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俺たちのサメ映画が本物に!?“もしも低クオリティなサメが現実世界に現れたら”という神がかった発想が光る胸熱B級サメ映画「BAD CGI SHARKS 電脳鮫」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(717日目)
「BAD CGI SHARKS 電脳鮫」(2019)
マジャマ監督
◆あらすじ
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夢見がちな兄ジェイソンは、子供時代に兄弟で執筆したサメ映画の脚本を携え、仲違いしていた弟マシューのもとを訪ねる。しかしとある不思議な魔法の力で彼らの脚本が現実化してしまい、本当にサメに襲われてしまう事態に。「サメ映画のお約束」が次々と兄弟に降りかかる一方、ネット経由で知能を獲得したサイバー・ジョーズは人類に対する反逆を企てていた…!(landshark.crayonsite.comより引用)
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『もしも低予算サメ映画のチープなCGサメが現実に現れたら』という斬新なアイデアが光るサメ映画なんですけども、これはめちゃくちゃ面白いです!最近見たB級サメ映画の中でも群を抜いていると思います。
“そういうテイストの世界観ですよ”と先に提示しているので、どれだけサメがチープだろうと、どんな低予算演出であろうと許されてしまうというのは反則スレスレというか、もはやタブーに触れているのかもしれません。しかし低予算サメ映画の永遠の悩み(サメのクオリティが低い)を打破してしまった挑戦的な作品であることには変わりはありません。
しかもその突飛なアイデア頼みの作品にするのではなく、サメ映画を愛する人たちが集まって泥臭く作り上げていったパッション溢れるストーリーや登場人物が非常に魅力的で、映画として十二分に楽しめるのが個人的には一番素晴らしいと思います。こういう魂の込められた映画は低予算だろうと不格好だろうと見た人の心を動かします。
ちなみにそんな今作の監督を務めたマジャマ氏についてなんですけども、これは
•主人公•マシュー役のマシュー・エルスワール氏
(Matthew Ellsworth)
•兄•ジェイソン役のジェイソン・エルスワース氏(Jason Ellsworth)
•バーナード監督役のマッテオ・モリナーリ氏(Matteo Molinari)
の御三方の頭文字をつなげてMAJAMA(マジャマ)としたものであり、今作はこの3人で監督•脚本•プロデューサーも担当しています。
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(wod.wowow.co.jpより引用)
エンディングではこのサメ映画大好きトリオから我々視聴者に向けたメッセージがあり、『見てくれてありがとう!とにかくサンキュー!』や『こんな馬鹿共ができるなら俺たちにもできる。そう思わせてくれる最高のクソ映画だったろ?』等の熱いものから、『動物は一切傷つけてません』や『サメは全てCGです』のような分かりきっていることをわざわざ言うおバカさも忘れていません。
現在アマゾンプライム、U-NEXT、DMMTV、Lemino、WOWOWにて配信中です。まだ配信が始まってそこまで経っていないので知名度もそこそこですが、これはすごく良かったので是非見てみてください。オススメです!
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◇幼少期は優秀だったものの今は小さな映画会社でほそぼそと働いているマシュー。ある日、そんな彼の家に無職のダメダメ兄貴•ジェイソンが押しかけてくる。どうやら父親から勘当されたらしいジェイソンは未だにマシューと子どもの頃に描いていたサメ映画を作ることを夢見ており、そんな兄貴をマシューは鬱陶しくも、また羨ましくも思っていた。そんな折、2人の前に自称映画監督のバーナードが現れ、彼が魔法のカチンコをならすと世界は一変。突然、目の前に超絶チープなCGサメが現れて騒動を巻き起こすのだが、それは全てマシューたちが幼少期に考えていたサメ映画「サメ上陸」と同じ展開だった。様々なサメ映画あるあるに見舞われる2人は兄弟の絆を取り戻し、無事に映画を取り戻すことができるのか!?
というのが今作の細かめのあらすじです。
B級映画に似つかわしくない、と言ったら失礼かもですが今作はそれぞれの登場人物の関係性やキャラの見せ方が非常に上手いです。
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昔は仲が良く、一緒に大好きなサメ映画のオリジナルストーリーをノートに書いていた主人公兄弟。兄のジェイソンはいつまでも中身が子供のままで、今は何の努力もしていないくせにサメ映画を作るという夢を追い続けている実家暮らしの大バカ無職。かたや小さい頃はお兄ちゃん大好きっ子だったものの、勉強が良く出来たために両親の期待を一身に受けて育てられ、兄の存在は悪影響とまで言われ一人暮らしをするも現在はぱっとしない社会人生活を送っているマシュー。
おそらくはお互いのことを心のどこかで羨ましく思っているからこそ微妙な関係性になってしまったんだと思います。ジェイソンはジェイソンで両親から期待されて今も立派に働いているマシューを羨ましく思っているでしょうし、マシューはマシューで好きなことを続けているジェイソンを羨ましく思っているのではないでしょうか。ジェイソンは昔と同様にマシューと仲良くしようとしますが、マシューは“一流企業に勤める”のような親からの期待に応えられなかった自分自身への苛立ちをジェイソンにぶつけているようにも見えてきます。
ジェイソンは親から渡された生活費を全てオモチャに使ってしまうほどの大馬鹿者ですが、終盤でサメに取り囲まれたマシューを救った際に言う「見知らぬ町でもお前を見つけ出すし、必ずお前を助ける!」というセリフや行動から見るに、やっぱりちゃんとお兄ちゃんしています。“騒動を通して兄弟の関係性が修復されていく”というのが今作の肝なので、その部分がしっかり描けているため作品としてテイストがブレることがありませんでした。
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そして、見所の一つでもあるチープCGサメの扱い方も非常に上手かったです。
ただ漠然と現れて主人公たちを襲うという、いわゆる典型的なB級サメ映画のサメの枠には収まらず、映像作品から出現したという設定をしっかりと活かしています。ビジュアルが乱れたり、X軸y軸Z軸の3方向矢印が表示されたままだったりとメタ的な見せ方もすれば、中盤にはエイミーのパソコンに接続されてしまったことであらゆるサメ映画の情報をダウンロードして知識を得て、なんと自我を持ってしまいますし、可愛い分身を3体も出現させます。
サメ映画において自分たちサメが創造主の思いのまま悪役にされていることに疑問を持ち、自分たちの存在理由は何なのかと自問自答。そして自らの意志で主人公たちを襲う“人類に対するサメ革命”を起こします。サメ側が自分の意志で人間を襲うというのは本能行動とも違いますし、この設定も非常に新しかったです。
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そして、本作の狂言廻しの役割を担う映画監督バーナードは映画の冒頭において「映画を撮るのではなく現実にする。出演するのは君さ!意味不明?私もさ!」と言うなど、以降もメタ的な発言を連発する歪な存在です。そんな彼が魔法のカチンコを叩いたことで、マシューたちの脚本通りのサメが現実世界に現れてしまうわけです。
以降も、『まずはモブが襲われる→主人公たち登場→サメ登場→逃げる→主人公の愛する人が襲われる→主役が復讐→怪物か主役が死ぬ』というサメ映画のセオリーを空中にPowerpointで表示して説明したり、我々視聴者に向かって「おっと!これはさっき見たよね。代わりにオッパイの動画でも見ててよ」と言って雌チンパンジーの動画を流したりとやりたい放題です。しかしその根底には「これは君たちの映画だ。君らの愛が深ければ展開も変わる」、「映画に大切なのは結末じゃない、心に何を残すかだ。人生と同じだね」など同キャラのセリフを通して我々に伝えたいメッセージを提示する存在なのかもしれません。
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(landshark.crayonsite.comより引用)
今作の他の方の感想を見てみると、結構な率で「バーナード監督の存在がクドい」とか「メタ発言が多すぎる」といった意見が見受けられました。正直なところ、これは私も感じました。好みの問題かもしれませんが、メタ発言って一歩間違えたら作品の世界観を台無しにしてしまうので中々に難しいところではあると思います。
私はそんなに嫌いじゃなかったんですけど、ただ一つだけ気になったのが、クライマックスに差し掛かる前にマシューとジェイソンが大喧嘩をして離れ離れになった後に『バーナード監督とデフォルメされたサメによるトークショー』というどうでもいいシーンになるのだけはちょっといただけなかったです。その後、兄弟たちの仲直りからのサメとの最終決戦と気持ちよく展開して欲しいところで一回どうでもいいシーンが入ってしまうと気持ちも切れてしまいますし、このシーンに関しては無い方が良かったんじゃないかなと思いました。
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(landshark.crayonsite.comより引用)
クライマックスもかなり胸熱ですし、終わり方も非常に私好みでエンディングクレジットの最後の1秒まで楽しめる作品に仕上がっておりますが、冒頭でも申し上げたようにこれはもう完全にアイデア勝ちだと思います。
もちろん魂や熱意が込められた映画愛、兄弟愛に溢れたストーリーも相当面白いので、“突飛な発想だけの映画”とはならないと思います。ですがおそらく二度とこの設定は使えませんし、もしやったとしても二番煎じ感は否めず、一作目を超えることはないでしょう。そういう意味では今作は世界初『パンドラの箱を開けてしまったサメ映画』なのかもしれません。
今のところFilmarksだと低評価が目立つのでとりあえず私が星5を付けて少しでも印象を良くしたいと思います。ハマらない人はハマらないかもですが私はオススメです!
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓