猫が好きなのか嫌いなのか?スティーブン・キング氏のオリジナル脚本でお送りするマニアック過ぎるヴァンパイアムービー「スリープウォーカーズ」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(670日目)
「スリープウォーカーズ」(1992)
ミック・ギャリス監督
◆あらすじ
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インディアナ州の田舎町に引っ越してきた高校生チャールズは近所付き合いを避けるように、母メアリーと二人でひっそり暮らしていた。そんな彼にもクラス一の美少女タニアというガール・フレンドが出来、普通の高校生活を楽しんでいるかに見えた。しかし、彼の甘いマスクの下には牙を剥く伝説のヴァンパイア“スリープウォーカーズ”が潜んでいた・・・。(sonypictures.jpより引用)
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『処女の精気を糧とする伝説のヴァンパイア“スリープウォーカー”の親子が新たな土地で次なるターゲットに狙いを定める』といういかにもなテイストの90年代B級ホラーです。
“ホラーの帝王”スティーブン・キング氏の小説が原作の映画は数あれど、今作は自身の原作などは関係なく、オリジナルの長編映画用の脚本をキング氏自らが担当しました。ファンからするとそれだけで見る価値があるのではないでしょうか。
正直なところ、内容や設定だけを見ると中々にマニアックでツッコミどころが多く、失礼を承知で申し上げると“スティーブン・キング脚本”と言われなければ気づかないかもしれません。
しかし!
映画マニアならば誰しも泣いて喜ぶ生唾ものの遊び心や仕掛けがふんだんに仕掛けてあるため、映画作品として十分に楽しめる仕上がりになっているあたりにキング氏の実力が伺えます。
今作はいわゆるカメオ出演で完全に遊び倒しており、多数の映画関係者が出演しているのが特徴です。
私の企画でも度々名前をあげさせてもらっている「ピラニア」(’78)、「グレムリン」(’84)等でお馴染みのジョー・ダンテ監督は鑑識助手役、そしてその先輩役は「狼男アメリカン」(’81)のジョン・ランディス監督がそれぞれ務めています。
さらに脚本を担当したキング氏は墓守り役でワンシーンの出演ながら結構喋ります。
そして極めつきは「スター・ウォーズ」シリーズのルーク・スカイウォーカー役でお馴染みのマーク・ハミル氏が冒頭に登場する警察役(役名はジェニングス警部補)で出演しています。
その他にもどこに出ていたのかは気づけませんでしたが、「ヘルレイザー」シリーズのクライヴ・バーカー監督や「悪魔のいけにえ」のトビー・フーパー監督もこっそり出演されていらっしゃいます。
※カメオ出演とは
監督のミック・ギャリス氏は後に「シャイニング」(’97)、「クイックシルバー」(’97)、「ライディング•ザ•ブレット」(’04)、「スティーヴン・キングのデスペレーション」(’06)など数多くのスティーヴン・キング原作映画の監督を務めており、今作が記念すべき初タッグ作品となります。おそらくはこの時の相性の良さなどから以降の作品作りへと繋がっていったのではないでしょうか。
現在アマゾンプライムにて10月末まで100円でレンタルが可能です。詳しくは後述しますが猫大活躍のシーンもある一方で、可哀想なシーンも多々見受けられるため、猫好きの方はお気をつけくださいませ。
物語自体はかなり一本道な展開で
◇インディアナ州の田舎町に越してきたメアリーとチャールズ親子。チャールズは学校一の美女タニアに猛アタック。そんなチャールズにタニアも心を惹かれていく。しかし彼らの正体はスリープウォーカーというヴァンパイアで、タニアは次なるターゲットとして彼らに狙われていたのだった。
という感じで、あまり捻りが無いと言いますか、スティーブン・キングっぽさが感じられません。
今作の主人公にしてメインヴィランとなるスリープウォーカーについてまとめさせてもらうと
人間と猫の特徴をもち、姿を自由に変えることが出来る流浪の民で、先祖がおそらく吸血鬼。処女の精気を糧としており、唯一の弱点が猫。
吸血鬼と異なり昼間も外を出歩くことが可能だが、鏡には本来の姿が映ってしまう。また自分自身や身の回りのものを透明にすることができ、おそらくその時々の精気の摂取量にもよるが外傷に対してはあまりダメージが無いように見える。しかし、ダメージが積み重なると力がなくなり、人間の見た目を維持できなくなる。
といったところでしょうか。
本来の姿は毛のない猫(スフィンクス)の獣人のようで、ヌルヌルしています。自分たちが猫みたいな見た目なのに猫が弱点ってちょっと意味がわからないですけどそういう設定なので仕方ないです。猫も猫でどうやら人間に擬態しているスリープウォーカーが分かるようで、見つけると非常に好戦的となり、飛びついて引っ掻いたりと勢いよく襲いかかります。透明になっても猫からは丸見えなので効果はないようです。
映画のクライマックスでは猫に引っ掻かれたり噛まれたりした傷口から発火して火だるまになるなど「クライマックスだから派手に火だるまにしちゃおう」という魂胆が丸見えな追加設定なども多々あります。
若い女性(処女)の精気を口から吸い取って自分たちのエネルギーにして活動をしており、警察にマークされ始めたらまた別の土地へと流れていくようです。なもんでチャールズとメアリーの親子は以前の土地で警察から怪しまれ、家宅捜索に踏み込まれるよりも一足先にインディアナ州の田舎町に越してきたというわけです。
基本的には息子のチャールズがハンサムな好青年に化け、偽造の成績証明書などを用いて高校に転入し、特定の女性に狙いを絞ります。ハンサムなのでもはや入れ食い状態ですが、美しくければ美しいほど精気の質が高いのか、キレイな女性をターゲットにします。チャールズとメアリーは親子でありながら性行為をするなど男女の仲にあるため、チャールズがターゲットの女性を口説くのはあくまでもメアリーに上質な精気をあげたいからです。
という風に色々と書いてはみたんですけども、肝心のチャールズとメアリーのバックボーンみたいなものがほとんど描かれていないため、“どういう出自なのか”、“どういう人生を送ってきたのか”、“なぜ親子でありながら男女の関係にあるのか”等が何も分からないのでどうしても感情移入しにくいです。
あとは、兎にも角にも猫に対して怯えと嫌悪の情を抱いており、自宅の庭にはトラバサミなどの罠を大量に仕掛けたり、引っ越す前には捕らえた猫をすべて殺して家の周囲に吊るすなどもはや狂気を孕んだ異常性を垣間見せます。
猫も猫でスリープウォーカーを見つけると好戦的になるため、おそらくは野良猫ネットワークで「この町にスリープウォーカーがいるぞ」という情報を共有しているのか、終盤に猫たちが一斉にチャールズたちの自宅に大挙する絵は圧巻の一言でした。
物語の終盤にチャールズとメアリーが本来の姿を現して警察やタニアに襲いかかるんですけども、このあたりが結構グダグダというかめちゃくちゃぬるいです。
両者の動きも鈍いうえに、警察側も襲ってくださいと言わんばかりに近づくので秒殺されてしまいます。茹でとうもろこしで串刺しにしたり、警察がトラバサミを鎖鎌のように投げて攻撃したり、返り討ちにあって柵に串刺しにされたりと攻撃や殺害方法のバリエーションは非常に豊富で面白かっただけに動きのぬるさだけ勿体なかったです。
あとヒロインのタニアはべらぼうに美しいうえにチャールズをワインオープナーで突き刺したり、指で目を抉ったりと、ワンダーウーマン顔負けの勇猛さを兼ね備えており、作中屈指の獅子奮迅の活躍を見せてくれます。
猫がたくさん出てきて大活躍する一方で無残に惨殺されたり可哀想な目に遭うなど、スティーブン・キング氏は本当に猫が好きなのかどうなのかが分からなくなってきます。でも最終的にはチャールズたちがやられてしまうので猫が好きという感情の方が優勢なのかもしれません。
映画としての完成度はどうだったのかと問われれば些か疑問が残る部分もありましたが、テレビの2時間ドラマくらいの感覚で見てたら全然ありだと思います。普通に面白かったです。
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