エレベーターでいざ異世界へ!2ちゃんねる発のネット怪談がホラー映画になりました「エレベーター•ゲーム」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(680日目)
「エレベーター•ゲーム」(2023)
レベッカ•マッケンドリー監督
◆あらすじ
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不器用な性格の青年ライアンは、都市伝説を検証する動画を投稿しているグループに参加する。実はライアンの妹は数カ月前、異世界につながると噂される「エレベーター•ゲーム」の都市伝説に挑むライブ配信中に謎の失踪を遂げていた。そのゲームの内容は、エレベーターに乗って階数ボタンを決められた順番どおりに押すと異世界にたどり着くというもの。妹を救いたいライアンは、仲間たちを説得してゲームに挑戦するが……。(映画.comより引用)
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公式サイト↓
日本でも数年前にそこそこ話題になった比較的新しめの都市伝説『異世界エレベーター』を題材とした作品です。
『エレベーターゲームに挑戦した妹が行方不明になった青年が心霊系動画投稿グループに加わり、怪異を解き明かし、妹を取り戻そうと奮闘する』という、わりとベタな内容というか、そこまでパンチのある感じではないんですけども、題材自体が親しみのある都市伝説なので非常に興味深く、先が読めない展開は中々に良かったです。
“異世界エレベーター”の元ネタは2017年頃に2ちゃんねるのオカルト板に投稿されたいわゆるネット発の怪談で、異世界に行く方法として紹介されたものです。
ざっと概要というか手順をご紹介させていただくと
といった感じで、異世界へと繋がる手順が紹介されています。
しかし、この手順を踏んで実際に異世界に行ったという人は当然おらず、水溜りボンドさんやFischer's-フィッシャーズ-さん等など有名なYouTuberの方々もやってみた動画を投稿しておりますが、残念ながら異世界への扉は開きませんでした。
この手の掲示板発の怪談や都市伝説で言うと“きさらぎ駅”のようにあまりにもリアルな体験談があると映像作品としても非常に作りやすいと思いますし、少々別物ですが“ひとりかくれんぼ”のような降霊術の一種は、YouTube等のやってみた系の企画で取り扱うと、ほんの些細な物音がしただけでも盛り上がるので比較的扱いやすい題材になると思います。
その辺りのメジャーどころの都市伝説と比べると今作の題材となっている“異世界エレベーター”はただただ異世界への行き方の手順が記載されているだけで、信憑性を持たせるようなバックボーンや体験談も無く、かといって降霊術の一種でも無さそうです。
エレベーターという密室でただボタンを押して昇降を繰り返すだけなので絵的にも地味ですし、もし映像作品にするならば我々読者に「もしかしたらこれは本当なのかも」と思わせるようなオリジナルのもう一捻りを加えなければなりません。
一見映像作品に向かなそうなこの題材をわざわざ選ぶだなんてよっぽどの物好きなんだなとは思いますが、個人的にはそういった意欲的なクリエイターの方々が大好きなので見る前からかなり期待していました。
監督を務めたレベッカ•マッケンドリー氏は今作が長編映画2作目とキャリアはまだ浅いですが、初監督作品となる「Glorious」(’22)は日本未公開ながら『公衆トイレに閉じ込められた男が自称“神”の声に導かれ、世界を救う勇者の一人に選ばれる』という尖り散らかしたあらすじや他の方の感想を読む限り、おそらくは私好みの作品だと思いますのでこちらも是非視聴してみたいです。
現在WOWOWで配信中のほか、アマゾンプライムやU-NEXT、DMMTVなど各動画配信サービスにてレンタルが可能です。(399〜550円くらい)
私はまた例によって浜田山のTSUTAYAを利用させていただきました。全然関係ないですけど、ちょうど同じフロアでポケモンカードの大会が開催されており、非常に盛り上がっていました。
先述したようにストーリー自体はかなり王道なもので、
◇都市伝説や怪談を検証する動画投稿グループ“肝試し街の悪夢”。そこにスタッフとして新たに加わることになったライアンは次の企画として巷で有名なエレベーター•ゲームの検証を提案する。スポンサーの都合もあり、すぐに動画を投稿せねばならず、メンバーはあまり気が乗らないものの、仕方なくエレベーター•ゲームを検証することに。ベッキーという少女が実際にゲームを行い行方不明となったと言われているエレベーターでさっそく実証するも当然何も起こらない。しかし、この時彼らは異世界への扉を開いていたのだった…
という感じで展開していきます。
“エレベーター•ゲーム”という題材自体はもちろん面白いですし、5階フロアから乗り込んでくる神出鬼没な女性の霊(通称“赤い女”)のビジュアルや怖さは中々のものですし、「呪怨」シリーズの伽椰子をパクってリスペクトしているかのようなトリッキーで不規則な動きはインパクトがあります。
そして、この“赤い女”のバックボーンも短めではあるものの『なぜ悪霊になったのか』をしっかり説明してくれるため、その存在や行動に納得ができます。また、ケビンの喉を手刀で貫いたり、クリスの全身の骨を折ったり、マティの首を食いちぎったりと、随所で見せる無双シーンには相当の魅力を感じました。
また、後々ライアンが迷い込んでしまう異世界の雰囲気は『赤を基調とした薄暗いパラレルワールド』のような仕上がりで、派手さは無いものの作品のテイストに上手いことマッチしており、上空に浮かぶ巨大なⅩ(10)印等も非常に印象的でした。
色々と良い部分もあったんですけども、どうしても作中の設定や登場人物一人一人の描き方が薄っぺらく、一本の映画作品として見ると少々物足りなかったです。
メインの登場人物も主人公のライアン含めキャラ付けが大分薄味で、クリスはお調子者だけど裏では嫌なヤツ、マティはビビリ、イジーは金髪ギャル、ケビンはグループのリーダー、クロエは良い人、みたいに一行足らずで紹介が終わってしまうくらいにペラペラです。ライアンに至っては「妹を見つけるためにエレベーターゲームに挑戦する青年」という以外に何も書くことが思いつかないくらい『どんな人間なのか』が分かりません。
『“肝試し街の悪夢”のファンだったベッキーはクリスに弄ばれたうえに一方的に関係を絶たれ、なんとか気を引こうとエレベーター•ゲームに挑戦した結果、行方不明となった』という展開も、先述した通りキャラが全員薄味なのであまりストーリーに食い込んで来ませんでした。
また動画投稿グループである“肝試し街の悪夢”はどのくらい人気があるのか、登録者数や視聴回数などの具体的な数字、それぞれのメンバーは今の活動に満足しているのか、そもそもどういう経緯で集まったメンバーなのか等が一切描かれておらず、おそらく作り手側がこのあたりの背景を何も考えていないことが伺えます。
『エレベーター内に“赤の女”が乗ってきたら、ドアが閉まるまで絶対に目を開けることも声を出すこともならない。破ったら“赤の女”に引き裂かれる』という大事な大事な設定がありましたが、クライマックスではライアンが普通に喋ります。それに本来の『異世界エレベーター』ではエレベーターに乗るのは一人だけと決まっていましたが、今作では普通に複数人で乗っています。このあたりの設定を忘れている詰めの甘さや行き当たりばったりな感じもあまりよろしくないと思います。
『都市伝説が題材だから主人公たちはYouTuberにしよう』という安易な骨組みだけで映画を撮ったは良いものの、肝心の肉付け部分がほとんど無いため、どうしても物語自体が浅くなったのではないでしょうか。キャラやストーリーさえ面白ければもっとハネるポテンシャルを秘めているだけに勿体ないなと思う部分も多々ありました。比較対象として“異世界エレベーター”を題材にした別の作品も見てみたいですね。
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓