マークの大冒険 「カエサルとの別れ」
DAY:紀元前44年3月15日
ローマ、元老院議場にて
***
「カエサル、この先にはボクらは行けない……」
マークは憂いを帯びた表情で、震えながら声を発した。
「そうか。では、別れの時だな」
「今ならまだキミも引き返せる」
「わかっている。占い師もそんなことを言っていたな。私の身に危険が起こると。だが、これがローマ人のあるべき姿。ここで逃げる腰抜けは、このまま生きていてもローマを変えることはできない。さあ、今までの報酬だ。俺のデナリウスが欲しいと言っていたな」
マークの手に複数枚の銀貨が手渡された。カエサルの手から体温が伝わってくる。生きている。そんな彼がこれからまもなく暗殺されるとは、マークには思えなかった。
カエサルの肖像
カエサルが終身独裁官に就任した年に発行されたデナリウス銀貨。発行期間はわずか二ヶ月間。最高神祇官の衣装をまとい、フードをかぶっている。
ウェヌスの肖像
カエサルが属するユリウス氏族の守護神ウェヌス。愛の女神としてギリシア神話ではアフロディテの名で登場する。彼女の息子がトロイアからイタリアに逃れ、ローマの前衛となる都市を築いたという。ウェヌス の肖像は、カエサルの三番目の妻カルプルニアをモデルにしていると考えられている。
ウェヌスの肖像とクピド
同じくユリウス氏族の守護神ウェヌスを表しているが、彼女の首元に息子のクピドが小さく描かれている。一説ではクレオパトラとカエサリオンを暗示しているという。
クレメンティアの肖像
クレメンティアは寛容の女神。カエサルは寛容さをモットーにしており、一度争った敵でも降伏すればローマ人であれば許した。カエサルはコインにクレメンティアを刻むことで自らのモットーを宣伝した。
アイネイアスとアンキセス
ユリウス氏族の先祖とされるアイネイアスとアンキセス親子。アフロディテはトロイア王家のアンキセスと関係を持ち、アイネイアスをもうけた。アイネイアスはトロイア戦争の生き残りで、イタリアに亡命したのち、ローマの前衛となる都市を築いたという。この構図は身体が不自由な父アンキセスを息子のアイネイアスが担いでトロイアから脱出しているシーンだ。
象と蛇
象が蛇を踏み潰そうとしている。カエサルは象を自身、蛇をポンペイウスになぞらえ、勝利を予告している。当時のローマ世界では、蛇は悪の象徴とされ、象は力の象徴だった。
*新しいコインがマークのローマコイン図鑑に登録された。
「死など恐れて何ができる。アレクサンドロス大王は自ら先人を切ってインドまで攻め込んだ。槍を喰らっても突き進んだのだ。俺は世界の全てを手に入れるまで止まらない。ローマの元老院と市民のために!」
「カエサル……」
「この件が片付いたら、マーク、お前が言っていたインドより遥か遠く東の最果てにあるジパング地方に一度行ってみたいものだ。楽園の島国とはな」
「そうさ、ジパングは楽園さ。ボクらは空だって自由に飛べる。キミらは鳥のように自由に飛びたいといつも思っているだろう?地球の裏側の人間とだっていつでも会話できる。キミらは手紙が届くのが待ち遠しかったろう?二四時間開いているお店が数えきれないほどある。キミらは夜中に小腹が空いた時、ご飯が手軽に食べられたらと思っただろう?ボクらの世界では、それらが全て叶う。それだけじゃない、何だって叶うし、何だって手に入る場所さ。でも、それはキミらが築いてくれた文明のおかげなんだ」
「そうか、お前のその頼もしい妄想をぜひ確かめたいものだ。ローマを超える国が本当に存在するのか。だが、今はひとまず、あやつらにローマ人としての誇りを教えてやる時だ。俺はアレクサンドロス大王を超える伝説を残す」
「カエサル……!」
死亡フラグを立てまくるカエサル。瞳は黙っていられず叫び、歩み出した彼の肩を止めようとした。
「いや、瞳、これでいいんだ。行こう、歴史のシナリオには逆らえない。それに彼が自分の意志で決めたことだ。それは誰にも止められない。旅の目的はもう果たした。ボクらの仕事は、歴史の観測とコインの回収だ。特定の人間に感情移入し過ぎたり、深入りするのはよくない。議場の外にタイムドライブが停めてある。家に帰ろう。」
To be continued...
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【キャラクター紹介】
マーク
冒険家。古代オリエント文明を中心に研究・収集の旅を続けている。いつか自分も歴史に名を残す大発見をすることを夢見る。生活はカツカツだけど、期待と夢に溢れた毎日を送っているよ。自由と冒険、そして非日常。それこそが彼が追い求める最高にハッピーな人生だ。
瞳(ヒトミ)
冒険家のマークと共に旅をしている女の子。大きく綺麗な目から瞳と名付けられた。元気いっぱいで都内の私立女子校に通っている。明るい性格で友達も多いみたい。毎日楽しい学園生活を送っているよ。
Shelk 詩瑠久