環境破壊に対するアンチテーゼ?トンチキな展開にザル過ぎる対応策!それでも好きですナイト•シャマラン「ハプニング」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(683日目)
「ハプニング」(2008)
M•ナイト•シャマラン監督
◆あらすじ
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ある日、ニューヨークのセントラルパークで人々が突然一斉に立ちつくし、唐突に自らの命を絶つという異常事態が発生。また、とある工事現場では作業員たちが次々とビルの屋上から身投げする不可解な惨事が起きていた。この異常現象は原因がわからないまま全米各地へ広がり始め、多数の犠牲者を生んでいく。これらの報せを受けたフィラデルフィアの高校教師エリオットは、妻のアルマたちと共に安全な場所を求めて避難を開始する。(thecinema.jpより引用)
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『全米各地で人々が自ら命を断つ異常現象が発生。細菌テロか、はたまた食品添加物の影響か?情報が錯綜し、混乱に陥った人々は安全な地を求めて避難を開始する』という内容のパニックスリラー映画です。
冒頭から“人々が唐突に命を断つ”というショッキングなシーンをフルスロットルで次から次へと流していくため、あまりのことに私は動悸が止まらなくなりました。
多くの方はこのあらすじや冒頭を見ただけで、これを作った人はよっぽど頭がイカれているんだろうな思われるかもしれませんが、それもそのはず今作の監督•脚本を務めたのはマスター•オブ•サプライズことM•ナイト•シャマラン氏です。
“どんでん返しの名手”として知られるシャマラン監督は「シックス•センス」(’99)、「ヴィジット 」(’15)、「オールド」(’21)、「ノック 週末の訪問者」(’23)等など数々の名作スリラー映画を世に生み出しておりますが、意外なことに「シックス•センス」と同年にはネズミの少年•スチュアートを養子に引き取った家族とスチュアートが織りなすハートフルコメディ映画「スチュアート•リトル」(’99)の脚本にも加わっております。
余談ですがこの「スチュアート•リトル」は当時映画館まで見に行った記憶があります。ネズミのスチュアートの吹き替えには翌年「バトル•ロワイアル」で主演を務めることとなる藤原竜也さん、スチュアート家の飼い猫スノーベルにはホンジャマカの恵俊彰さんがそれぞれキャスティングされておりどちらも非常にはまり役となっていますので、この作品に関しては吹替版がオススメです。
話を戻しますが、今作「ハプニング」が公開された2008年はナイト•シャマラン監督のキャリアにおいて非常に苦しい暗黒期でもありました。1999年に公開した「シックス•センス」は全世界で大ヒットを飛ばし、以降も「アンブレイカブル」(’00)、「サイン」(’02)、「ヴィレッジ」(’04)と順調にヒット作を生み出し、当然のことながら次回作へのハードルは上がりに上がっておりました。
そして満を持して2006年に公開された「レディ•イン•ザ•ウォーター」は『運命の導きによってフィラデルフィア郊外の集合住宅へやって来た水の妖精を主人公の管理人が住民たちと協力して元の世界に返してあげようとする』というファンタジー要素強めのお話となっており、「見てみたら案外面白かった」という意見も見受けられるものの、基本的にはそれまでと同じ路線のスリラー映画を求めていたファンや批評家から酷評されてしまいました。ここからシャマラン氏の不遇の時代へと突入します。
そして次に発表されたのが今作「ハプニング」(’08)です。前作の反省を踏まえ、シャマラン節の効いたスリラーテイストとなっており、シャマラン氏自身も某インタビューにて「これは今まで私が撮った映画の中でもっとも怖い映画」と発言。さらには『シャマラン作品最大の過激描写があるとの噂も』と書かれたことで観客の期待値も爆ハネしました。
しかしいざ蓋を開けてみると、中盤であっさり謎が明らかになる展開や、ふんわりとしたありがちなオチ、そしてそれまでの作品と比べるとキャストもスケールダウンしており、これまた酷評の嵐。主演を務めたマーク•ウォールバーグ氏も後のインタビューで今作の事を「あれは駄作だった」と扱き下ろす始末。
いよいよ追い込まれたシャマラン監督はアニメ原作の「エアベンダー」(’10)、そしてウィル•スミスの頭に浮かんだトンチキなアイデアを基にした「アフター•アース」(’13)を続けて発表するも、残念ながらどちらも満足いく結果は得られず、本人曰くですが、業界から役立たずの烙印を押されてしまったそうです。
その後、いわゆる干されてしまった状態のシャマラン監督はテレビドラマの分野で食いつなぎ、意を決して自宅を担保に融資を受けて「ヴィジット」(’15)の製作に入ります。そしてこの作品のラフカットをハリウッドのありとあらゆるスタジオに見せて回るも、もうすでに“終わった人”とされている同氏の作品はどこからも受け入れられませんでした。
しかし、この時に自身の作品を却下した業界関係者の名前を記載した紙を会社の壁に張るなどして反骨心を滾らせた同氏は作品作りに没頭。もう一度撮り直して編集したものをユニバーサルに持っていったところ、低予算ホラー映画に定評のあるブラムハウス•プロダクションズCEOのジェイソン•ブラム氏の目に止まりました。彼がプロデューサーを務めることと相成った「ヴィジット」は興行収入9800万ドル超えのスマッシュヒットを記録。この作品によりシャマラン氏は再びヒットメーカーとして返り咲きを果たしました。
そして!
そんなシャマラン監督の最新作「トラップ」がいよいよ明日10月25日から公開ということで、これは非常に楽しみですね。なるべく早めに見て感想を上げたいと思います。
今作に関しては現在アマゾンプライム、Disney+にて配信中です。
兎にも角にもオープニングが衝撃的過ぎて心を掴まれました。
というのがもう強烈過ぎました。
さらにその後、工事現場では建物の上から次々と作業員が身投げをして地面に叩きつけられ絶命したり、“拳銃自殺をした警官の銃を拾った男が拳銃自殺、そしてその銃をまた別の女性が拾って…”の繰り返しが起きたりと全米各地で人々が自ら命を断つという異常現象が発生します。
この工事現場のシーンは『落下する人々を下からのアングルで撮影する』というえげつない映像になっており、非常に衝撃を受けました。
といった感じで本題に入ります。
今作で一番怖いのは「『次々と人が死んでいく』ということよりも『情報が錯綜して何が正しいのか分からなくなる』ということなんだと思います。この異常現象の原因が分からないから誰も何も対応の仕様がなく、「たぶん〇〇かもしれない」や「おそらく✕✕に避難すればいいと思う」という具合に、その全てが憶測に過ぎません。しかし、誰かがリーダーシップを取り、各々が情報を出し合い、その信憑性に乏しい憶測で次の行動を選択していかなければにっちもさっちもいかないわけです。
そして『何を信じていいのか分からず、その不安から他者を拒絶し、攻撃して、殺し合いが始まる』というふうに、なんと愚かなことかと嘆きたくなる状況になるわけですが、思い返してみると世界中でコロナウィルスが猛威を振るった時も同じようなことが至る所で起きていたように思います。
そんな未知の出来事、どうすればいいのか分からない事象に対する我々人間の恐怖を描いているのがこの映画なんだと思います。
物語の中盤辺りで主人公のエリオットは科学教師としての知識を活かし、この一連の現象は植物が出す化学物質が原因なのではないかと仮説を立てます。
一番最初に事件が起きた場所は『自然が多く、かつ常に大人数がいる公共の場(セントラルパークなど)』であること、避難の最中も大人数で固まっている方が影響を受けやすい、なるべく屋内にいたほうが被害に遭わないetc…
といったこれらの条件から導き出したエリオットの答えは、『人間たちがいることへのストレスで植物たちから発せられた化学物質が風で運ばれ、それを吸引することで神経に異常が発生し、脳や筋肉の制御が不可能となり自ら命を断ったと思われる』というものでした。もはや対処法としては『可能な限り屋内に避難して窓を閉め切る。そしてやむを得ず外に出る場合は大人数だと周囲の植物を刺激してしまうため、少人数で慎重に行動する』くらいのことしか出来ません。
という形で幕を閉じます。
『植物が発する化学物質が原因で人間がイカれてしまう』というのは非常に面白い設定ですし、環境破壊に対する痛烈なアンチテーゼのようなものも感じられて大変興味深かったです。なんですけども、『得体の知れない脅威の正体は植物でした』というネタバレ部分が物語の中盤で明らかになってしまうため、必然的にそれ以降が盛り下がってしまいました。肝心の対処法も“屋内へ避難”とか“少人数で行動しよう”みたいな漠然としたものばかりで、根本的な解決にはなりません。
エリオットとアルマの関係性の修復も今作の見どころの一つではあると思いますが、そもそもなぜそんなにギスギスしているのかが分からないので感情移入もし辛いですし、ずっと腹に一物を抱えていそうなアルマがついにカミングアウトした内容が「実は同僚とこっそりティラミスを食べていた」という爆裂にどうでもいいことで、悪い意味で緊張感がなくなってしまいました。ちなみにこの同僚役はシャマラン監督です。
このあたりの夫婦のバックボーンみたいなものがもっと感じられると終盤の展開に厚みが増したのではないでしょうか。
冒頭で一番の盛り上がりを見せ、それ以降失速していくというのは映画としてはあまりよろしくないのかもしれません。しかし、個人的にですがそんなに言うほど悪くはないと思います。やはり「シックス•センス」の衝撃や面白さが凄かった分、以降の作品に対しても観客や批評家が当然のように「シックス•センス」と同等のクオリティを求めてしまったことがシャマラン監督暗黒時代の原因だと思われます。
『手掛ける作品全てが面白い』なんてそうそうないわけですから、たまたまその内の一つが満足いく内容ではなかったからと言って、その監督自身を駄目監督とするのは些か焦燥ではないでしょうか。一つ一つの作品で判断するのではなく、トータルで見た上で、「あの作品はちょっとアレだったけど、でも基本的には素晴らしい監督だよ」みたいな大らかな考え方を持って欲しいものですね。
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