント一択でしょう」
当初はそんな意見が圧倒的で、はじまりはローズマリー、ラベンダー、ミントの組み合わせで配合比率を考え、調香をくりかえしていました。
なぜ解放魔法ならミント一択!と考えたのか、そのあたりの背景は【ハーブ天然ものがたり】ミントの記事に詳しく説明しております、所感をまじえたミントのものがたり。
女神と妖精と魔女のドリームチームによる解放魔法のお話です。
だがしかし。
ローズマリーとラベンダーのリリース感と、ミントのリリース感は、どうにもうまいこと歯車が合いません。
どちらも素晴らしい解放魔力をもっているのに、組み合わせるとマリアージュというより、世界頂上決戦リリース・マッチみたいになってしまうのです。
配合をいろいろ工夫したものの、片方のの香りが主張すると、もう片方の魅力が損なわれてしまう。
確かにマッチングのマッチは組み合わせのマッチと、競合のマッチがありますし、マッチ・プレイなら同じ力量で面白い対戦になるけど、双方歩み寄って協働する組み合わせではないな、と。
うーん、どうしたもんか。
「ミントが所属する解放魔法のドリームチームから、別のメンバー出してみたらどうだろうか」
「ドリームチームのほかのメンバーは、大地と豊穣の女神デメテルと、大魔女ヘカテ、それに冥府の女王ペルセポネだよね」
「ヘカテならカモミール、、ペルセポネはザクロかなぁ」
「どちらもリリースという感じではないね」
「女神デメテルは農業の神様でもあるよね。稲穂だったか麦だったか、イネ科の植物を抱く女神アストライアーと習合されることもある、イネ科ハーブからなにか探してみるのはどう?」
「香りのあるイネ科は数えるほどしかないね。レモングラス、シトロネラ、パルマローザ、ベチバーと…」
「イネ科って面白いかも。人類の歴史はイネ科の歴史といっても過言ではないくらい、人と密接なかかわりがある植物だし、デメテルと習合傾向にあるアストライヤーは人類救済のために最後まで地上に残ったお話で有名な人類寄りの神様だったよね」
「さらにつけ加えておくと、女神デメテルは古い神様のひとりで、大御所だけあってメドゥーサと同一神だったという説もあるね。海神ポセイドンとの間に羽をもつ馬、ペガサスを生んだお話もかぶってる」
「エジプト神話の女神イシスも、デメテルの象徴である麦の穂や松明をもつ姿で表現されてるよね」
「中世ヨーロッパ時代に、魔女の元祖となったイシス神ね」
「名誉あるレッテルですよ。大魔女ヘカテだって、女神デメテルのもうひとつの側面て見方もあるし」
「魔女の元祖言うたら、リリスだって外せないよね」
「そう!わたしたちが解放といわず、あえてリリースと言っちゃうのは、リリス・リスペクトがどっかにあるからだしw」
そんなこんなで盛り上がり、イネ科ハーブからレモングラスが抜擢され、ローズマリーとラベンダーの最上リリース、解放魔法のレシピはさらに強力に、香り豊かになりました。
イネ科植物は、さすがに大御所女神の象徴とされているだけあって懐が深く、なんでも抱きかかえてしまう圧倒的存在感を醸しつつ、それでいて裏方に徹する奥ゆかしさも感じられます。
ローズマリーとラベンダーの組み合わせに対して頂上決戦とはならず、香りのグラデーションを楽しめる配合比率を作ることができました。
レモングラスはインド原産で、レモンより鮮烈なレモン様の香りをもっています。ハーブティやトムヤムクンの香りでおなじみの方も多いと思います。
レモングラスにはシトラールという成分が多く入っており、消毒、抗菌、虫よけにと重宝します。
リグ・ヴェーダ讃歌は紀元前1000年頃のインドから、口頭伝承で受け継がれてきた神々へ捧げる歌で、文庫の讃歌集が出ています。
気軽に手に取れる文庫版ですが、その中身、ざっくり3200年前からの継承とか、あらためて考えるとすごいことですよね。
薬草についての讃歌も多々収録されており、ガンジス川流域にアーリア人が移住してきてバラモン教が創られていった頃、リグ・ヴェーダによって「薬草の効力めっちゃすごいよね。神様登場する前から地球にあるし、神々の飲みものだってソーマという薬草から作られるんだよ」的なことが伝承されてきました。
ヴェーダは知識という意味で、自然現象や自然そのものを神々に見立てて崇敬の念を歌にしたものですが、いつのころからか、信仰心や宗教といったものは、おしなべて社会運営の道具として利用されるようになりました(もちろんインドに限ったことではなく、世界中で同じように信仰心を利用して社会を運営しています)。
紀元前1000年頃といえば、ちょうど鉄の道具が普及するようになり、小麦や米の普及が広がって、社会が大きく変化しはじめた時代でもあります。
牧畜から農業へ、流浪の民は定住民族へ。
農業によって生産物がふえることで商売や工業も盛んになり、新しい職業も次々と登場します。
社会をひとつの有機体として発展させるために、人々を生まれ育ちで階級分けし、司祭はバラモン、王族はラージャニャ、庶民はヴァイシャ、奴隷はシュードラとして、ひとつの仕事に世代を超えて従事させるよう考えられたカースト制度なども同時期に発展します。
人類の歴史はイネ科の歴史。
イネ科植物がなかったら、今の人口増加も文化の発展もなかったかもしれません。
減ったり増えたり、栄えたり枯れたり、文化文明の変遷を見ると、それが自然の摂理であることはよくわかります。
数が増えるほど運営は複雑になりますが農業が栄え定住生活と安定が約束され、大国ができ、商工業も同時に発展します。
数が減れば大国がなくなり、小国同士の貿易とともに小競り合いも頻発する。水や食料、家畜のえさを求めて土地を転々と移住する。
イネ科植物は食料のみならず、葉や茎にシリカを多く含むことから強度が高く、住居や生活道具の材料としても活用されてきました。
レモングラスの和名はレモンガヤ。レモンの香りがするガヤ、つまり茅葺屋根になるカヤの仲間です。
いまは茅葺屋根のおうちなんてほとんど見かけませんが、白川郷の合掌造りといえば、イメージわくでしょうか。ススキやヨシで作られている屋根ですね。
大地と豊穣の女神デメテルは、実りをもたらすと同時に飢饉をもたらす神様でもあります。
見方を変えると、与えられる時期は社会運営のために、カースト制度に代表されるような時代ルール、あるいは性善説による信仰心を利用され、地上ルールの縛りから抜け出すことが容易ではありません。
逆に奪われる時期はそうした地上ルールの縛りから解放される。
ジプシー、流浪の民、ドリームタイム、インディアン、世界中の先住民族たちが、神々や精霊とともに生きた時代。
どちらがいいとか悪いとかの話ではなく、文明はたしかに変遷してきたし、イネ科植物がその都度、いっちょかみしてきたね、という所感です。
インド伝統医学では発熱をともなう感染症にレモングラスが使用されてきました。
レモングラスは育てやすいということもあり、現代ではあらゆる国々で見かけるようになりました。
最近では黒シリーズの化粧水をスプレーした時に「タイの香りがする」と仰る方もいました。
確かに以前、タイ国を旅した時、あちこちの市場に新鮮でみずみずしいレモングラスの束が店頭に山盛りで無造作に置かれているのをよく見かけました。
このときレモングラスの香り空間がいかに活気があり、若々しさと生気に溢れているか肌で実感しました。
レモングラスに限らずですが、南国の香りが強いハーブたちは、いつも似たような高揚感をもたらしてくれます。なんとも表現がむずかしいのですが、郷愁のような不思議な感覚とともにやってくる高揚感です。
名前もつけられないし定義もできないけれど
「知っている、この感覚を知っている」
という思いだけが強まって、ちょっとしたトランス状態に入りやすい感じがします。
レモングラスはオープンで開放的な香り空間を作り出してくれるハーブです。
レモン様の香りですからリフレッシュできるのは間違いないのですが、ヒグラシの鳴く、夏の終わりの安堵感のような気配も混ざり合っています。
活気に満ちて広がりつつも、いずれ収束し、閉じていく方向がいつも見えているような。
「夏休み最後の日」に感じる気分にも、ちょっとだけ近いような…。
うーん、やっぱり定義はむずかしいです。
芳香療法の確立は、古代エジプト時代にすでに完成されていたという説があります。当時の人々の暮らしにハーブは欠かせないものでした。代表的なのがキーフィ(kyphi)と呼ばれるインセンスで、焚香するだけでなく香水として、薬としても使われていたものです。熟練調香師が残したレシピだけではなく、各家庭独自の、さまざまなレシピがあったらしく、レモングラスも薫香料としてその名が挙げられています。
*Shield72°製品に使用されているオーガニックレモングラス精油は、正式にはレモングラス葉油と呼ばれ、賦香目的で配合しています。
(つづく)