見出し画像

ゾンビが蔓延る世紀末!安寧を求める少女2人の壮絶哲学ロードムービー「ワールドエンド•サーガ」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(749日目)

「ワールドエンド•サーガ」(2018)
カロリーナ•ヘルスゴード監督

◆あらすじ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
原因不明の病原菌により人類の大半がゾンビ化し、壊滅状態になった世界で、ドイツのワイマールとイエナの2つの都市だけがかろうじて存続していた。ワイマールの住民たちはゾンビを殺害することに執念を燃やし、一方のイエナでは治療薬の研究が進められていた。ワイマールに暮らす少女ビビは厳しい規律のコミュニティに疲れ果て、イエナに向かうことを決意。同じくイエナを目指す少女エバと出会い、道中をともにするが……。(映画.comより引用)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『ゾンビによって壊滅した世界において、かろうじて存続している都市の息苦しさに疲れ果てた主人公。彼女は道中一緒になった同年代の少女と共に別の都市を目指して旅に出る』

というドイツ発のゾンビパンデミックものなんですけども、あくまでも今作のテーマは『少女2人が旅を通して気づいていく命の尊さ、そして死とは何なのか』であり、ゾンビは添え物程度です。なもんでゾンビ映画として見るとやや物足りなさは感じると思います。

ですが作中における哲学めいたセリフの一つ一つに作り手がこの作品に込めた思いがこれでもかと凝縮しており、非常に考えさせられる内容となっています。映像や音楽にも並々ならぬこだわりを感じますし、ほんの些細な一言が核心を突いてくる感じが「星の王子さま」のようでもありました。

主人公のビビ(右)とエバ(左)(映画.comより引用)

•「あなたの居場所はこの世界のどこ?」

•「あいつら(ゾンビ)と一緒。目的もなく彷徨うクズだ」

•「死ぬ勇気があるなら生きる努力をしなさい」

•「私は石だ。生と死を見てきた」

等など、それ単体で聞くと?となるようなセリフも本編を全て見たうえで考えると「そういうことなのかな」と伝わってきますし、そこまで直接的なセリフでもないため説教臭さもあまり感じませんでした。

メッセージ性もありますし、個人的には結構好きな作品ではあります。ですが正直なところ、悪い言い方をすればそこだけの映画というか、ストーリーは大分薄味かつ抽象的でふわふわしてますし、クライマックスの見せ場もあっさりしすぎてて非常に勿体なかったです。

自然の風景が美しいです。(映画.comより引用)

少女2人のロードムービーとしてもゾンビ映画としてもどっち付かずというか少々中途半端な印象で、映像や音楽があまりにもキレイなので全然見れてしまうんですけど1本の映画としてはやはり物足りなかったです。

感覚的には映画というよりも映像の芸術作品のように思いました。もちろんそれが悪いわけではないんですけど、2人のロードムービーとして作るならもっとドラマ性や起承転結は欲しいところです。

また、ゾンビはあくまでもオマケなのでそこまで登場回数は多くないんですけども、なぜか異常なまでにクオリティが高いです。さらにアクションシーンなんかのカメラワークも素晴らしく、普通にもっと“対ゾンビ”も見てみたかったです。

2度に渡り登場するウェディングゾンビ(映画.comより引用)

監督を務めたカロリーナ•ヘルスゴード氏に関しては今作以外の情報がまったく出てこず、また脚本を担当したオリヴィア•ヴィエウェグ氏も同様でした。もし何か両氏に関する情報をお持ちの方は是非コメント等で教えてください。

カロリーナ•ヘルスゴード監督(映画.comより引用)

トロント国際映画祭やプチョン国際ファンタスティック映画祭、エディンバラ映画祭など各国の映画祭にて上映され、何か賞を取ったという記録はありませんでしたが軒並み高評価だったようです。

現在アマゾンプライム、U-NEXT、Leminoにて配信中です。個人的にはかなり好きな世界観の作品だったのでまた同監督の別の作品も拝見したいです。

Amazon.co.jpより引用

◇原因不明の病原菌が蔓延し、多くの人々がゾンビと化した。世界は崩壊し、ドイツではワイマールとイエナという2つの都市だけがかろうじて存続しており、生き残った人々はそれぞれの都市で苦しい生活を余儀なくされていた。ワイマールではゾンビ殲滅に全精力を注いでおり、逆にイエナではゾンビに対する治療薬の研究に勤しんでいた。ワイマールで暮らすビビは妹の死を自分のせいだと責め続け、精神的にも弱っており、またワイマールの厳しい規律に限界を感じていた。そんな折、彼女はイエナに行こうとこっそり都市を抜け出し、道中で同じくイエナに向かっていたエバと出会い、旅を共にする。

というのが今作の細かめのあらすじです。

主人公のビビ(映画.comより引用)

今作の目的は『ビビとエバが穏健派の都市•イエナに無事に辿り着くこと』ではあるんですけども、どちらかというとその道中で2人に友情が芽生え、様々なものを見て、聞いて、知って、“生き死に”というものと向き合っていくというのが今作の軸です。

なもんで別にイエナに辿り着けるかどうかはそんなに重要じゃないんだと思います。あくまでもその過程が大事なのであって、何だったらべつにどこを歩いてようが、立ち寄ろうがそんなに変わらないんだと思います。

もう一人の主人公•エバ(映画.comより引用)

ビビは自らのせいで妹がゾンビになってしまったことを悔やみ続け、精神的にも参っており、頻繁に妹の幻覚を見たり、その時の光景がフラッシュバックしてパニックを起こしてしまいます。ワイマールでの生活に息苦しさを感じており、またもしかしたらどこかにいるかもしれないゾンビとなった妹を見つけたいという目的もあります。

仮に見つけたからといってどうなるものではないですし、ビビ自身もそれは重々承知のうえで、謝りたい、自身の罪を償いたい、引いては死に場所を探すための旅だったのかもしれません。

またエバはワイマールでバリケードの作製等を精力的に行っており、周囲から頼られる存在でした。しかし彼女は彼女でゾンビパンデミックの際に自分が助かるために多くの人々を見捨てたことに後悔の念を抱いており、周囲が思い描く自分と本当の自分との間にある大きな差にプレッシャーや違和感を覚えていました。

そんな折、作業中にゾンビの急襲を受けたエバは仲間を守ろうとして自身も負傷してしまい、「いずれはゾンビになる定め。ならば一人でひっそりと死のう」とワイマールを出たのでした。

映画.comより引用

死にたいけど生きているビビと生きたいけど死んでしまうエバ。理由は違えど死に場所を求めていた2人が偶然旅を共にすることとなり、友情が芽生えていきます。しかし、死にたくないのにいずれはゾンビになってしまう運命のエバからすると、生きているのにウジウジと妹のことを悔やみ続けているビビの姿はかなりフラストレーションが溜まるのでしょう。

そんなビビに対して「あんたはあいつら(ゾンビ)と一緒!目的もなく彷徨うクズだ」等と酷い言葉を放ったり、時には暴力を振るうなど、いくら強気で大人びたエバも死に対する恐怖には抗えないという生死に関する生々しさがダイレクトに伝わってきました。

その中でも、ゾンビになった自分がビビを襲わないようにとあえて突き放して別行動を取ろうとするなど不器用な優しさも垣間見えます。

謎多き庭師(画像右)(映画.comより引用)

個人的によくわからなかったのが中盤に登場する庭師の存在です。

別行動を取ることになったビビをゾンビから助け、「あなたの居場所はこの世界のどこ?」や「死ぬ勇気があるなら生きる努力をしなさい」等など、哲学めいた発言をする謎の女性なんですけども、彼女がストーリー上においてどのような役割を担っているのかががいまいち分かりませんでした。

なぜか彼女の敷地にエバが埋められており、ビビに対して「留まるなら時間をあげる」と言い、彼女がエバに果物を食べさせると意識を取り戻します。

おそらくは何かしらのメタファーだったり、比喩なんだと思いますが、ここだけちょっと分かりにくかったです。彼女の顔の右側には植物が生えており、これは物語の終盤で妹の死体を発見したビビが横で眠りについた際にも同じようなものが生えました。

また、「留まるなら時間をあげる」というのも、この場所に留まるならということではなく、「命を絶たずに現世に留まるなら、エバとの残された時間をあなたにあげる」ということなんじゃないでしょうか。

これらのことから鑑みるにあの庭師は人間ではなく神様とかそういった類の存在で、生きようか死のうかとグラグラしていたビビだからこそ出会えた存在だったのかもしれません。

ゾンビは走るタイプです。(映画.comより引用)

最後に残されたわずかな時間。2人は旅を続けますが、道中で通りがかったダムで大勢のゾンビに追われてしまいます。

エバは自身の死期を悟り、ビビを逃がしてゾンビに襲われるのですが、このシーンが元々用意されている感じというか作為を感じてしまいました。それまでにストーリー上での2人のやり取りや気持ちの積み重ねがあればかなり良いシーンになると思うんですけど、ストーリーが割と薄味なので、このクライマックスだけが独立しているように見えました。

『その後、一人ぼっちの状況でゾンビに襲われたことで猛烈な生に対する渇望を見せたビビはゾンビを撃退し、生きることを決意する。そしてエバ(おそらく幻覚)と共に遠くに見えたイエナへと向かって再び歩き始める』

というところで物語は幕を閉じます。

この終わり方はすごく前向きにも取れますし、もしかしたらビビもゾンビに襲われた時に命を落としており、魂だけの状態でエバと再会したのでは…という切ない終わり方にも取れるので個人的にはすごく好みでした。

伝えたいテーマはこれでもかと伝わるんですが、それが先行しすぎて内容が後回しになってしまった感は否めませんでした。個人的には結構好きなんですけどハマらない人もかなりいると思います。

☆ホームページ開設しております!
もしよかったら覗いてやってください。

渋谷裕輝 公式HP↓


いいなと思ったら応援しよう!