見出し画像

30代男性、面接官になる。

最近、はじめて採用の面接官を担当した。

今回参加したのは、学生3人、人事部1人、私ともう1人の社員という、計6人が参加するオンラインでのグループ面接。就職活動の時期が年々早まっているような気がして、何だか気の毒だ。

ある意味、完璧

面接の時間が来る直前、事前に共有された資料をざっと読んだ。「こんなことを聞くのはNG」という注意書きがあり、最後には「学生に見られているという意識を忘れずに」という但し書き。

学生を覗く時、学生もまたこちらを覗いているのだ。怖い。

軽い自己紹介の後、早速質問タイムに入る。私ともう1人の社員で交互に、という指示で、最初は私から。

事前に考えていたいくつかの質問のうち、「最近ハマっていることや推しなどについて、簡単に紹介してください」という、ややトリッキーなものを選んだ。声が若干上擦ってしまい、恥ずかしい。

答えは何でも良かった。まだ緊張感があったので、アイスブレイクの意味も込めて、場が和んで喋りやすくなると良いなという、おじさんなりの配慮をしたつもりである。

一方で、一発目からこんなことを聞かれるとは予想していないだろうし、ちょっと困ってしまうかな、申し訳ないなとも思っていた。

しかし、そんな心配は無用だった。「待ってました」と言わんばかりの感じで、スラスラと答える学生。

淀みのない、完璧な受け答え。しかし、少しばかりの違和感。面接って、こんな感じだったっけ?

パズルゲームのような問答

その後も質問していく。最初にソフトな質問をしてしまったので、次はもう1人の社員から、志望理由などの固めなことを聞いてもらった。

また私に順番が回ってくる。どうにか、この予定調和な感じを崩せないだろうか。用意してきたセリフではなく、彼ら自身の言葉が聞きたい。

「あなたのチャームポイントは何ですか?」

これでどうだ!こんな質問は、あまりされないだろう。自信たっぷりに、「では挙手制で行きましょう」と促す。

これは、私が現在の会社に入社する際、1次面接で実際に聞かれた質問だ。もちろん予想していたものではなかったので、咄嗟に「かわいいところです」と答えて失笑をさらった。それでも面接を通過して入社し、その後10年近く働いているのだから、不思議だ。

しかし、この渾身の投げかけも効果がない。直感的に考えると「チャームポイント」ではないのだが、それに近い回答を瞬時に出してくる。用意していたカードの中から、最も適合率の高いものを選んで当てはめる、パズルのような感じだ。

もちろん、そのやり方が悪いとは思わない。私も、生来人前で話すのが苦手なタイプなので、気持ちもよく分かる。色々なパターンでシミュレーションをするのは大賛成だ。

だが、脳内に保存された台本を読み上げるだけだと、その人の考えや意思、人柄が十分に伝わってこない。完成したパズルの柄がよく分からないのだ。

面接が終わった後、人事に聞いてみたが、大体の人がこんな感じらしい。

台本があると、安心する

仕事柄、たまに企画のプレゼンテーションをすることがある。今の会社に入社して、はじめてプレゼンをしたのは新卒1年目の終わり頃だった。

周りの先輩たちがそうしていたこともあり、私も企画書のパワーポイントのノート部分に、自分が話すことの原稿を、一言一句漏らさず書いていた。

ものすごく緊張感していたが、初めてにしてはスラスラと話せたのではないかと思う。台本のおかげで、上手く「読み上げる」ことができた。

それが正解だと思っていたので、しばらくはそのやり方を続けていた。何なら、電話をする時に台本を作っていたくらいだ。取引先とのMTGでも、事前にちゃんと準備をしている時とそうではない時で、進行のクオリティに差がありすぎるというのが私への評価だった。

なので、できるだけ準備に時間を割き、脳内で話す予定の事柄を読み上げ、何度もシミュレーションを繰り返していた。

ある時、事情があって他の部署から移動してきた上司に、「それ、辞めた方がいい」と言われた。プレゼンの台本作りだ。

台本を読まなければ話すことができないということは、企画の趣旨や意図を理解できていないということだ。そんな風に言われ、妙に納得した憶えがある。

それからは、パワーポイントのノート部分に何かを書き込むことは無くなった。その代わり、何度も口に出して練習するようになった。

できるだけ簡潔に、大事なポイントに絞って伝えることを意識しながら3〜4回練習して、ようやく割り振られた時間内でまとまるようになる。さらに繰り返すと、段々と口が勝手に喋るようになってきた。

5年目の頃、鬼のようにプレゼンテーションをする機会があった。業績が芳しくないので、仕事をもっと獲得しなければいけなかったからだ。

機会が増えて、話す練習を繰り返すうち、言葉を発しながら、次に何を話すんだっけと考えることがなくなり、余裕が生まれるようになった。話しながら、プレゼンを聞いている人の表情や反応を気にかけられるようになった時、上司に言われたことが、私にとっては正解だったんだなと感じることができた。

キャッチボールがしたい

以降は、取引先とのMTGの場でも上手く話せるようになった気がする。プレゼンのように練習を繰り返すことはしていないが、あの頃のように用意した台本を読まなくても、自分の言葉で、自分の考えを伝えることができるようになった気がする。

どんなに緊張する人を相手にしていても、自分の方が圧倒的に弱い立場にいたとしても、普通に、自然体でやり取りする言葉のキャッチボールこそが、コミュニケーションだと思う。

上手くキャッチボールをするために、グローブにワックスを塗って磨いたり、手の爪をちゃんと切ったり、球の糸がほつれていないかを確認したり、準備をすることは大切だ。

でも、いざ始まって、自分のデータを取り込んだマシンに投げるのを任せてしまうのは、もったいない。

次回の面接では、本当の学生たちの姿を引き出せるように、もっと頑張ってみよう。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集