見出し画像

愛を求めし老人たちの悲しき咆哮!狂気の行き着く先には何があるのか…「オールドピープル」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(608日目)

「オールドピープル」(2022)
アンディフェッチャー監督

◆あらすじ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
妹の結婚式を間近に控えた女性は、2人の子供を連れて故郷へと向かう。その先に、冷酷な殺人鬼と化した老人たちとの命がけの戦いが待ち受けているとは夢にも思わずに。(Filmarksより引用)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『劣悪な老人ホームに入居させられ、家族からも見放された老人たちが暴動を起こして次々と村人を殺害していく』

という、かなりエグい角度から世相をぶった切っているNetflixオリジナル作品です。

現在、多くの国で問題となっている“高齢化社会”や“孤独な老人”をテーマにしており、このリアルな問題をフィクションで膨らませることで「我々の国でも近い将来に起こり得るのでは」と想起させるような生々しい恐怖、不安がありとても面白かったです。

Netflixオリジナルなので映像や俳優陣のクオリティも相当高く、かなり完成度が高いですが、内容が内容なので家族揃って見るのには適しておりません。

どうぞお一人でゆっくり鑑賞してください。

Filmarksより引用

◇妹•サンナの結婚披露宴に出席するために子供たちを連れて久々に故郷に帰ってきたエラ。現在は老人ホームに入居させている実父•アイケにも披露宴に参列してもらおうとホームを訪れるが、そのホームは人員不足のせいで清掃が行き届いておらず、劣悪な環境の中、そこかしこに無気力無表情で佇む大勢の老人たちの姿があった。名状し難い不安と恐怖を感じたエラたちはアイケを連れてすぐにホームを後にする。披露宴で楽しいひと時を過ごす面々。しかしそれを遠くから眺めるホームの老人たちは停電をきっかけに突如として暴動を起こし、職員を殺害。自分たちを蔑ろにした村人たちに復讐を果たすべく、そのまま大勢で村へとなだれ込む。

という流れになっており、基本的には主人公であるエラや子供たち(ローラとノア)の視点で展開していきます。

主人公ポジションのエラ(Netflixより引用)

普通の一本の映画としては十分楽しめますが

『老人たちがなぜ暴動を起こしたのか』

という部分の動機みたいなものが少々弱く、例えば「職員から虐待を受けていた」や「自分の陰口を家族が言っていたのを聞いてしまった」のような分かりやすいきっかけが無く、おそらくは「蔑ろにされ続けたことへの恨み」だとは思うんですけど、それで手当たり次第に村人を殺していくという流れになるのはちょっと強引にも感じました。

職員が老人たちをぞんざいに扱っていたり、「どの老人も家族とは何年も会っていない」というセリフがあることから、「家族から見捨てられ、ただだた死を待つのみ」という老人たちの鬱屈した思いや置かれている状況などをある程度は補えるものの、視聴者の想像力や理解力に任せすぎというか、もう少しはっきりしていても良かったのかなと思いました。

Netflixより引用

物語の中盤で老人の一人が持っていた本のあるページを破り、それをエラに渡します。そこには「老人を敬え。なぜならお前たちもいずれそうなるからだ」との文言が見受けられます。殺人にまで手を染めてしまった老人たちはその思いだけ突き動かされていたのでしょうか。一応、村の老人はほぼ全員がその老人ホームに入居させられるため、恨みの矛先が村人に向くのは分かるんですけど、披露宴のために久々に村を訪れたローラやノアのような孫世代はただただとばっちりを受けているようにも見えてしまいました。

しかし、ラストシーンでローラが「私たち若い世代にとって、お年寄りたちの怒りを防ぐ時間はあったのか」、「その時間は過去にあったはずだ」等と発言しており、『自分たちには関係ない』という無責任な考え方が今回のような凄惨な出来事を招いたのであり、『各々が責任を持って年老いた両親や老人たちと向き合っていかなければならない』というのが今作のテーマなのかもしれません。

老人たちの多くは当初は積極的に人を殺すというよりかは一応武器(ガラスの破片)などを持っておき、殺す機会があればやるみたいな感じのスタンスでしたが、物語後半に差し掛かると、猛ダッシュでエラたちを追い回すなど、情緒も不明瞭で明確な意思があるような無いようなどっちつかずのことが多く、人間というよりも有象無象のゾンビのように描かれている部分があったのは個人的には好みではありませんでした。

一人だけ異常に好戦的な老人がおり、彼だけは積極的に殺戮を繰り返し、ルーカス(エラの元夫)とも互角以上に渡り合うなどとても手強く、非常にバックボーンの想像が捗る只者ではない感が出ており良かったです。

好戦的な戦闘狂ジジイ(Netflixより引用)

クライマックスにおいて、それまで一切明確な意思を見せなかったアイケが孫を守るために自ら銃を取り、戦闘狂の老人を射殺して「お前たちのことを決して傷つけたりしない。お前たちを愛してる」と言ってローラとノアを抱きしめるシーンには胸が熱くなりました。アイケ自身は何もしていないにも関わらず、家族からは騒動中ずっと恐れられていたので相当辛かったことでしょうし、端から見ると「他者を殺すことで身内の信頼を得る」という構図に見えてしまうのもかなりメンタルにずしんと来るものがあります。

エラの実父•アイケ(Netflixより引用)

ルーカス(エラの元夫)の現在の交際相手で老人ホームの職員を務めるキムが今作におけるいわゆる事起こしキャラとなっています。中盤でエラと子供たち(ローラとノア)、そしてルーカスとキムの5人で家屋に籠城して老人たちから身を隠すんですけども、戦闘狂の例の老人が侵入した時も、ノアが喘息の発作で倒れた時も家族一丸となって窮地を乗り越えていき、キムだけが完全に蚊帳の外です。

当初は「あんたの旦那、今は私のものなのよ」と言わんばかりの余裕ぶっこきスタンスのキムでしたが、家族の絆に割って入ることはできず、結局自分よりもエラや子供たちを優先するルーカスを見て何か思い詰めた表情を浮かべます。

ここで、だいたいの視聴者は「このあとキムが何かやらかすな」と想像できると思います。

しかしこのあと、エラが返り血を水道で流しているところにわざわざやってきて「ルーカスは今でもあなたや子供たちの名前を寝言で言うのよ」と恨みめいたことを言い、やはり予想通りその後にエラを殴り倒し、外に締め出して老人たちに襲わせようと企てます。

エラ(右)とキム(左)(映画.comより引用)

このエラとキムの会話シーンは正直丁寧過ぎるというか、このあとの展開のためにあえて用意したセリフのような気がしました。この会話がなくても、それまでのキムの表情などでエラに何をするかはなんとなく予想ができるので個人的には無くてもよかったのでは思ってしまいました。

見る人によっては説教臭さを感じるかもしれませんが、ある程度はエンタメとして昇華しているため個人的にはそこまで気になりませんでした。
「ドント・ブリーズ」(’16)や「ロンドンゾンビ紀行」(’12)みたいにヤバい老人が登場する作品やおじいちゃんおばあちゃんがワチャワチャしてる作品が結構好きなので今作も楽しめました。

☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。

渋谷裕輝 公式HP↓


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集