2023年ベストアルバム トップ20
今年はびしっと厳選して20枚で1年を総括。ライブカルチャーの復権と揺れる世界、喜びも悲しみも猛スピードで切り替わる時流の中で、この音楽を聴いてる間はきっと大丈夫だ、と思えたアルバムを選びました。
20位 ROTH BART BARON『8』
三船雅也がドイツに拠点を移してからの1作目。ここしばらく毎年凄まじいアルバムをリリースし続てけいるが、本作はまた違う場所へ飛ぼうとする萌芽を感じた。エレキギターの印象を強めたサウンドメイクでじっくりと心揺らす前半と、「Ring Light」「Closer」「MOON JUMPER」などのダンサブルな躍動が光る後半。清廉な構築美とざらついた人間味の調和が美しすぎる。
19位 Galileo Galilei『Bee and The Whales』
解散、再結成を経ての6thアルバム。尾崎雄貴のソングライティングはBBHFやwarbearでも堪能できるし、彼の紡ぐメロディは久しぶりではないが、「I Like you」のソフトなアレンジや「ファーザー」の詩はまさにガリレオの続世界。彼らは経年進化を遂げていくバンドだったと7年越しに答えが出た。ラストを飾る「あそぼ」で我々は確信する。あの日見た闇は晴れたのだと。
18位 ART-SCHOOL『luminous』
活動休止を挟んで5年ぶりの10thアルバム。同世代のバンドが活動20年を超え、シンプルな欲求に立ち帰ろうとする中、アートはアートのままでずっとい続ける。「Teardrop」にある《僕の事を消さないで どんな傷も消さないで》という言葉で苦しみを見つめ、成長し成熟することだけが生きる意味とは決してみなさず、道からはぐれた魂の居場所としてアートはあり続ける。
17位 ano『猫猫吐吐』
元ゆるめるモ!、あのちゃんのソロ1stアルバム。ウェルメイドな電波系ガールズポップ文脈を継承しつつ、"誰が歌うか"で恐ろしく魅力が増幅した1作。あのちゃんに似合う言葉、あのちゃんが歌うべきメロディ、あのちゃんでこそ最大出力になる音楽。thatと訳されるような抽象的な名前を冠しながら、これ程に強烈な記名性を持つ彼女は闇も光も飲み干す自由の化身になった。
16位 曽我部恵一『ハザードオブラブ』
途方もなく多作でありながらその作品の全てに画期性を宿す"うた職人"による本年の新作。雑多な生活の風景の中に立ち上がる鮮烈なポエトリーに胸が熱い。麦チョコから戦車までの羅列、暴発寸前の経済への不安、そして心象へと軽やかに飛躍していく「逃げ水」など、詩の気迫が凄まじい。より小さな規模感の音像と短尺の楽曲たちで驀進していく、愛と怒りの並列運転だ。
15位 Kyrie『DEBUT』
岩井俊二監督の映画「キリエのうた」からスピンアウトした、劇中シンガーによる1作。小林武史、岩井俊二、アイナ・ジ・エンドの3名が登場人物の音楽として編んだメロディと言葉が多角的に虚構を演出していく。そして一級品のポップスアルバムとして現実へと滲出したそれは、映画とも地続きな祈りを我々の生きる世界へと捧げる。虚実や時間の境界を跨ぐ説得力がある。
14位 NEE『贅沢』
気鋭バンドの2ndアルバム。より大きなフィールドを見据えつつ、どの曲にも特有の“乾き”と“渇き”があり、カオティックかつ暴力的なサウンドの中に諦念とハングリーさが混ざる。練り込まれているのに荒々しく鳴らされる衝動だけでは到達できないリッチな騒音。孤独を消費したり、傷跡に価値をつけることなく、芸術として放てるロックバンドの最前線ではないだろうか。
13位 PAS TASTA『GOOD POP』
ウ山あまね、Kabanagu、hirihiri、phritz、quoree、yuigotから成る合同プロジェクトの1stアルバム。破裂しそうなコラージュ・エレクトロでありつつ、タイトル通り本当に“グッドポップ”なのが最高だ。ちゃんと口ずさめる歌なのに今何が起きたんだ?!みたいな速度で置き去りにしてくる。全員がニコニコしながらぶん殴ってくるような快活なマッドさを生む才能の衝突だ。
12位 peanut butters『peanut butters Ⅱ』
新進ポップユニットによる2nd。ボーカルが穂ノ佳に変わり、どうなるかと思っていたけど、低温なのにふんわりとしたテイストが抜群の相性。前作にローファイでファニーな小気味良い楽曲が並ぶ中、サーフロック、歌謡曲、ハードロックなどのエッセンスもまぶした幅広い仕上がり。真意を煙に巻くような歌が多いけど、その中にこっそりと諦めらなさが漲ってるのが好き。
11位 indigo la End『哀愁演劇』
2年8ヶ月ぶりの8thアルバム。これまで培ってきたエッセンスを集大成のように混ぜ込み、演劇というコンセプトを設けてまとめたバリエーション豊かな1枚。「ヴァイオレット」や「プルシュカ」といった引用元の明確な曲も増え、川谷絵音が身を切りすぎずに歌詞を書くようになった好変化。シアトリカルであり、ドープでもある。ギターロックはここまで深く潜りこめる。
10位 Homecomings『New Neighbors』
ひと息つきながら暮らしを見つめる素晴らしい歌たち。繰り返される“花束”のモチーフには誰かを想う愛しさとともに失うことへの眼差しもあり、どんな感情にも寄り添ってくれる。新アンセムの「US/アス」が象徴するような、“ひとりでもふたりでもない”という開かれた、しかし結ばれた信頼を歌う曲たちは現代の少年少女にこそ届いて欲しい。堕落と退廃だけに身と心を置かないでくれ。自分を守り、愛するためのヒントはここに沢山あるはず。
9位 マカロニえんぴつ『大人の涙』
メジャー3rdアルバム。既発曲のコントロール力が見事である。ヒット曲をフリに使い、無軌道なユーモアを全開にして、"シーンの最前線にいるバンド"としての立ち位置を真剣に遊び尽くしてる。ところがアルバム覆い尽くすのはその題が象徴するほろ苦さややるせなさだ。30歳前後、いつの間にか零せなくなった弱音が、はっとりの絞り出す歌声に乗せて開示されてしまう。カタルシスになりきれない想いをぶら下げて、前を向く勇気が湧いてくる。
8位 家主『石のような自由』
2年ぶりの3rdアルバム。ライブバンドとして各地を沸かせながら、彼らの活動は割と気まま。日々の趣味ごとの延長にロックンロールがあるような。この題が示唆するのはそういうムード。作ろうと思って出す感じじゃない、メモ書きとか夜食みたいな着飾らなさが心を緩めてくれる。牧歌的でありながら真理を突き、のどかなようでエネルギッシュ。明確なメッセージを正確に届けるだけじゃ、つまんない。家主の歌が面白いのはそうじゃないからだ。
7位 ずっと真夜中でいいのに。『沈香学』
当代屈指のサイバーファンクバンドによる3rdアルバム。1音目から華やかすぎて笑うしかない。ひたすら気持ち良く、高揚感のツボを突き続けるアルバム。ゴージャスさとトリッキーさを折衷した編曲と言葉遊びに内省を隠した詩世界、この魔合体は混乱と狂騒の渦にリスナーを引きずりこむ。底抜けのポップさの陰にある、やりきれない夜に浸れる感傷のバランスも配合。ステージパフォーマンスのみならず、録音物として破格のクオリティへと到達。
6位 odol『DISTANCES』
2年半ぶりの5thアルバム。繊細な装いで美しいメロディを包み込んだ曲とやや異質なアレンジで不思議な心地へ誘う曲が交互に現れる構成が"沁み"と"驚き"の両方をくれる。丹念に作り込まれたサウンドテクスチャーは、暮らしへの浸透度も凄まじい。そこに重ねられた解像度の高い生活感情の描写が心を掴む。仕事の帰り道、運転する車のフロントガラス、そこから見えた夕焼けをぼんやりと眺めている時間、このアルバムは最上のひと時を彩っていた。
5位 UNISON SQUARE GARDEN『Ninth Peel』
構築美を取っ払い1曲ごとに粒立て、新鮮な編曲の数々が豊かさを生むリラックスモード。そして過去イチ“何を歌ってるのか”が分かるアルバム。8枚分の鎧を剥ぎ、9枚目で素直で自由な人間味が露わになったというわけか。
4位 カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』
疲れ冷え切った身体に染み渡る開放的な歌と歪んだギター。ノイズワークは安心と不安、変わりたい/変われないわたし、揺れるこころ(psykhē)をまるごと包み抱えてくれる。メンバーは変われど芯は変わらない、抜群の信頼度。
3位 スピッツ『ひみつスタジオ』
3年ぶりの17thアルバム。自分が音楽を好きになる前からずっとそこにいる存在すぎて、毎作「いいっすねー」と当たり前のように感じてきたが、本作は目を見開いて大傑作であると推したい。コロナ禍を経て、時代の移ろいを経て、繋がりはより濃く、生き様はより鋭く。ロックバンドとして安い反骨ではなく、この世界に向け何を投げかけるかを磨き続けるその姿。ブレない提言と意欲的なアイデアに満ちた、何枚目かのブレイスクルー作だ。
2位 ASIAN KUNG-FU GENERATION『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』
2008年の名作に5曲を追加し、再録を行った11thアルバム。Y2Kブームのような共有されやすい”懐かしエモ“が躍如する時代に個人的ノスタルジアを全開にし、爽やかな旅情も甘酸っぱさに経年変化を加えてより奥深い味わいに。40代後半のアジカンだからこそ鳴らせる音で、”あの頃“へと想いを馳せ続ける。変わらないもの、変わっていくもの、その両方が我々の人生へと語りかけてくる。海と郷愁、風とロマン、波を感じて、今を生きなきゃ、と。
1位 羊文学『12 hugs (like butterflies)』
メジャー3rdアルバム。横浜アリーナワンマンというオルタナティブロック未踏の地へと至る直前にこれほど削ぎ落した1枚を出せることに感服。前作で広げつつあったアレンジバリエーションを一旦抑え、荒々しさと洗練を共存させるシンプルなアンサンブルへと到達。また、押し付けたり、説明的になるわけでなく、セルフケアへと導く言葉たちも美しい。時にボロボロになる程の揺れる生活と、どうしようもなく戸惑う心、それでも“行く”や“GO”という一言を随所に散りばめる意志が僕らのことも抱きしめる。次へと進む寸前の心に宿る温かさと、過去を残す寂しさ。そのどちらも、生きるうえで格別に大切なものだと伝えてくる。時代を象徴するバンドへ、大いなる一歩。
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