U-NEXTで青春を観ている(わたしの星/赤色彗星倶楽部/台風クラブ/高校大パニック)
わたしの星
柴幸男の劇団ままごとによる2017年上演の作品。映画「花束みたいな恋をした」の劇中で触れられている(しかもなかなかハードな局面で)作品なので興味深く観た。そもそも、同じくままごとの作品である「わが星」を踏まえたものなので単体で語るのは少し難しいのだが、「わが星」があまりにも観たことのなさすぎる芸術表現すぎてぶっ飛ばされ続けた一方、「わたしの星」は「わが星」そのものがディストピア青春SFの世界に内包されており、普遍性を高めていたように思う。終わりゆく地球と学園生活を舞台に、星の寿命と少女の寿命をリンクさせた芝居が共鳴し合い、胸が締め付けられていく。
「わが星」は現在、YouTubeで公式に配信されているので是非とも。ラップミュージカルであり、示唆に富む会話劇であり、悠久の時間に手を伸ばすような超越的な体験になっている。「わたしの星」では、そんな壮大なスケール感をいい意味で"出し物"という地点にまで親しみやすくしていて、そのサイズ感がとても可愛らしい。しっかりとSF的な枠組みでありながら、その切なさや瑞々しさはどこをどう切り取っても紛れもない青春の一瞬で。どんな世界、どんな局面においても、そのモラトリアムの眩しさだったり、無為な時間の愛しさは変わらないのだな、と思う。映画では表現し得ない質感。
赤色彗星倶楽部
Base Ball Bearの小出祐介氏がレコメンドしていて知った映画。その縁で本作の武井佑吏監督はベボベの「Flame」も撮影していたりと、絶対にどこかで見ねばと思っていた作品。数十年に一度観測される赤色彗星の到来が近づき、「彗星が通り過ぎるときの強力な磁場でタイムパラドクスが発生する」という奇妙な学説を信じた高校の天文部のジュンと部員たちは、彗星と同じ物質の「彗星核」の創作に取りかかる、、、という非常にオーソドックスなあらすじ。文系部活動モノ+宇宙的なイメージとくれば確かにこいちゃんは好きそうだな、とその恥ずかしくなるくらいあどけない前半を見て想う。
ところが最大の見どころは後半にある。武井監督は「Flame」を撮った際のコメントに、ベボベリスナーであったことを記していたが、それがまざまざと分かるような刹那の切り取り方、そして自らの業と向き合うという描写の数々。音楽以外の面でもベボベチルドレンは生まれているのだな、とはっきりと分かる。『なにを忘れて大人になろうか』というキャッチコピーも秀逸。作品のその先に思念を飛ばすような凄みがあった。色々と特筆すべき点の多い映画だが、とりわけ劇中で演奏している学祭バンドがめちゃくちゃあの頃のギターロックという感じで恰好いい。あのシーンだけでも価値アリ。
台風クラブ
赤色彗星倶楽部の流れで観るならこれだろうと思ってついに手を出してみた相米慎二監督作品。同名のバンド(彼らはいったいセカンドアルバムをいつ出すのでしょうか)も大好きだし、たまには古典に触れてみるのも良いかと思い。台風の夜に高校生たちがめちゃくちゃ騒ぐ、という大雑把な捉え方をしていたのだけど、実際確かにそういう映画で。ただ、台風に至るまでの物語と群像劇の運び方が物凄く巧かったからこそ、めちゃくちゃ騒ぐというだけのピークポイントを意味のあるものに仕上げていて、なるほどこれは確かに残るべき名作だ、、!と。パンチのある画と、意味性の両立をひしひしと。
有名なシーンなんだろうけど、台風が明けた後の教室での「これが死だ!」はちょっとビビりあげるくらい良かったですし、あの鬱屈とした気分をエクストリームに打ち破るしかない時代性を思ったりもして。昭和の終わり、でも平成になっても令和になっても、だいたいずっと同じくらい退屈だし、たまに楽しいことがあるんだよ、と彼には語りかけてあげたくなる。あとところどころめちゃくちゃヘンなシーンが挟まれるのも不気味で良かった。工藤夕貴が商店街で出くわすアレとか、本当になんなんだろう、、となる。そもそも工藤夕貴の動かし方もかなり妙。手つかずの芸術性に痺れる映画だ。
高校大パニック
これずっと観たかった映画で。石井岳龍監督が石井聰亙の名義時代に自主映画で撮ったものをセルフリメイクしたもの。なんといっても、この映画の舞台が僕の母校なのだ。内容は、福岡博多の名門高校を舞台に受験ノイローゼに陥った男子生徒が盗んだ銃で立てこもり事件を起こすというもの。いやこれ、我が母校の九州大学合格を目指す空気感を知っていたらマジで笑えないというか、こうなっていてもおかしくない、と思わせるヒリつきがあって、妙な興奮を覚えてしまった。石井監督は同じ高校を1975年に卒業していてすぐにこの作品を作っているのでこの生っぽさはかなり現実に肉薄してる。
上は同窓会誌での石井監督のインタビュー。この高校で勉強しなかったカリスマ性は自分の歩めなかった道筋な感じで羨ましい。30年前と僕が卒業した時とでほとんど校風が変わってないというのはなかなかパンチあるなぁと思う。今もそうなのかな。クリエイティブな仕事をする人があまり出てこない高校なんで、その辺がブラックボックスなのも怖い。と、作品の感想には全然なってないけども悪い方向にぶっ放される衝動の塊、といったところでナンバーガールに影響を及ぼしたのも納得の狂暴で殺伐としたエネルギーがある映画だった。個人的には懐かしの街並みもあって、福岡帰りたくなった。
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