『オッペンハイマー』は核開発をめぐる政治ドラマ
今一番話題になっている映画、『オッペンハイマー』を観てきた。
ひとことで言うと「核開発をめぐる政治ドラマ」で、知的なセリフ劇である。テンポ良く怒涛のように物語が進むので、3時間という長さを感じさせない。
ロスアラモスでの実験の描き方一つとっても、クリストファー・ノーランの才能全開で、映像作家としての圧倒的な力量を感じさせる。俳優の選び方もよく、エンタメとはかくあるべきという見本のような作品だ。娯楽性と社会性を両立させてこそエンタメである。
原爆を扱う作品となると、日本人としては被害の大きさと贖罪意識を期待するが、これは政治ドラマなので、そういうものを期待しても無駄だ。
私は最初から期待していなかった。でもその割には、原爆の被害を暗示していたかなという感じ。嬉しい誤算だったのは、東京大空襲の被害について言及されていたことだ。
ただシネコンは今、音量がすごい。私はTOHOシネマズで観たが、配信で何でも観られるようになったからこそ、シネコンは特別な体験を提供することに注力している。
イオンシネマズとツートップのTOHOシネマズは「轟音シアター」を標榜していて、音が心臓にまで響く。圧倒的な没入感を売りにしている。
ライバルはゲームなのだろう。今はとにかく、すぐに没入できるものが人気だ。これはつまり、読書からどんどん遠ざかっているということである。
その世界に入るために積極的な姿勢と努力が必要な作業は、全て疎まれる。だから映像全盛なのだが、それすら短いものが好まれて、TikTokやYouTubeショート、リールだらけ。
これって退化の過程ではないだろうか。人類はこれからどうなるのか。中産階級を支えてきた読み書き能力が退潮し、国民主権も民主主義も退潮し、一部のグローバルエリートが支配するようにならないことを願う。
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