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舞台「アルプススタンドのはしの方 高校演劇ver.」、西から見るか?東から見るか?

僕は西から見た結果、東はどうなんだい、と気になりアーカイブで購入して東を見た組です。昨年、映画が話題となった「アルプススタンドのはしの方」。元々は高校演劇の台本が原作でそれを商業舞台用に奥村徹也(ゴジゲン)が脚色したのが映画の台本のベースとなったもの。映画のヒットを受け、原典である高校演劇版の台本を新しい演者と演出家で上演しましょう、というのがこの公演の趣旨。で、西か東か、というのは関西弁で書かれた台本で演じる関西チームと、標準語で書かれた台本で演じる関東チームという2つの座組があるという話。今回は両チームが日ごとに交互に上演する興行なのだ。

僕は現地では観ず、配信で鑑賞(アーカイブは1/18まで買えますよ)。そもそも舞台版自体を今回初めて観ることになったのだが、あらすじは映画と変わらず。甲子園の1回戦に演劇部の2人、成績優秀な帰宅部1人、元野球部1人がタイトル通り、アルプススタンドの端っこで繰り広げる会話劇。それぞれ抱える想いが試合の展開と重なりながら露わになっていく、、という物語の骨格がしっかりしているからこそ、どのような形態でも色褪せない良さがあるなぁと。映画でも登場人物の数は少ないが、舞台版ではメインキャラクター4人以外は登場せず、その他のキャラを想像させてくれる余白も良かった。

まず観たのは関西チーム。映画の台本を担当した奥村徹也の盤石の演出。映画は標準語だったはずだが、関西弁による丁々発止のやり取りが実にフィットしていて楽しく観れた。元野球部の藤野を演じるのが映画と同様の平井亜門なのでしっくり来るし、ヨーロッパ企画周りの作品で実績を積みまくってる藤谷理子が演劇部の田宮を凄まじい安定感で演じ切っていた。そしてびっくりしたのが、高校演劇の初演で演劇部の安田(実質の主人公)を演じた左京ふうかが同じく安田を演じていたということ。彼女にあて書きする形で当時の演劇部顧問が作った役なのだから、本当のオリジンじゃん、、と。実際に今、役者として活動している現在地を思ってすごくグッときながら観た。映画でも特別に印象的だった、成績優秀の宮下さんは映画と異なり、少し荒っぽくコミカルに仕上がっていたのが特徴的。彼女を演じた中井友望、覚えた。全体的にエネルギッシュで巧さが際立つ、完成度の高い公演だった。

そして、気になって観た関東チーム。こちらは北九州の劇団・若宮計画を主宰する若宮ハルが演出を担当。キャスト、演出含め18~22歳で揃えたフレッシなメンツによる公演だった。間を詰めたテンポのよい掛け合いと台詞の端々に宿る荒削りさがむしろその瑞々しさを際立たせ、高校演劇ver.を強く体現していたように思う。橋本乃依演じる田宮は不思議な雰囲気を纏ったきゃいきゃいしたキャラクターになり、犬飼直紀(「14の夜」の主演!)演じる藤野は素朴な魅力が上乗せされていた。三木理紗子演じる安田は終盤にとげとげしさが見えたのが印象的。すごくリアルな質感の芝居だった。そして我らが宮下さんは、蒼波純が演じていた。激しいモノをうちに秘めた、キビキビとした宮下さんはかなり新鮮。というか、関西版の中井友望もそうだけど、ミスiD出身者を宮下さんにあてるの、個性が際立ってめちゃ良いな、と。ある人に向けた、渾身の叫びのシーンが台詞が関東チームにはあって大満足。


映画はもちろんだが、2つを連続して観ると当然ながら関東チームと関西チームにも相違点がかなりある。宮下さんに話を聞かれそうになった時の安田と藤野のリアクションとか、倒れた宮下さんを介抱するくだりなど、それぞれにその演者に沿った演出が施してあってすごく良かった。立ち位置も細かく違うし、あのラストのポジションも演出家に任せられてるんだ!って思った。宮下さんがずっと階段上にいる関西チームと、藤野がずっと先導切ってる関東チーム、、どちらもエエなぁと。作品のメッセージはブレることなく、その出力の仕方が違うという楽しさ。どちらかだけ、でももちろんいいけどどちらも観ることで、演劇を組み立てる面白さがビシビシ伝わってくる。アルプススタンドのはしからどこまでも世界が広がっていくのだ。

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