全ての犯罪が許される日、あなたならどうする?暴力の裏に隠されたメッセージとは「パージ」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(686日目)
「パージ」(2013)
ジェームズ・デモナコ監督
◆あらすじ
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犯罪が激増し、刑務所は犯罪者であふれかえるアメリカ。政府は対策として年に1度、12時間だけ殺人を含むいかなる犯罪も認めることにする。警察は出動せず、病院は医療活動を行わない。人々は一夜だけ罪の意識を感じることなく過ごせるのだ。暴力と犯罪が横行する夜、ジェームズ・サンディンの家に見知らぬ男が助けを求めにやってくる。(Filmarksより引用)
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『年に一度、12時間だけ殺人等全ての犯罪が許される日“パージ”。そのパージの夜、助けを求めて彷徨うホームレスを招き入れたことで主人公一家に悲劇が訪れる』
という、なんとも穏やかではない暴力的な内容ながら、その裏には「この映画を通してあなたは社会に根付く経済格差や貧困問題とどう向き合っていきますか?」という問いかけがあるように思いました。これはすごく良い作品ですね。面白かったです。
作り手側がこの作品に込めたメッセージや生み出した意図みたいなものがしっかりと感じられる優れた作品であるとともに、決してただのバイオレンススリラー映画ではないということが伺えます。
今作は2013年に発表(日本では2015年)された作品で、そのセンセーショナルな内容は世界中で賛否両論を巻き起こしました。
ですが!ご覧になられた方ならお分かりの通り、そもそも映画としてのクオリティが高く、先述したようにただのバイオレンス映画とは一線を画しています。そのため一定の支持が得られているようで、その後しっかりシリーズ化(今作含め5作)しました。
監督を務めたジェームズ・デモナコ氏は今シリーズの3作目までは監督•脚本両方を担当し、4.5作目に関しては脚本のみを担当しております。長編映画のキャリアのスタートしてはフランシス・コッポラ監督の「ジャック」(’96)の脚本であり、2008年に「ニューヨーク 狼の野望」で初めて監督と脚本の両方を担当しました。この作品の主演はイーサン・ホーク氏で、おそらくはその縁もあってか今作でもホーク氏が主演を務めています。
製作費は300万ドルとかなりの低予算ながら、興行収入は8900万ドル超えと大ヒットを記録しております。ちなみに製作会社は「パラノーマル・アクティビティ」シリーズや「ヴィジット」(’15)等など低予算ホラーに定評のあるブラムハウス・プロダクションズです。
話は少し逸れますが、私は数年前にホラー小説にハマっている時期がありまして、特に「粘膜人間」(著者:飴村行)という倫理観が蹂躙されるエログロホラー小説に衝撃を受けていました。人に勧めたら確実に人格を疑われるようなお話なんですけども、私は構わずにめちゃくちゃ布教していました。そんな折に出演した舞台の演出家の方が「じゃあパージっていう映画も好きだと思いますよ」と言われ、その時はあまり映画を見る習慣が無かったので「今度見てみますね」ぐらいで話は終わりました。しかし、つい最近その時のことを思い出し、探してみたところNetflixで視聴可能ということだったのでさっそく見させてもらった次第であります。
195cm105kgの巨漢暴力小学生と凶暴な河童三兄弟が殺し合うお話です。ホラー小説でオススメを聞かれたら私はいつもこの作品を挙げています。
ということで現在Netflix、U-NEXTにて配信中です。
まずは今作における一番重要な要素である“パージ”とはなんなのかというのをまとめさせていただきます。
☆パージとは
といった感じでしょうか。
このパージ法の非常にもどかしいのが、『殺し合いたい奴等は勝手に殺し合ってろよ』では済まされないということです。
主人公一家(サンディン家)のように裕福な上流階級の人達は前もってセキュリティを強化して、監視カメラで周囲を常にチェックしたり、頑丈なシャッターで窓や扉を全て塞いだりして、侵入者への対策を整えてどうとでもやり過ごすことができます。
しかし、貧困層の方々はどうでしょうか。
サンディン家のようにセキュリティを充実させるお金など当然なく、その日の生活を送るだけで精一杯の家庭もあれば、失業して家を失った方だってたくさんいるはずです。実際、作中でも『パージ法は自衛できない貧困者や病人たちの排除が目的なんじゃないか』や『社会に貢献できない人々の撲滅が何よりの経済救済だ』と問題視されており、貧困層の方々が多く暮らす地域での被害が特に多いと言われています。
この観点から考えるとパージ法は『嫌いな奴らをぶっ殺せるぜ!ストレス発散!』のような単純なものではなく、『貧困層を切り捨てて経済を回復する』というのが目的なんだと思われますが、これもまた別の根が深い問題を生み出すように思います。
そして何よりも恐ろしいのが『国民がこのパージ法を“当たり前のこと”として受け入れている』ということです。参加するにしろしないにしろ、中流階級以上の国民はパージ法の恩恵を少なからず受けているため、みんながみんな自分の心に蓋をし、良い部分にだけ目を向けて、パージ法を受け入れているという現状は異常ですが日常に溶け込んでしまっています。
本編の内容としては
という流れになっており、非常に分かりやすい内容です。
「サンディン家対パージャー集団」というシンプルな構図になりそうなところに、家の中に潜むホームレスや長女•ゾーイの彼氏の存在によって上手いこと話が展開するため、見どころとも思われるパージャー集団との攻防は本編が始まってから60分過ぎなんですけども、それまでの過程がめちゃくちゃ面白いです。
ゾーイの彼氏は「今日こそ君のパパに交際を認めて貰うよ」や「明日の朝まで時間はあるからゆっくり話し合える」等と言っておきながら、いざジェームズを見つけると隠し持っていた銃を何の躊躇いもなくすぐさま発砲するなど、「日頃から交際を認めてくれないジェームズを恨んでおり、この機会に殺してやろう」という明確な殺意が見て取れます。
ジェームズに反撃されてあっけなく彼氏は命を落とすんですけども、仮にジェームズを殺せたとして、その後自分とゾーイの関係がどうなるかとか考えないんですかね。ゾーイだって“自分の父親を不意打ちで殺したヤツ”とそのまま交際するわけないでしょうに。
ホームレスの存在も非常に良いアクセントになっており、助けてもらっておいて、引き渡されないようにゾーイを人質にしたりと自分が助かるためには暴力も厭わず、拘束されても抵抗し続けるなど生への執着を見せます。
そんな彼に暴行を加え、無理矢理拘束してパージャーたちに引き渡そうとするジェームズと妻•メアリーの姿を見ていた子供たちは「外にいる奴らと何も変わらないよ」、「もう今の関係性ではいられない」と言い放ち、この騒動や子供たちの発言で己の考えを改めたジェームズは家族を守るためにパージャーたちと戦うことを決意します。
これだけの濃密な人間ドラマを見せてからのパージャーとの壮絶な戦いを迎えるので、当然盛り上がりますし、このアクションシーンも相当気合が入っています。しかもそこで終わらずにもうひと展開あるのがまた憎らしいです。
メアリーがご近所さんの顔面をぶっ潰すシーンは胸がスカッとするとともに苦々しい気持ちにもなりますし、あまり良い気分になる終わり方じゃないのが作品のテイストにもマッチしており、とても良かったです。『どこか冷え切ってバラバラだったサンディン家がパージ(殺人)を経て、その関係性や絆が修復されていく』というのがなんとも皮肉というか、つくづく脚本の妙を感じられます。
これはシンプルながら本当に良い作品でした。オープニングとエンディングを除くと80分ほどの尺なのでサクッと見られますし、相当面白いと思います。このシリーズは今後も追っていきます。オススメです!
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
渋谷裕輝 公式HP↓
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