【本】吹上奇譚 吉本ばなな
ファンタジーとリアリティのあいだを紡ぎ、その淡々とした日常にある光るものに焦点を当てて、視点や視野を優しく揺らす。吉本ばななの作品は、わたしのなかでそんな存在。
谷崎潤一郎賞を受賞した短編集「ミトンとふびん」もすごく好きだったけれど、やはり長編というのは、その物語の登場人物と会ったことがあるような、彼ら自身が自分の身近な存在として心に住んでしまうような作用があるもので、意識への残り方、自分のものの見方への響き方が、より深い。
第二章の「どんぶり」で、主人公のお母さんが、どんぶりを作り続けるエピソードがあり、それがほんとうに淡々としているんだけど、日々への光の当て方のようなものを感じられるのが泣けてくる。
ファンタジーなのに、生きる上での何か具体的な取り組み方がリアリティをもって心に迫ってくる。吉本ばななも敬愛する村上春樹が言う「物語の力」って、これのことだよね。
生きづらさを肯定してくれるだけで、救われるものがある。