拳で霊に立ち向かう最強ババアの太極拳無双!白石晃士✖押切蓮介の黄金タッグが実現!「サユリ」現在上映中【ホラー映画を毎日観るナレーター】(628日目)
「サユリ」(2024)
白石晃士監督
◆あらすじ
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念願の一戸建てに引っ越してきた神木家。夢のマイホームでの生活がスタートしたのもつかの間、どこからか聞こえる奇怪な笑い声とともに、家族が一人ずつ死んでいくという異常事態が発生。神木家を襲う恐怖の原因は、この家に棲みつく少女の霊「サユリ」だった。一家の長男・則雄の前にもサユリの影が近づき、則雄はパニック状態に陥る。そこへ認知症が進んでいるはずの祖母・春枝がはっきりと意識を取り戻して現れ、「アレを地獄送りにしてやる」と力強く言い放つ。則雄は祖母と2人、家族を奪ったサユリへの復讐戦に挑む。(映画.comより引用)
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公式サイト↓
『ババアが最強の作品にハズレ無し!』です!
私の敬愛する白石晃士監督と、これまた大好きな漫画家の一人である押切蓮介先生の夢のタッグが実現しました!
もうその事実だけで感涙ものなんですけども、鑑賞前から楽しみすぎて自分の中でハードルがかなり上がっておりました。大抵そういった場合、それなりに楽しめはするものの、自分で勝手にハードルを上げ過ぎたせいでいまいち満足感が得られず、モヤッとしたまま帰路に着くことが多いです。
ですが、ご安心ください!
どれだけハードルを上げていたとしても今作はそのハードルを余裕で超えてきます。助走無しで軽く跨いできます。それくらい面白かったです!なんなら「私の感想なんか読まずに今すぐ劇場に駆け込んでください!」と言いたくなるくらいです!本当に最高です!!
原作は押切蓮介先生によって2010年よりコミックバーズにて連載されていた「サユリ」です。
単行本は全2巻と短めではありますが1巻ではガッツリホラーを、2巻では人間による復讐劇をそれぞれ描いており、とても全15話とは思えない濃厚な内容となっております。2015年には完全版も発売されており、Kindle版だと639円ととてもお得です。
押切先生は邦画ホラーの終わり方がいつも負け戦であることに対して前々からモヤッとしており、人間側が霊に対して一矢報いるジャパニーズホラーはないものかと思っていたそうです。しかしいくら待てどもそういった作品は現れなかったため、ならば自分で作ってしまえと思い立ち、漫画という形で「サユリ」を生み出しました。先生曰く、自分の著作の中で一番好きな作品だそうです。
そして、そんな「サユリ」を読んだ白石御大は「これを映画化するのは絶対に自分だ!」と入れ込むほどこの作品にかなり強い思いがあったようで、5年以上かけて企画を進めていき、映画化にこぎつけたそうです。
停滞しているJホラーをブチ壊す、新時代のホラーを目指しました。恐怖と絶望とユーモアと興奮と感動を、ぜひ劇場で味わってください。刺激強めのカオス味、後味は意外と爽やかかもしれません!(sayuri-movie.jpより抜粋)
というコメントに偽りなしです。こういうのが見たかったんです。白石監督、本当にありがとうございます。
『とある一家が引っ越してきた中古の一軒家。楽しい時間もつかの間、家族が一人また一人と不可解な死を遂げる。この怪現象の裏にはこの家に住み着く少女の霊が関係していたのだった』
という大筋だけを見るとよくあるジャパニーズホラーです。この場合、大抵は
『主人公が第三者(一連の事件を追う記者など)と協力してその家に隠された真実にたどり着くも、霊の呪いから逃れることは出来ず命を落とす』
という着地の仕方がベターというか、後味の悪いジメジメとした如何にもなジャパニーズホラーです。もちろんこれはこれで面白いですし、この黄金パターンがあるからこそ、それを良い意味で崩せるわけなのでいつまでもあって欲しい日本の御家芸だと思います。
そして今作はこの王道を良い意味で崩した意欲作であり、このパターンは今後増えていくのではないでしょうか。
『中古の一軒家に引っ越してきた神木家に襲いか掛かる怪異。父に始まり、祖父、弟、姉、母と次々と最愛の肉親を失った長男•則雄。この家に棲み着く少女の霊“サユリ”は悲しみに暮れる則雄にも忍び寄る』
というこの前半パートは原作で言うところの1巻にあたり、作者の押切先生曰く、ここで読むのを止めてしまった方が非常に多かったそうです。こんな素晴らしい王道展開で続きが気にならない人の気がしれません。勿体ないですね。
『サユリの魔の手が忍び寄る則雄。そこへ認知症が進行しているはずの祖母•春枝が突如覚醒!霊を撃退し、則雄を奮い立たせ、家族への弔い合戦を繰り広げる』
という、「これぞ押切蓮介ワールド!」、「これぞ白石晃士監督!」と映画館で思わず叫びたくなる最高過ぎる中盤へと入っていきます。
最強過ぎる春枝おばあちゃんはとにかく魅力たっぷりで
映画序盤では家族の名前を間違えたり、食事中に誰もいない吹き抜けの2階に向かって「何が可笑しいんだ!」と叫んだりする等、ボケが進行している普通のおばあちゃんです。
それと同時に、父親が死んだことを伝えてきた則雄に対して「親に向かって死んだとは何事だ!」と関節をきめるなど、元気だった頃の厳格さと強さは健在です。
太極拳の師範でもあり、老いてボケてもなお、この家に棲む霊の存在に気づいていた春枝は長い眠りから覚めたかのように突如覚醒。咥えタバコで料理を作り、落ち込む則雄を奮い立たせてたらふく飯を食べさせます。
「食べて命を濃くしろ。ヤツに報いるワシらの唯一の武器はなんだと思う?生命力じゃ」
と、その日から霊に対抗するために則雄の修行が始まります。ホラー映画なのに主人公の修行シーンがあるんです。少年漫画みたいです。朝はランニング、そして春枝と太極拳の特訓に筋トレ、家をキレイに掃除して腹一杯飯を食べて、ぐっすり眠る。
前半の鬱々とした展開からこの修行シーンでガラッと雰囲気が変わるのでめちゃくちゃ面白いです。『心と身体を強くすることで霊に付け込まれないようにする』というのは理にかなっていますし、こういう緩急ってやっぱりお客さんを飽きさせないためにも大事だと思います。
サユリの霊に対して何か生命力に溢れる言葉をぶつけてやれと春枝に言われた則雄が「元気ハツラツ!オ◯ンコマンマン!」と大声で叫ぶシーンは一見フザケているようにも見えますが、家族を失い、それでもなお立ち上がった則雄の心の強さが表れており、個人的にはかなり胸が熱くなりました。
ちなみに、原作でも春枝はめちゃくちゃ強いですが特に何か武術の心得があるなどの設定や描写はありません。今回の映画化にあたり、押切先生の方から「カンフーをするのはどうだろうか」と提案したところ、白石監督が「生命力という原作の重要な部分とも合致する太極拳はどうか」と意見をすり合わせたことで春枝の太極拳無双が実現しました。
霊感が強く、八神家の異変にもいち早く気づき、則雄の身をずっと案じていた同級生の住田の存在もとても大きかったです。
原作よりも恋愛要素が強いこともあり、完全にヒロインポジションとなっている住田はとても健気で真っ直ぐで、則雄の心の大きな支えとなります。終盤ではサユリに取り込まれてしまうも、則雄の「好きな女の子を助けたい!ヤりたい!」という気持ちに火をつけ、結果的にサユリ撃退の大きな一因となりました。
原作におけるサユリは
『何年にも渡り自室に引きこもっており、家族に暴力を振るったことがきっかけで父、母、妹の手で殺害されて庭に埋められる』
という設定です。
映画版では
『幼少期に父親から性的虐待を受けており、醜くなればこんな辛い思いはしないはずと自室に引きこもり、ひたすらにお菓子を貪りブクブクに太り、別人のようになる。数年後、母親に暴力を振るったことがきっかけで家族全員に取り押さえられて首を絞められ死亡。庭に埋められる』
というふうになっており、その後『サユリの家族は引っ越し、何事も無かったかのように新しい生活を始め、売りに出されたその家に住んだ人々はサユリの怨念によって次から次へと不可解な死を遂げていた』と繋がっていきます。
見比べていただけると分かる通り、サユリが死ぬまでの生い立ちがかなり異なります。
映画版のようにドラマ性のあるバックボーンにすることでサユリの存在がより立体的になり、感情移入が出来るとともに物語に厚みが増しているように感じました。後半で春枝によって拉致されてきたサユリの両親と妹がボコボコにされたり、殺されたりする展開には胸がスカッとしますし、すごく良かったと思います。
ですが個人的に、ドラマ性を持たせるための要素として性的虐待を出してくるのが正直駄目でした。シンプルに嫌な気持ちになりますし、それによってサユリが自身を醜くするために髪の毛を切ったり、お菓子を食べ続けてブクブクに太り、吹き出物だらけの怪物のような見た目になるのは胸が痛みました。
その怪物のような見た目のサユリが襲い掛かってくるのは画的にはインパクトがあるんですけど、原作の通り、恨みが強くて異形の者と化してしまったという感じでも良かったと思います。
サユリのバックボーンだけ私はちょっと無理でしたが、それ以外はもう完璧じゃないでしょうか。化け物を車で轢く作品を撮ってしまう白石晃士監督と暴力で霊を撃退する漫画を描く押切蓮介先生のタッグは相性がめちゃくちゃ良いですし、最初から最後まで作り手側の『こういう作品を撮りたい』という明確なビジョンが伝わってくる素晴らしい作品でした。これは是非とも映画館で見ていただきたいです。オススメです!
☆この度ホームページを開設しました!
もしよかったら覗いてやってください。
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