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エリの結婚相手は殿下か?内木か?「チンプイ」『神界先生のお告げは?』/当たるも八卦当たらぬも①

「当たるも八卦当たらぬも八卦」という言葉がある。八卦とは占いのことで、占いは当たったり、当たらなかったりするという意味になる。

占いと言えば、子どもの頃から花占いだの、恋占いだの、星座占いだの、手相占いだのと、割と存在感の大きい身近な娯楽の一つだった。

良い占い結果を見たりすると気分も良くなるけれど、普段の生活に入ってしまえば、占いがどうだったなんてことは忘れてしまうものだった。子供ながらに、占いは全面的に信用できるものとは思っていなかったのだ。


子どもの世界を漫画の題材にする藤子Fワールドでは、「占い」を扱った作品も多数存在する。どちらかというと占いが当たらない話が多い印象だが、これは未来予知を扱った話とよく似ている。

藤子作品では予知能力者をンチキ扱いすることが多い。その流れでF先生は、占いについても、眉唾の方向に考えていたのではないかと思われるのだ。


そこで、「当たるも八卦当たらぬも」と題して、占いに関する作品を何本か取り上げていく。占いについて藤子先生がどのように捉えているのかを考察することにしたい。


「チンプイ」『神界先生のお告げは?』
「藤子不二雄ランド 宙犬トッピ」1989年11月10日発行

「チンプイ」を藤子Fノートで取り上げるのは実に10ヵ月ぶり。どんなお話か良く知らない方は、過去の解説記事を抜粋するので是非ご一読していただきたい。


非常に簡略的に書いてしまうと、「チンプイ」とはマール星の殿下にお妃候補として選ばれたエリちゃんを主人公にした、ある種のシンデレラストーリーである。

しかし見ず知らずの宇宙人と結婚したくないエリは反発することになる。そんなエリを説得するべく、チンプイが送り込まれ、その後も殿下の従者であるワンダユウがやってきて、あの手この手で興味を引き付けようとする。

各話、藤子F的な日常のSF(すこし不思議)が描かれるのだが、エリの気持ちの揺れが見所の一つとなっている。地球にも内木君というエリが好きな男の子がいる一方で、マール星殿下からの贈り物などにも心が動いたりもするのだ。


本作では、そんなエリちゃんの揺れる心に注目して読み進めてもらいたいと思う。

冒頭、エリちゃんが既にマール星のお妃になっている場面から始まる。朝起きると、動物の風貌の付き人たちが朝の支度を手伝ってくる。洗顔、衣装選び、そして朝食。

朝食会場には既にマール星の殿下が待っているが、その表情は真っ白で見えない。彼の言うには「もうすぐ見えてくるでしょう」とのこと。

朝食の場で、殿下に対して本日のスケジュールを読み上げられる。時間刻みの忙しいスケジュールなのだが、午後になると妙な予定が組み込まれてくる。

午後一時お庭の草むしり。落ち葉も集めてきれいに燃やしちゃって。窓ガラスを拭いて廊下にワックスを・・・

そこで目を覚ますエリ。ママがベッドの脇に立っていて、色々とお手伝いする約束なので早く起きろと小言をする。マール星の朝の模様は、全て夢であったのだ。


起きてすぐにエリはチンプイに、マール星で妃殿下になっている夢を見たことを告げる。そしてエリは、

「ま、それはいいんだけど・・・ひとつ気に入らないのは・・・夢の中の私がけっこうその気になっちゃってるのよね」

と複雑な気持ちを白状する。それを聞いたチンプイは、「ワンダユウさんが聞いたら喜ぶな」と嬉しそう。「とんでもないわ!!」とエリ。


朝食。ママやパパたちとテーブルを囲み、トーストなどを食べている。エリはたとえ話ということで、あることを家族に尋ねる。

「もしも私が遠い遠い・・・たとえば外国の人と結婚したいと言ったら、親としては当然反対するわよね」

これはもちろん、マール星の殿下との結婚を想定しての発言。すると冗談に聞こえたのかは定かではないが、両親は笑って答える。

「エリが心からその外国人を愛しているなら、それでエリが幸せになれるなら喜んでOKするさ」

全く反対の姿勢が見られないため、「物分かりの良すぎる親も頼りない」と落ち込むエリなのであった。


さて、落ち込んだ気分を変えるため漫画を読もうということになり、今日発売の「コミック少女」を買おうとするも、貯金が6円しかない。そこへ王室財務長官のフクワウチがやってくる。

フクワウチはエリの財産を管理・運用してくれている男(動物?)で、ときどき現在の財務状況を報告に来るのである。この日の報告では、所有している株が値上がりを続け、別荘用に買った星からはダイヤの鉱脈が出たとのことで、現資産は66億1420万ビクボルになったという。

日本の通貨で1億円ほど持ってきましょうかと提案されるが、エリは鉄の意志で断る。一旦マール星の世話になると、その延長上に結婚が待ち受けていることが直感できるからである。


エリは「コミック少女」ならスネ美がもう買って読み終えていると考え、家に向かうと、案の定、発売日前に特別ルートで取り寄せていた。お茶をごちそうになりながら、読ませてもらうことに。

スネ美は「コミック少女」の人気ページである「今月の運勢」の話題を振ってくる。エリも真っ先に読んでいるらしいが、スネ美はページを担当している神界仙子(しんかいせんこ)先生に直接会って見てもらったという。

忙しい先生のようだが、スネ美の父の名刺を出したら、すぐ霊視室に通され、いきなりズバリ指摘されたという。その内容は嘘モリモリという感じ。

・スネ美は控えめで内気な少女、でも明るいからクラスの人気者
・将来は作家になって芥川賞を受賞
・ベストセラーになって、スネ美の監督主演で映画化
・ある青年実業家とヨーロッパの貴族がスネ美の愛を巡って決闘する


スネ美に父の名刺を渡されるが、占いなんて迷信に決まっていると思うエリ。ところが家に帰り、庭の塀を飛び越えようとすると、うまく着地できず、「けがに注意」という今月の運勢が当たったように思う。

さらに、窓ふきをしているとワンダユウに「妃殿下!」と声を掛けられ、つい「何よ!」と返事をしてしまう。妃殿下になることを認めた形になって、「その気になられた証拠だ」とワンダユウに突っ込まれてしまう。


エリは思う。殿下か内木さんか、この宙ぶらりんの気分をはっきりさせたいと。そこで、スネ美に貰った名刺を手に、神界先生に占ってもらおうと出掛けていく。

陰気くさい雑居ビルの一室に神界仙子大聖堂がある。少しイメージ違って貧乏そうな外観である。スネ美の名刺の効果は抜群で、すぐに先生に見てもらえることになる。

神界仙子は黒いマント姿で妙な帽子とサングラス姿、首からは大型の真珠のようなネックレスを下げている。室内は煙が充満し、ミラーボールが怪しげに光っている。床には五芒星が描かれている。いかがわしさ100%の様相なのであった。


エリを一目見て、神界は

「あなたは頭が良くてデリケートで優しい女の子。でも元気がありすぎて周りの人たちに誤解されていますね」

と言葉を掛ける。エリは内心「ピッタリ」と思うのだが、これは第三者からすると持ち上げすぎで、こうやって掴みで相手を気持ちよくさせて、その後占いの言葉を信じさせる効果を与えているようにも思われる。


将来のことを見ていただきたいとエリが申し出ると、神界はわかっています」と言って手元の水晶を触り、ピンポ~ンと音が鳴る。そして出てきたお告げはこれ。

「素晴らしい!!こんな強力な結婚運は見たことがないわ。素敵な男性に熱烈に愛され結ばれるのです、それもごく近い将来に」

果たして、その相手とは・・・

「とっても素敵な男性よ。たとえば白馬にまたがった王子様・・・」

ガガーンと大ショックを受けるエリ。何とお告げでは、マール星の王子様である殿下がエリの相手だと言うのである。

放心状態のエリに霊視料10万が請求される。かなりの高額だが、財務長官から貰っていたお金で払うチンプイ。


エリは「自分の運命は遠い星の世界へお嫁に行くことかしら」と気を落とす。チンプイは、本来なら喜ばしい方向にも関わらず、エリの気持ちを汲んで、

「諦めちゃだめだよ。嫌なら嫌だと運命に逆らえればいいんだよ」

とエリの味方についてくれるのだった。


エリは家に帰る前に内木君に会うことに。内木は占いについてはあんまり信じないという見解。エリは「神界先生の占いは良く当たるのだ」と言うと、内木は「神界と言えば、さっき自分自身がお金をだまし取られたというニュースがあった」と答える。

人様の運命を見ることのできる千里眼の神界は、自分の運命を見ることができなかったことになる。これぞ典型的な自家撞着。占い師が全てを見通せるのなら、自分の運命も見通せるはず。

これは投資を人に勧める投資家や、馬券の予想をする予想屋を彷彿とさせる。わかってるんなら、お前がやれ、というアレである。

内木君と話すと気が軽くなって、不思議に明るくなるというエリ。エリのモヤモヤした宙ぶらりんの気持ちは、あっち行ったりこっち行ったりを、今後も繰り返していくのだろう。


さて、ということで本作の中で「占い」に対する藤子先生の一つの見解が示されている。それは内木君の「僕はあんまり信じないけどな」というセリフに込められている。

もちろん当たるも八卦なので、占いを信じるのも自由だが、当たらぬも八卦と考えておかないと、バランスを崩してしまうものなのかもしれない。



「チンプイ」なども考察しています。


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