見出し画像

給食袋に忍ばせた10円玉のやさしさ

すっかり涼しくなったので、
学校帰りにお水をもらいに来る子どもたちは激減している。

それでも「ちょっと休憩」と称して、
私の生存確認をしに会いに来てくれたり、
そんな子たちが何人かいて、
そのやさしさに感動してしまうのである。

昨日の午後2時半、小雨。
小学低学年生が学校から帰って来る時間。
店頭に小学生らしき人影が。
それはいつものことなのだが、
ちょこっと時間が長いので見に行った。

水飲み常連の小学2年のアア君とササちゃんだ。
傘をさしながら2人で何かモソモソとしている。
「何してるん?」
「ササちゃんが給食袋から何か取ってって言うねん」
アア君はそう言いながら、
ササちゃんの右肩に提げている給食袋に手を突っ込んでいる。
「何を取ろうとしてるねん? 大丈夫か?」
「何を取ろうとしてるかは内緒やねん」
「内緒?」
何が内緒なのかよくわからないが、
2人ともニコニコしている。
「取れた!」
アア君はササちゃんに取った物を渡した。

そしてササちゃんは私に握った手を広げて見せた。
10円玉だった。
「おっちゃん、飴ちゃんちょうだい!」
なんとササちゃんは10円駄菓子コーナーの飴ちゃんを買いに来てくれたのだ。

どうやって給食袋に10円玉を忍ばせたのか、どういう気持ちで忍ばせたのか、それを考えただけでも感動や!泣けて来るぜ!

そう言えば昨日の学校帰りにも立ち寄って、
「おっちゃん、明日開いてる?」
「開いてるでえ」
「よかった」
なんて言ってたな。
このことやったんかな?

実はササちゃんは、
少し前まで学校帰りによく水を飲みに来ていた子だった。
しかし1ヶ月ほど前だろうか。
さっぱり来なくなった。
アア君が言うには、
「ササちゃん、お母さんに寄り道するなって言われて来られへんようになってん」
らしい。
ササちゃんのお母さんも今は中学生のお姉ちゃんも店に来たことがあるので、
大丈夫だとは思うのだが、
ササちゃんは言いつけを守って寄り道しなくなった。

しかし数日前から、
他の友だちが店に寄ったりするものだからか、
店の中でなく、外でお水を飲んだり、
私と喋ったりするようになっていた。
小学生の”寄り道”の解釈は、
店内に入ると寄り道で、外なら寄り道にならないのだ。

しかしだ。
学校帰りに飴ちゃんを買うのは買い食いってやつで寄り道の類だ。
もし誰か(友だち)に見られて告げ口されたらますますササちゃんは来られなくなる。
私は咄嗟に、
「アア君、このことは内緒やぞ!」
「うん!」
アア君は笑顔で返事をしてくれた。

ササちゃんは飴ちゃんを選び、
袋を開けて口に入れた。
「ゴミはおっちゃんに渡してな」
「うん。はい、これ」
とゴミを渡す。
「はい、ありがとな」
「おっちゃん、優しいな。そんなとこも私のお父さんとそっくりやねん」
ササちゃんのお父さんもぽっちゃり系なので、そんなとこ”も”となるのだ。
昨日、見た目が似ていることも言っていた。

すると、アア君が、
「えっ! じゃあササちゃんのお父さんも優しいん?」

マジか! こいつら、おっちゃんのこと、優しい人って思ってくれてたんや!
さりげなくめっちゃ嬉しいこと言うやんけ!
こいつら、ほんまにええやっちゃなあ。

学校帰りに飴ちゃん買うくらい別にええぞ。
責任はおっちゃんが取るからな!
どう取るんかは知らんけど。

帰り際、
「アア君、絶対今日のこと内緒やぞ!」
と念を押した。
「わかってるって!」
アア君は笑顔で言い返した。

アア君、信じてるぞ!

こんな子どもたちが増えたら、
世界から戦争なんて無くなるのになあって思った。

(らおばん)

いいなと思ったら応援しよう!

古本喫茶店主らおばん
ここまでお読み頂きありがとうございます。 頂いたサポートはお店の運営費として大切に使わせて頂きます。